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お兄さんと森の主を探しに行きます!

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翌日、マーサさんやダンさんに三日間のお休みが欲しいと相談すれば「頑張ってきなさい!」と、快諾してくれる。小屋に戻ればすぐにリアムさんと共に森へ出かける準備を始める。

森の主を捕まえるのに一応罠の準備もして……怪我をした時の薬や包帯の準備……水に食料……着替え……えーっと、それと……

「ココ? そんな大荷物を持って何処に行く気だ?」
「ふぇ……?」

色々と詰め込みすぎたリュックは僕の不安な気持ちを表すようにパンパンに膨れ上がっていた。

「えっと……何がいるのか考えてたらどんどん増えちゃって……」
「ハハ。確かに、考え出すと何もかも必要に感じるからなぁ……。でも、荷物は必要最低限にしておこうな。身軽な方が動きやすいぞ」

リアムさんの荷物は剣と小さなウエストポーチだけで、自分の荷物の多さに少し恥ずかしくてなってしまう。

「準備をしている時は色々と考えてしまうからな。この先何が起こるか不安になると荷物が増えてしまうよな……」

リアムさんはそう言って僕の荷物整理を手伝ってくれる。でも……その口ぶりは以前にも同じ経験をしたかのように聞こえた……。

『記憶が戻ったんですか?』

出会った当初なら簡単に聞けた言葉がすんでのところで止まる。聞いてしまえばリアムさんがここを去って行ってしまうかもしれない……そう思うと寂しさで胸がギュッと締め付けられる。
僕は聞かなくてはいけない言葉を飲み込むと「そうですね……」と、返事をしてリアムさんと荷造りをした。


荷物を減らし終えた僕達は森の奥へと向かった。
真っ青な青空に燦々と降り注ぐ陽光も、木々に覆われた森の奥深くには届かない。ひんやりとした空気に包まれ森の中をリアムさんの直感を頼りに進んでいき、今まで来たことのない奥地までやってきてしまう……。

陽も落ち始め奥地はどんどんと暗闇に包まれていき人が立ち入ってはいけない雰囲気に緊張してしまい、僕はそっとリアムさんの服の裾を掴んでいまう。

「リアムさん……こんな所まで来て大丈夫ですか……?」
「あぁ。獣達も俺達に警戒しているのか近づいてこないし大丈夫だ。それに……もう森の主に会えるぞ」
「えっ……!?」

リアムさんの言葉に驚き声を上げたと同時にガサッ……も茂みが揺れ……大型の一角獣が姿を表す……。
輝く白い体と額から伸びた太く立派なツノ……一角獣は僕達を見るなり興奮し足を鳴らす。

まさか初日に出会えるなんて思いもしなかった僕は、驚き足がすくむ……。湧き上がってくる恐怖に息をうまく吸い込めずにいると、リアムさんの大きな手がそっと僕の背中を撫でてくれる。

「ココ……大丈夫だ。恐ることはない。俺がいるから……」
「はい……」

リアムさんを見上げるといつもの笑顔を向けてくれる。少し恐怖が和らぎなんとか呼吸ができるが、目の前にいる一角獣はとても強そうで……。こんな獣を僕とリアムさんだけで捕まえる事などできるのだろうか……。

そう思っているとリアムさんが僕の前へと進み出て森の主へと剣を向ける。

「すまないが……俺のご主人様の願いを叶えさせてもらうぞ」

森の主へ語りかけると同時にリアムさんの姿が目の前から消え……いつの間にか森の主との間合いを詰めていた。森の主も僕と同じようにリアムさんの動きに反応できていなかったのか、突然目の前に現れたリアムさんの姿に驚き前足を上げ鋭いツノで襲い掛かろうとする。

「リアムさんっ!!」

僕の叫び声と重なるようにリアムさんの剣が弧を描く。森の主の悲痛ないななきが静かな森に響き渡り……ドサッとツノが地面に落ちる。
森の主は踵を返し森の奥へと逃げていき、その後ろ姿を呆然と見つめているとツノを片手に持ったリアムさんがこちらへとやってくる。

「ココ。これだけあれば十分か? 一応大きめには切ったんだが……」
「り、りあむさん……? 大丈夫……なんですか?」
「あぁ。大丈夫だぞ。ココの方こそ大丈夫か? 一角獣の威圧に当てられていたからな……苦しかっただろう?」
「もう大丈夫です……。あの……これって夢オチとかじゃないですよね……?」
「ハハッ。これは現実だよ、ココ」

ポンポンと頭を撫でられ、一角獣のツノを手渡しされる。両手でツノを抱えその重さを感じれば、夢なんかじゃないと実感して……嬉しさのあまりリアムさんに体当たりするように傍に駆け寄る。

「リアムさん……。本当に本当に……ありがとうございます」
「これくらいなんて事ないさ。だが、もう暗くなってしまったからな……ココ、今日はここで野宿してもいいか?」
「えぇっ!? こ、ここでですか……? 獣とか襲ってこないですかね……? さっきの一角獣も戻って来ないですか?」
「それは大丈夫だ。あいつ一角獣は俺に敵わないと分かって逃げ出したから俺がいる限り自分からは近づいて来ないだろう。それに、ここら辺りはさっきの一角獣の縄張りだから一角獣よりも弱い奴らは近寄って来ない。それよりも強い奴らは森のもっと奥深くにいるからな……。夜はそいつらが活動する時間だ。無闇に動き回るよりもここにいる方が安全だ」

さっきの一角獣よりも強い獣………。

想像するだけで怖くなった僕はリアムさんの言葉にコクコクと何度も頷き、僕達は一晩森の奥地で野宿する事になった。
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