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リアムの過去 ⑤
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騎士の仕事よりも『英雄』としての仕事が多くなるが、英雄の仕事はハッキリ言って最悪だ。
王の護衛という名目で隣に立つが、俺はまるで見せ物のようだった。
王は俺の出生について話し、孤児で生まれ育ち苦難を乗り越えた俺を馬鹿みたいに褒め称える。
色々な場所で同じ話を聞かされ俺は耳にタコができそうだったが、その話を聞いていた国民達は皆羨望の眼差しで俺の事を見てきた。
俺はあんた達が想像しているほど出来た人間じゃないんだけどなぁ……。
イーゼルにその事を愚痴れば「英雄とは憧れの象徴だからな」と、笑顔で諭された。
そんな風に思えるイーゼルの方がよっぽど英雄に向いてると思うんだが……。
英雄なんて名前だけで……本当にくだらない。
こんな事をしてる暇があったら各地に出向いて魔獣を狩っている方がよっぽど有意義なんだが……。
そんな事を思いながら、イーゼルに励まされ俺はなんとか英雄の役目を果たしていく。
そして、いつものように夜会に連れていかれ、貴族達のご機嫌取りに付き合わされた俺は大きなため息を吐きながらバルコニーへと逃げ出す。
最近は夜会にも慣れ、最初の挨拶回りが終われば俺の役目は無くなり姿を消しても大丈夫だと言うことが分かった。
後は頃合いを見つけて戻ればいいだけだ。
退屈な日々と緊張感のかけらもない生活に……俺は油断していた。
「ロンヴァルト様。こんな所で休憩ですか?」
声をかけられ振り向けば、なんとなく見覚えのある男性……。
「あぁ、確かイーゼルの弟の……」
当たっていたのか男性はニコリと笑みを溢す。
「覚えていただいていたようで光栄です。英雄ロンヴァルト様」
「ハハ……」
イーゼルの弟タリスはやけに他人行儀な言葉を使って俺の方へとやってくる。英雄になる以前に会った時は、素っ気ない態度をとられたが……やはり英雄になるだけでこんなにも違うのか……。
タリスは両手にグラスを持っており、一つを俺に渡してくる。
「これは……?」
「ロンヴァルト様が英雄になったと聞いて準備していたお祝いのワインです。お口に合うかどうか……」
「ありがとう。じゃあ、いただくよ」
タリスから渡されたワインで乾杯をし、グラスに入ったワインを飲み干す。タリスは優雅にワインを味わうように飲み、ワインの飲み方も味わい方も知らない俺とは真逆だ。
「ワインの味はどうでした?」
「あぁ……うまかったよ」
はっきり言ってうまいかどうかなんて分からなかったが、タリスを目の前にそんな事は言えない。
「よかったです。準備した甲斐がありました。ところで兄さんは元気ですか? 最近、家にはほとんど帰ってこないので……」
「イーゼルは今、遠方の魔獣討伐に行っているからな……俺も会えてないんだ」
「そうですか……」
心配そうな表情を浮かべるタリスに「イーゼルなら大丈夫だ。心配しなくてもいい」と、声をかけようとした瞬間、グラリと視界が揺れる。
いや……視界が揺れたと言うよりも立っていられず俺は床に膝をつき倒れ込んでしまう。
足や体全身に力が入らずにもがいているとタリスが声をかけてくる。
「あぁ……。やっと貴方に相応しい格好になりましたね」
「タリス……何を……」
「孤児の分際で僕の名を気安く呼ぶな! まったく……こんな奴が英雄だなんて……。ほんとこの国の王は頭がイカれてる……」
ブツブツと国や俺の不満を呟くタリス。
油断してしまった……。
俺が英雄になり義父母の陞爵の噂が流れ、侯爵家や公爵家からは非難する声がちらほらと届いていたことは知っていたが……まさか直接俺を狙ってくるとは……。
「俺を……どうするんだ……」
「どうするって……貴方には消えてもらいます。英雄に相応しいのは……兄さんだ」
タリスは憎しみのこもった瞳で俺を睨みつけると、片手を上げ合図を送る。
すると隠れていた者たちがやってきて、俺は抱えられ何処かへ連れて行かれた……。
王の護衛という名目で隣に立つが、俺はまるで見せ物のようだった。
王は俺の出生について話し、孤児で生まれ育ち苦難を乗り越えた俺を馬鹿みたいに褒め称える。
色々な場所で同じ話を聞かされ俺は耳にタコができそうだったが、その話を聞いていた国民達は皆羨望の眼差しで俺の事を見てきた。
俺はあんた達が想像しているほど出来た人間じゃないんだけどなぁ……。
イーゼルにその事を愚痴れば「英雄とは憧れの象徴だからな」と、笑顔で諭された。
そんな風に思えるイーゼルの方がよっぽど英雄に向いてると思うんだが……。
英雄なんて名前だけで……本当にくだらない。
こんな事をしてる暇があったら各地に出向いて魔獣を狩っている方がよっぽど有意義なんだが……。
そんな事を思いながら、イーゼルに励まされ俺はなんとか英雄の役目を果たしていく。
そして、いつものように夜会に連れていかれ、貴族達のご機嫌取りに付き合わされた俺は大きなため息を吐きながらバルコニーへと逃げ出す。
最近は夜会にも慣れ、最初の挨拶回りが終われば俺の役目は無くなり姿を消しても大丈夫だと言うことが分かった。
後は頃合いを見つけて戻ればいいだけだ。
退屈な日々と緊張感のかけらもない生活に……俺は油断していた。
「ロンヴァルト様。こんな所で休憩ですか?」
声をかけられ振り向けば、なんとなく見覚えのある男性……。
「あぁ、確かイーゼルの弟の……」
当たっていたのか男性はニコリと笑みを溢す。
「覚えていただいていたようで光栄です。英雄ロンヴァルト様」
「ハハ……」
イーゼルの弟タリスはやけに他人行儀な言葉を使って俺の方へとやってくる。英雄になる以前に会った時は、素っ気ない態度をとられたが……やはり英雄になるだけでこんなにも違うのか……。
タリスは両手にグラスを持っており、一つを俺に渡してくる。
「これは……?」
「ロンヴァルト様が英雄になったと聞いて準備していたお祝いのワインです。お口に合うかどうか……」
「ありがとう。じゃあ、いただくよ」
タリスから渡されたワインで乾杯をし、グラスに入ったワインを飲み干す。タリスは優雅にワインを味わうように飲み、ワインの飲み方も味わい方も知らない俺とは真逆だ。
「ワインの味はどうでした?」
「あぁ……うまかったよ」
はっきり言ってうまいかどうかなんて分からなかったが、タリスを目の前にそんな事は言えない。
「よかったです。準備した甲斐がありました。ところで兄さんは元気ですか? 最近、家にはほとんど帰ってこないので……」
「イーゼルは今、遠方の魔獣討伐に行っているからな……俺も会えてないんだ」
「そうですか……」
心配そうな表情を浮かべるタリスに「イーゼルなら大丈夫だ。心配しなくてもいい」と、声をかけようとした瞬間、グラリと視界が揺れる。
いや……視界が揺れたと言うよりも立っていられず俺は床に膝をつき倒れ込んでしまう。
足や体全身に力が入らずにもがいているとタリスが声をかけてくる。
「あぁ……。やっと貴方に相応しい格好になりましたね」
「タリス……何を……」
「孤児の分際で僕の名を気安く呼ぶな! まったく……こんな奴が英雄だなんて……。ほんとこの国の王は頭がイカれてる……」
ブツブツと国や俺の不満を呟くタリス。
油断してしまった……。
俺が英雄になり義父母の陞爵の噂が流れ、侯爵家や公爵家からは非難する声がちらほらと届いていたことは知っていたが……まさか直接俺を狙ってくるとは……。
「俺を……どうするんだ……」
「どうするって……貴方には消えてもらいます。英雄に相応しいのは……兄さんだ」
タリスは憎しみのこもった瞳で俺を睨みつけると、片手を上げ合図を送る。
すると隠れていた者たちがやってきて、俺は抱えられ何処かへ連れて行かれた……。
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