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二人のお兄さん ①

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イーゼル様はその後、レノー様の主治医である、アッサム様に診察してもらう。
毒は万能薬により解毒され問題はないが、念のため数日は安静にし様子を見るようにと言われる。

イーゼル様は、これ以上の迷惑はかけられないので帰国すると言われたが、レノー様がそれを拒否する。

「帰還途中で貴公が倒れた場合、ヴァントーラ公爵家は傷ついた者を助けもしない薄情者だと噂されかねない。貴公はそれをお望みかな?」

レノー様の深い笑みに、イーゼル様は首を横にふり、数日の間ヴァントーラ家で過ごすこととなった。
申し訳なさそうな表情を浮かべるイーゼル様を連れ、滞在中に使用していただくゲストルームを案内する。

「イーゼル様、湯浴みの準備ができているので、ご案内しますね。その後、夕食を一緒にどうかと、レノー様が申されていましたよ」
「何から何まですまない。では、お言葉に甘えさせていただくよ」
「はい」

ゲストルームに備え付けられた浴室へと向かい、イーゼル様が身につけていた防具を外す手伝いをしていく。
防具は壊れている部分が多く、森の中での激しい戦いを物語っていた。
カチャカチャと外していくと、イーゼル様が声をかけてくる。

「防具を外すのに慣れているようだね。ココくんも使用するのかい?」
「いえ、僕は戦闘はからきしダメなんです。ですが、一緒に働いている方がイーゼル様と同じような防具を使用されているんです。装着を手伝う事もあるので慣れているんです」

リアムさんもイーゼル様と同じような防具を使用していたので、着脱のお手伝いくらいはなんてことはない。
少しコツのいる胸当てのフックを取り外すと、イーゼル様に手渡す。

「そうなんだね。そういえば、万能薬を作ったのはココくんだとレノー様はおっしゃっていたが、一角獣のツノはどうやって手に入れたんだい? もしかして、以前からあの一角獣と親しいのかい?」

イーゼル様は好奇心旺盛に話しかけてくる。

「実は万能薬は、僕が作った訳ではないんです。一角獣シュヴァルのツノを手に入れてくれたのも、万能薬を作ったのも全て、一緒に働いているリアムさんという方のおかげなんです」
「ほぅ……それは凄い。レノー様に仕えるということは、一流の者なのだろう。しかし、リアムという名は初めて聞くな。一角獣のツノを切り落とし、万能薬を作れるほどの人物となると、名くらいは知っていてもよさそうだが……」
「えっと……リアムさんは、記憶を失ってしまい自分が誰なのか、名前さえも覚えていない状態なんです」
「そうなのか……」
「けれど、もしかしたらイーゼル様はリアムさんのことを知ってらっしゃるかもしれませんね。リアムさんの剣の腕は本当にすごいんですよ! 魔法も使えて、強くて、優しくて何でもできる方なんです」

リアムさんはこんな所がすごいんだと興奮気味に説明すると、イーゼル様は嫌な顔一つも見せずに話を聞いてくれる。

「ココくんの話を聞いていると、私の親友を思い出すよ。強くて真っ直な性格をしていて、困っている者がいれば、すぐに手を差し伸べる優しい奴なんだ」
「そうなんですね。明後日にはリアムさんも屋敷に帰ってくるので、その時はイーゼル様に紹介しますね」
「あぁ、楽しみにしているよ」

イーゼル様はリアムさんのことを気に入ってくれるような気がして、紹介するのとても楽しみになった。



イーゼル様は屋敷に滞在中、何もしないのは申し訳ないと僕の仕事を手伝おうとしてくる。
客人にそんなことはさせられないと断ったも、聞かないイーゼル様。
穀物の入った重い袋を軽々と抱え「どこに運ぶんだい?」と、爽やかに微笑む姿は、なんだかリアムさんに似ていた。
仕事がひと段落したあと、イーゼル様の願いでシュヴァルに会いに森の中へ。
すると、屋敷付近の茂みからシュヴァルは真っ白な顔を覗かせる。

「シュヴァル! もしかして、ずっと近くにいてくれたの?」

シュヴァルは「そうだ」と言いたげに、鼻をならしイーゼル様に視線を向ける。
イーゼル様は、治った右腕でシュヴァルに手を降り、優しく撫でる。

「君のおかげで元気になれたよ、シュヴァル。私を助けてくれてありがとう」

シュヴァルは尻尾をパタパタとふり、嬉しそうにイーゼル様の手に鼻先をこすりつける。
その仕草は、リアムさんに甘えている時に近い。

「シュヴァルが甘えていますね。イーゼル様のことが、好きみたいですよ」
「ハハ、私も君のことがとても気に入ったよ。できれば、連れて帰りたいくらいだ」

笑顔で冗談を言うイーゼル様と笑い合い、楽しい時間を過ごした。



それから二日後。
今日はリアムさんたちが帰ってくる日だ。
僕は久しぶりに会えるリアムさんに、胸をウキウキさせながら帰りを待つ。
お昼ごはん前になると、カタカタと石畳を蹴る馬の蹄の音と、ガラガラと車輪の回る音が聞こえてくる。
使用人が出入りする入り口へと向かい、ドアを開ければちょうど馬車が止まる。
そして、リアムさんの姿があらわれる。

「ココ、ただいま」
「リアムさん、おかえりなさい」

ヘヘッと笑顔を向け、お出迎えすればリアムさんの逞しい腕が僕の体を捕まえて宙に浮く。

「ん~……久しぶりのココだぁ」
「リ、リアムさん!? わ、ちょっと、どうしたんですか!?」

リアムさんは僕を抱きしめて胸元に顔を埋める。
身動きのとれない僕は、どうしたらいいのか分からず目の前にあるリアムさんの頭をとりあえず撫でる。
マーサさんは、あらあらと微笑み、ダンさんは僕たちを見て呆れた顔をしていた。


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