【完結】あの人が欲しい

赤牙

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二人の結末 ①

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俺達が監禁されてから早いもので5年が経つ。

今の俺達がどうなっているかと言うと……俺は今まで着たことのない上等な服を着せられ、だだっ広い豪勢な部屋の中で一人ポツンと座っている。

しばらくすると、隣の部屋の扉が開きエンジュが出てくる。

「やっと交渉が終わりました。帰りましょうダンテさん」

俺の姿を見るなりエンジュは駆け寄ってきて、俺の腕を抱き締めるように絡ませてくる。

「あぁ……。お疲れ様、エンジュ」

エンジュに労いの言葉をかければ、嬉しそうに目を細めて眩しい笑顔を俺に向けてくれる。

5年の月日を経たエンジュは可愛らしいのは相変わらずだが、成長しそれに加えて色気も纏い始めている。
女性だけならず男性をも虜にしてしまう美貌に、エンジュが夜会などに行けばすぐに人だかりができてしまう程だ……。

「ダンテさん……。僕、明日は休みなんです……。今日は抱いてくれますか?」
「それは命令か?」
「ふふ。命令じゃなくてお願いですよ。だって……こんな傷物の体を見せられるのはダンテさんだけですからね……」

小さく笑みを溢しながらエンジュは首筋に残った俺の噛み跡を見せてくる。
それを見せられては俺は何も言えやしない……。

「分かったよ……」
「ふふ。やったぁ~」

無邪気な笑顔で俺に抱きついてくるエンジュ……。

監禁され狂った老人の前でエンジュを抱いた日から俺の人生は更におかしくなった。

あの老人の家で一年近く過ごし、俺達は何度も何度も体を重ねた。
薬で無理矢理発情させられた時もあったが、回数を重ねれば薬を使わずとも俺はエンジュの体を抱く事ができた……。
最後の方に至っては、老人がいなくても二人で体を重ねてしまった時もあった程だ……。

そんな狂った生活が終わりを迎えたのは老人が死んだ時だった。
だが、それは始まりでもあった……。

老人の死とともに助けがやってきたのだ。
訳もわからず俺達は保護されて……行き着いた先はどデカいお屋敷……。
そして、そこでエンジュの正体が明かされる。
エンジュの正体は……俺が失態をおかした事件の被害者で公爵家の跡取り息子だった。

情報が多すぎて訳が分からずにいると、エンジュの従者であるアダンがことの経緯を説明してくれた。
エンジュは実の父親により、あの老人に売られたようだ。理由は父親が事業に失敗し多額の借金を返すためだと言っていた……。
父親は誘拐されたように見せかけてエンジュを売り飛ばしたまではよかったが、結局悪事は暴かれエンジュと俺は助け出されたようだ……。

エンジュは自分が拐われた本当の理由は知らない。
まぁ……実の父親に借金の為に売られ奴隷堕ちさせられたなど知ってしまえばショックどころの話ではないよな……。

「ダンテ様。くれぐれもエンジュ様には真実を知られないようにお願いします」
「あぁ……。分かった……」
「それとですね……。ダンテ様にはしばらくの間、エンジュ様の傍にいていただきます」
「……どうしてだ?」
「エンジュ様を診察した医師によりますと、今回の事件によりエンジュ様の精神面はとても不安定となっております。それをダンテ様に支えていただきたいのです」

アダンの提案に俺は少し考える……。
俺がエンジュの傍にいる事が本当に支えになるのだろうか……?
あの老人に命令されたからといって無理矢理犯した相手だぞ……。近くにいる方がエンジュにとって負担になるんじゃないのか……?

「俺がエンジュの傍にいれば逆効果だと思うのだが……」
「そんな事はありません。一年間、貴方ダンテ様という支えがあったからこそ、エンジュ様は精神が壊れずに監禁生活の日々を過ごせたと言っても過言ではありません。助け出した今、エンジュ様を傷つける者はいません。しかし、医師によれば元の生活に戻っても、ふとした瞬間に監禁されていた時の記憶がフラッシュバックしてしまうそうです。その時にダンテ様という支えがなければエンジュ様は狂ってしまわれるかもしれないとの事です……。お願いします、ダンテ様……貴方にエンジュ様を守っていただきたいのです……」

俺に頭を下げてくるアダンを見つめグッと拳を握りしめる。

一度ならず二度も不幸な目にあったエンジュ……。
そして、エンジュの数奇な運命に二度も関わってしまった俺からすれば他人事には感じられない……。

一度目で『守る』と誓った約束も果たせていない今……俺が出す答えは一つだけだった……。
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