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1章 

冬越えが近付く

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 季節が十一月になり、もう備蓄倉庫は満杯で、小屋の外はいつも霜が降りて朝起きるのが辛くなり始めた。
外はいつも曇り空で、陽が落ちるのも早くなってきた。
食料は外に取りに行っても何も無い状態になって、本当に冬越えの厳しさがジリジリと近付いてきていた。

 底冷えして足元は寒くてかじかむし、手も指先が赤くなる。
私の朝の日課は、暖炉だんろに火を入れる事から始まるようになった。暖炉に火を入れると暖炉の中にフックがあって中にお鍋を掛けられる。その中に鶏肉、お水、ビルズ芋、ワイン、ソーセージ、エバーナの実のスライス、塩、コショウにチーズを入れて、部屋全体が温まる頃に食べごろに煮たつ。

「ご飯だよー」
「ワフッ!」

 ベッドから部屋が暖まるまでは絶対に出てこないデンちゃんは「ご飯」でようやく起きて出てくる。
デンちゃんにはウサギ肉を水煮にした物を冷ました物を出し、私はお鍋でごった煮にしたスープを木のスプーンでお皿に入れて、テーブルの上に置くと「いただきまーす」と食べる。

 ゲッちゃんは冬眠でもしているのかと言うぐらい起きなくなった。
たまに起きてはご飯の木の実を食べて、また網籠の中で寝てしまう。鳥に関しては私は飼ったことが無いから知識が無くて、詳しい事は分からない。
ただ、たまに寝ぼけてテーブルの上でガクンと首が下がるのを見ると笑っちゃうけど、ゲッちゃんは基本、冬は寝るのかな? と思っている。

「んーっ、今日もスープが美味し―! チーズの塩気とソーセージが出汁になっててうま~っ」

 紳士さんのベーコンとソーセージは備蓄庫に入れているだけなのでカビちゃいそうだなーとか、思っていたけど、一ヶ月以上経っても何ともないので、燻製の物は大丈夫なのかな? と、思っている。
もし、駄目になっていたら……ゼキキノコの腹痛止めを我慢して飲むしかない。
風邪にも、腹痛止めにも効く万能キノコ……たっぷり作ったけど、恐ろしく苦くて不味いんだよね。
生理痛で飲んだら、ほんのり甘い一口の後で苦みが爆発して悶えたよ。
お腹の痛みは緩和されたから良いけど、好き好んでは飲みたくないなぁって味。

 食事が終わるとお皿を洗って、文字の勉強をする。
ここにある書物をお手本にしているから、自分が欲しい文章を探すのも結構時間が掛かるし、良い時間つぶしにはなってる。

「ワフワフッ!」
「はーい。お散歩だね。行っておいでー」

 デンちゃんは相変わらず、お散歩をこんな霜が降りた朝でも元気に行く。
またデンちゃんは大きくなって、今は柴犬サイズから秋田犬サイズへと大きくなった。
成長期なのかなぁ? 
それに散歩時間が長くなった。
最近では朝出ると、帰って来るのはお昼ぐらいで、たまに鳥を咥えてきたりするから、庭で焚火をしつつ、お鍋で鳥の羽をむしったりしてる。
デンちゃんのご飯にそれはしているから、デンちゃんは自給自足な感じかな?

 そろそろウサギ肉も無くなるから、ガラス瓶が一つ開くので綺麗に煮沸洗いをして、暖炉で温めた料理をガラス瓶に移したりして保存するのも良いかなー? と思ってる。

「さて、勉強しないとね」

 本を読みながら、自分に使えそうな文字を探して、いつの間にか本をただ読むことに熱中してる時もしばしばある。
料理の本は、私が知っている料理本と違って、「アバール山岳地方の商人から面白いキャバナという芋を貰ったんだ」と、芋の絵が描いてあって、料理方法が書いてあるんだけど、著者がたまに「あの商人の樽の様な腹はキャバナ芋の美味い料理を食ってたからだな。私もそうなりたいものだ。美味い物と言えば、アバール山岳地方には美味い酒があるんだ」と、横道にそれた話を書いていたりして、それが面白い。

 この小屋で暮らしていた人は、料理本や狩りとかサバイバル系の本が多くて、どんな人なのかと思う。冒険物は古びた感じの本ばかりで、本と言うより巻物っぽいものとかもあって、この世界の冒険家で武器の収集家でもしていたのかなぁ? と思ったりする。

 本を読んでいると、暖炉の温かさに少しウトウトしててしまう。
デンちゃんがドアをカリカリと引っ掻く音で目を覚まし、開けると、ブルッと小屋に入る前に体を震わせてから入って来る。

「デンちゃん、おかえりー」
「ワフッ!」
「寒かったでしょ?」

 デンちゃんの頭を撫でると、毛が冷たい為に外の寒さは相当だなぁと感じる。
竈の近くに置いているデンちゃん用の水容れで水を飲んでから、デンちゃんは暖炉の前で丸くなる。
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