上 下
32 / 38

白騎士イーゼル ②

しおりを挟む
深淵の森へと続く村の入り口へと到着すると、すでに村人達は退避しており待機していた騎士団員達の姿のみだった。

「現状の報告を頼む」
「はっ。魔獣の状況ですが、村の近くではすでに数体のオークを確認しておりすでに討伐隊を向かわせております。オーク以外の魔獣を確認しております」
「そうか。報告ありがとう」

情報を確認しすぐに森の入り口へと向かう。
普段は穏やかな森も魔獣の移動によりざわめいているように感じる……。

「皆、準備はいいか。これから森へ入るが私達の目的はあくまで調査だ。今回は魔獣の討伐ではない為、無理はするな。隊列を整え各自周囲の警戒を怠るな」
「「「はっ!」」」

団員達へ声をかけ、私は深淵の森へと足を踏みいれていく。森の中は張り詰めた空気で満ち溢れ、魔獣達が互いの縄張りに侵入する者達に警戒心を剥き出しにしている。
木々が薙ぎ倒された後もみられ、魔獣同士の争いがあったのも確認できる。

「イーゼルさん……。もう少し奥へと進みますか?」
「あぁ。できれば新たに出現した魔獣を確認できればいいが無理はしない。もし、何かあればすぐに撤退だ」

若い団員は森の奇妙な雰囲気に少し不安気な表情を浮かべる。
こんな時にロンヴァルトがいれば、豪快に笑いながら「安心しろ。俺が絶対に守るから」と声をかけるのだろうな……。

「不安だろうが何があっても必ず私が皆を連れ帰るから安心しろ。最悪の場合でも転移石がある。まぁ、使った後は団長から小言を言われる日々が続くんだろうがな」

団長から渡された転移石を手に取り団員に見せれば少し安心した表情を見せる。転移石は高価な物なのでいつも渡される訳ではない。こういった危険な調査の場合は、団長の権限で使用が認められている。集団で使用する転移石は大きく値段も跳ね上がるので、使えば数日間今年の予算がぁ……などと小言を聞く羽目になるが団員達の命には変えられない。

しかし、この石があるだけで団員も……そして私も安心を手にする事ができる。
それほどに、森の中は異様な空気に満ち溢れていたのだった……。

†††

それから奥へと奥へと進んでいけば、茂みは深くなり大きな大木の葉に陽は遮られる。どこからともなく聞こえてくる魔獣の鳴き声に、団員の神経はすり減らされ戦闘をしていないのに皆疲弊した顔を見せる。

一度休憩を取る必要があるか……。

そう考えていた時、前衛の兵士の叫び声が森の中に響き渡る。

「前方にマンティコア発見!」

マンティコアの名前を聞いた私や団員達は一気に戦闘態勢に入り、前衛へと向かう。前衛の団員達は剣を抜き一方向を見つめる。
団員達の見つめる先には大型魔獣マンティコアが私達を見つけ嘲笑うような表情を見せていた。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...