奴隷の僕がご主人様に!? 〜森の奥で大きなお兄さんを捕まえました〜

赤牙

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治療のお願いをしに行こう! ②

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レノー様の表情の険しさに、僕は思わず固まってしまう。イーゼル様の方を見れば、姿勢をただしたまま真っ直ぐレノー様を見つめていた。

「ヴァントーラ公爵様、許可もなく領地に侵入したにも関わらず私との対話の場を設けていただきありがとうございます。今回、私がヴァントーラ公爵家の領地に足を踏み入れてしまった理由を話させていただきます」
「あぁ」

それからイーゼル様は、僕と出会う前の状況を話始める。

隣国では最近になり魔獣による被害が多くなり、イーゼル様が率いる騎士団が深淵の森へと調査に向かった。
しかし、森の奥地にしか生息しないマンティコアなどの大型魔獣が森の中腹まで移動してきており、予想していない事態に騎士団は壊滅状態まで追い詰められた。
イーゼル様以外は転移石で逃げることができたが、マンティコアと一人で対峙することになったイーゼル様は重傷を負う。
そして、森の中を彷徨っている間に国境をこえて、レノー様の領地までやってきてしまったようだ。

イーゼル様の話を聞いている間、レノー様はの眉間のシワは深くなるばかり。
僕も二人の雰囲気にのまれるように緊張してしまう。

「今回の事態は、私の考えが甘く起きてしまったことです。ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません」

イーゼル様は深々と頭を下げる。レノー様は、少しの間、沈黙したあとに深々とため息を吐く。

——レノー様は、イーゼル様の話を信じられないのかもしれない……。

険しい表情のままのレノー様に、僕とイーゼル様は不安の色を浮かべる。

「公爵様にとっては信じがたい話でしょう。ですが……」
「……いや、事情はよく分かった」
「———! 私の話を信じてくださるのですか?」
「森にすむ魔獣の生息域が変わっているのではないかと報告は受けていた。だが、その影響がそこまで広がっているとは思わなくてな……」
「そうだったのですか……。ヴァントーラ公爵様は、今回の魔獣の移動の原因について何かご存じでしょうか? 奥地にすむ大型の魔獣が恐れるほどの脅威がうまれたと私たちは考えています」

イーゼル様の言葉に僕も恐怖を覚える。
あの森の奥で、そんな恐ろしい魔獣がうまれていたなんて知らなかった。

———リアムさんが帰ってきたら知らせないと。

そう思っていると、レノー様は再度大きなため息を吐く。

「その原因についてだが、心当たりはある。そやつのせいで私も色々と迷惑をこうむっているからな」
「えっ!? そうなのですか、レノー様!」

僕は驚き思わず声を上げてしまう。
僕の知らない間に、レノー様が脅威にさらされていたなんて……。

「心配するな、ココ。その件については、もう解決している」
「そうなんですね」

僕は、その言葉にほっと胸を撫でおろす。
だが、イーゼル様の不安はまだ拭えておらず、レノー様へ問いかける。

「ヴァントーラ公爵様、解決したとはどういうことなのでしょうか? 奥地に出現した新たな魔獣は討伐されたということですか?」
「討伐されたわけではないが、ある者が手綱を握っておる。私の支配下にもあるので、これ以上の被害は起きないだろう。しかし、魔獣の生息域が固定されるには時間はかかるかもしれないな……。そちらについては、私も調査を続け対応しよう。隣国にも必要な情報は提供しよう」
「ありがとうございます、ヴァントーラ公爵様」

イーゼル様は深々と頭を下げる。
レノー様の対応の速さに僕は感心してしまう。
やはり、レノー様はすごい人なんだ。

「それで、ココ。イーゼル殿を治療したいといっていたが……その右腕か?」

だらりと下がるイーゼル様の腕を見つめレノー様が問いかける。

「はい。マンティコアの毒で右腕は動かなくなってしまっています。このままではイーゼル様が……」
「ココくん。私のことは気にしなくて大丈夫だよ。毒も今は落ち着いているからね」
「ですが……」

イーゼル様は心配しないでくれと微笑むが、右腕の状態が良くないことは一目瞭然だ。
不安気な表情を浮かべたまま、レノー様に顔を向ければレノー様が口を開く。

「……ココ。金庫からあの薬を持ってきなさい」
「いいのですか、レノー様?」
「あぁ。騎士にとって右腕は命の次に大切なものだ。あのままでは、右腕を切り落とすことになるだろう」
「分かりました! イーゼル様、すぐに薬をとってきますから!」
「え!? あ、マンティコアの解毒剤は貴重で、そんな大切なものを私などに……」
「イーゼル殿、気にするな。ココが貴方を助けたいと言っているんだ。その気持ちを受け取ってほしい」

レノー様の言葉に僕も笑顔で頷くと、イーゼル様はまた深々と頭を下げる。
僕は金庫から万能薬の入った小瓶を取り出す。
キラキラと煌めく万能薬をみたイーゼル様は、目を見開く。

「もしや……それは万能薬では……」
「あぁ、そのまさかだ。ココが、私の病気のために作ってくれたものだ」
「だから、あのツノのない一角獣はココくんを主人として認めていたのですか……。ですが、万能薬を作るには相当の苦労があったはずです。本当に、私などがいただいてもよろしいのでしょうか?」
「かまわないな、ココ?」
「はい! もちろんです」

イーゼル様に笑いかければ「ありがとう」と微笑み返してくれる。
万能薬をスプーンですくい、イーゼル様に渡すと小さく頭を下げ万能薬を飲み込む。
すると、すぐに効果がでる。血の通っていなかった肌に血色が戻り、動かなかった指先がピクリと動く。
イーゼル様は再び動いた自分の腕を見て、唇を噛み締める。

「……本当に……本当にありがとうございます」

イーゼル様はうっすらと涙を浮かべ、嬉しそうに微笑む。それを見た僕とレノー様も、イーゼル様の様子に嬉しくなって一緒に微笑みあった。


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