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僕の事情
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服が汚れていないか確認して僕は厨房の裏口からお屋敷の中へ入っていく。
「ココです。今戻りました」
「ココ! 遅いぞ!」
戻ってくるなり大きな怒鳴り声が僕に降り注ぐ。そして、執事のデュークさんが眉間に皺を寄せ腕組みしながら仁王立ちしている。
「それで、成果はあったのか?」
「いえ……今日もダメでした……」
「はぁ……。『僕が必ず森の主を捕まえてみせます』だったか? そう言ってもう何ヶ月経つんだ?」
「三か月です……」
「その間にもレノー様は病に苦しんでいるんだぞ?」
「はい……」
レノー様の苦しむ姿を想像すると自分の事のように胸が痛む……。僕は自分の不甲斐なさのあまりギュッと拳を握りしめる。
「あの……レノー様の体調はどうですか? お食事は食べれていますか?」
「まぁ……変わらずといったところだな」
「まだレノー様に会えないんでしょうか……?」
「会える訳ないだろ? それに……そんな汚い格好でレノー様に近づかれては困るのだが。病を悪化させレノー様を殺したいのか?」
「す、すみません……」
今の僕は以前のように使用人の服を着ていない……。お金のない僕は着る服さえも買えずに、厨房のおばさんの息子のお下がりをもらっている。
……こんな格好じゃレノー様に会えないよね。
半年前。
レノー様は持病が悪化し体調を崩され床に臥せてしまわれた。
それでも、医師や使用人達の懸命な看病で少しずつだが改善していき、もう少しで以前のような生活が送れるかもしれないといった時に甥っ子にあたるゲスター様が屋敷へとやってきた。
レノー様の持病が悪化したと聞きつけてやって来たようだが、今は改善に向かっていると伝えるもゲスター様は「もっと早く良くなってもらおう」と言い自分のお抱えの医師に診察や治療を任せるようになる。
しかし……一旦快方に向かっていたのにレノー様の容態は再び悪化していく。
手足の痺れや体の倦怠感が強くなり、ベッドから起き上がれない日々が続く。僕達使用人も必死になってレノー様を看病したが状態は悪化していく一方だった。
それからはレノー様に代わりゲスター様がこの屋敷を仕切るようになる。ゲスター様お抱えの使用人がやって来るや否や、屋敷で働いていた使用人達は不要だとあっという間に解雇される。
屋敷に残ったのはわずか数名で……使用人にいたっては残っているのは僕一人だけだった。
レノー様と直接主従契約をしていた僕の所有権はレノー様にあるため解雇する事は出来ず、出来損ないの奴隷が屋敷にいるのは不快だと言われ……お屋敷からあの小屋へと場所を移した。
元々、レノー様の身の回りの世話は僕の担当だったのだが、デュークさんが屋敷の執事としてトップに立ってからは僕は屋敷の外での雑用を任せられている。
レノー様に会えない寂しさもあったが、何よりも恩人であるレノー様に何も出来ない自分自身に腹が立った……。
体は小さく要領も悪く労働奴隷として役に立たない僕は格安で性奴隷として売りに出されていた。幸せなど望むことすらできない僕に手を差し伸べてくれた優しい人……。
僕の人生に光を与えてくれたのがレノー様だった。
レノー様の為なら僕は何だってやる……。どんなに辛く苦しい事だって……。
そう思いながらレノー様の病気を治す方法を探していた時に、ある噂話を耳にした。
『森に住む主の角を煎じて飲めばどんな病気も治す事ができる』
森の奥深くにいると言われている主とは、頭部に一本の長い角を持つ美しい馬『一角獣』の事だ。
美しい見た目とは反対に性格は獰猛で、その長い角で自分よりも大きな獣もひと突きで仕留めてしまうらしい。
しかし、その角には治癒の効果があり万病に効くと言われているらしい……。
噂話だが、レノー様の病気を治す可能性があるのならば……。思い切ってデュークさんにその話をしてみたが鼻で笑われてしまう。
それでも、僕は諦めたくなかった……。
レノー様を必ず救いたい……。
こうして僕は一角獣について情報を集めて捕まえる為の罠を仕掛けた。
しかし、三ヶ月経った今もその成果は無い……。
それどころか、僕の仕掛けた罠でお兄さんまで傷付け記憶まで失わせてしまうなんて……。
デュークさんからの罵声を浴びながら、今日の出来事を思い出すとさらに気持ちが落ち込んでしまう……。
お説教が終わり厨房を通って小屋に戻ろうとすると、厨房の奥からマーサさんに手招きされる。
「マーサさん。どうしたんですか?」
「今日の食事……まだ食べていないだろ? これくらいしか残っていないけれど持って行きなさない」
マーサさんはパンを二つとスープの入った器を僕に手渡してくれる。
「ありがとうございます!」
「デュークに見つかるとグチグチうるさいからね……。あんたもちゃんと食べないと、レノー様が元気になった時にそんな痩せた姿を見せちゃ心配かけちまうよ……」
そう言うマーサさんも、デュークさん達が来てからは色んな仕事を押し付けられている……。
最近は忙しさのあまり体調を崩しながらも、レノー様の為にと頑張っている……。
「はい。しっかり食べてレノー様に元気な姿を見せますね」
僕が笑顔を見せればマーサさんも笑顔を返してくれる。
僕が頑張らなきゃ……。
レノー様を元気にして、また元の生活に戻るんだ……。
「よしっ!」と気を引き締めて、マーサさんからもらった食事を手に僕はお兄さんが待つ小屋へと戻って行った。
「ココです。今戻りました」
「ココ! 遅いぞ!」
戻ってくるなり大きな怒鳴り声が僕に降り注ぐ。そして、執事のデュークさんが眉間に皺を寄せ腕組みしながら仁王立ちしている。
「それで、成果はあったのか?」
「いえ……今日もダメでした……」
「はぁ……。『僕が必ず森の主を捕まえてみせます』だったか? そう言ってもう何ヶ月経つんだ?」
「三か月です……」
「その間にもレノー様は病に苦しんでいるんだぞ?」
「はい……」
レノー様の苦しむ姿を想像すると自分の事のように胸が痛む……。僕は自分の不甲斐なさのあまりギュッと拳を握りしめる。
「あの……レノー様の体調はどうですか? お食事は食べれていますか?」
「まぁ……変わらずといったところだな」
「まだレノー様に会えないんでしょうか……?」
「会える訳ないだろ? それに……そんな汚い格好でレノー様に近づかれては困るのだが。病を悪化させレノー様を殺したいのか?」
「す、すみません……」
今の僕は以前のように使用人の服を着ていない……。お金のない僕は着る服さえも買えずに、厨房のおばさんの息子のお下がりをもらっている。
……こんな格好じゃレノー様に会えないよね。
半年前。
レノー様は持病が悪化し体調を崩され床に臥せてしまわれた。
それでも、医師や使用人達の懸命な看病で少しずつだが改善していき、もう少しで以前のような生活が送れるかもしれないといった時に甥っ子にあたるゲスター様が屋敷へとやってきた。
レノー様の持病が悪化したと聞きつけてやって来たようだが、今は改善に向かっていると伝えるもゲスター様は「もっと早く良くなってもらおう」と言い自分のお抱えの医師に診察や治療を任せるようになる。
しかし……一旦快方に向かっていたのにレノー様の容態は再び悪化していく。
手足の痺れや体の倦怠感が強くなり、ベッドから起き上がれない日々が続く。僕達使用人も必死になってレノー様を看病したが状態は悪化していく一方だった。
それからはレノー様に代わりゲスター様がこの屋敷を仕切るようになる。ゲスター様お抱えの使用人がやって来るや否や、屋敷で働いていた使用人達は不要だとあっという間に解雇される。
屋敷に残ったのはわずか数名で……使用人にいたっては残っているのは僕一人だけだった。
レノー様と直接主従契約をしていた僕の所有権はレノー様にあるため解雇する事は出来ず、出来損ないの奴隷が屋敷にいるのは不快だと言われ……お屋敷からあの小屋へと場所を移した。
元々、レノー様の身の回りの世話は僕の担当だったのだが、デュークさんが屋敷の執事としてトップに立ってからは僕は屋敷の外での雑用を任せられている。
レノー様に会えない寂しさもあったが、何よりも恩人であるレノー様に何も出来ない自分自身に腹が立った……。
体は小さく要領も悪く労働奴隷として役に立たない僕は格安で性奴隷として売りに出されていた。幸せなど望むことすらできない僕に手を差し伸べてくれた優しい人……。
僕の人生に光を与えてくれたのがレノー様だった。
レノー様の為なら僕は何だってやる……。どんなに辛く苦しい事だって……。
そう思いながらレノー様の病気を治す方法を探していた時に、ある噂話を耳にした。
『森に住む主の角を煎じて飲めばどんな病気も治す事ができる』
森の奥深くにいると言われている主とは、頭部に一本の長い角を持つ美しい馬『一角獣』の事だ。
美しい見た目とは反対に性格は獰猛で、その長い角で自分よりも大きな獣もひと突きで仕留めてしまうらしい。
しかし、その角には治癒の効果があり万病に効くと言われているらしい……。
噂話だが、レノー様の病気を治す可能性があるのならば……。思い切ってデュークさんにその話をしてみたが鼻で笑われてしまう。
それでも、僕は諦めたくなかった……。
レノー様を必ず救いたい……。
こうして僕は一角獣について情報を集めて捕まえる為の罠を仕掛けた。
しかし、三ヶ月経った今もその成果は無い……。
それどころか、僕の仕掛けた罠でお兄さんまで傷付け記憶まで失わせてしまうなんて……。
デュークさんからの罵声を浴びながら、今日の出来事を思い出すとさらに気持ちが落ち込んでしまう……。
お説教が終わり厨房を通って小屋に戻ろうとすると、厨房の奥からマーサさんに手招きされる。
「マーサさん。どうしたんですか?」
「今日の食事……まだ食べていないだろ? これくらいしか残っていないけれど持って行きなさない」
マーサさんはパンを二つとスープの入った器を僕に手渡してくれる。
「ありがとうございます!」
「デュークに見つかるとグチグチうるさいからね……。あんたもちゃんと食べないと、レノー様が元気になった時にそんな痩せた姿を見せちゃ心配かけちまうよ……」
そう言うマーサさんも、デュークさん達が来てからは色んな仕事を押し付けられている……。
最近は忙しさのあまり体調を崩しながらも、レノー様の為にと頑張っている……。
「はい。しっかり食べてレノー様に元気な姿を見せますね」
僕が笑顔を見せればマーサさんも笑顔を返してくれる。
僕が頑張らなきゃ……。
レノー様を元気にして、また元の生活に戻るんだ……。
「よしっ!」と気を引き締めて、マーサさんからもらった食事を手に僕はお兄さんが待つ小屋へと戻って行った。
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