2 / 38
お兄さんをお家に連れて帰ります!
しおりを挟むお兄さんを連れて屋敷へ戻る途中、お兄さんに何か覚えている事はないか聞けばお兄さんは自分に関する記憶だけが抜けてしまっているようだった。
自分の名前や出身地、家族構成や何をしていたかなど……思い出そうとするとズキズキと頭が痛むと言う。
思ったよりも色々と重傷なお兄さんの状態に僕は気が気じゃなくなってしまう……。
「本当に僕のせいですみません……」
「いや……本当に君のせいかは分からないのだから謝らないでくれ……。それどころか、こんな俺を助けてくれた君に感謝しているくらいなんだ」
見た目はいかついのに、優しく微笑みを浮かべるお兄さんに僕は少しホッとする。
お世話をすると言ったもののお兄さんは大きくて見た目もどちらかと言えば……怖い。
顔は凄くイケメンなのだがきりっとした鋭い目はいつも何かを狙っているように感じる。無言の時のお兄さんは、オーラだけで人を倒せそうな感じだ……。
それに、がっしりとした体格なのに動作は機敏で隙がない。
きっとお兄さんは騎士の仕事をしていたのかもしれない……。
剣の鞘には紋章が刻まれていて、それを調べればすぐにでも身元が分かりそうだ。
そんな事を考えているとお兄さんが僕に声をかけてくる。
「なぁ……君の名前は? なんて呼べばいいだろうか?」
「はっ! 自己紹介がまだでしたね……。すみません。僕の名前はココです。ヴァントーラ公爵家に仕えている使用人です。といっても……身分は奴隷なんですけどね」
「ココか……。いい名前だな」
「ありがとうございます! この名前はご主人様が付けてくれた素敵な名前なんです! 僕も凄く気に入っているんです」
「そうか。優しいご主人様なんだな」
「はい。レノー様はとても優しいお方なんです。でも……数ヶ月前から体調を崩されて今ではずっと寝たきりなんです……」
「そうなのか……」
僕がレノー様の話をしてしょげていると、お兄さんは大きな手で優しく頭を撫でてくれる。
「あ……すみません。一人で落ち込んでしまって」
「いや……構わない。レノー様は病気なのか?」
「そうみたいです……。少しずつ体調を崩してしまわれて、かかりつけの医師も原因が分からないと言っていて……」
「そうか……。早く良くなるといいな……」
お兄さんはそう言って僕を励ますように優しく微笑みかけてくれる。お兄さんと話をしていると長い帰り道もあっという間で……お屋敷が見えてくる。
「あ! もうすぐ到着ですよ!」
「……大きなお屋敷だな」
「はい……。とても大きくて立派なお屋敷なんです……。あの……お兄さん。実は一つ謝らないといけない事があって……」
「ん?」
どうしたんだ?と、小さく傾げるお兄さんに僕は黙っていた事を打ち明ける。
「僕の住んでるところなんですが……」
そう言ってお屋敷の玄関前を通り過ぎ、裏側の方へと歩いて行くとボロい木の小屋がポツンと建っているのが見える。
「僕が今住んでる場所は……ここなんです」
お兄さんの面倒を見ると言って大口叩いたのに、案内された家がこんなボロ小屋だなんてガッカリしたよね……。
そう思いながらお兄さんを見上げると、お兄さんは少し険しい顔をしている……。
やっぱりこんな所は嫌だよね……と、思っているとお兄さんが口を開く。
「ココはどうしてこんな所に住んでいるんだ……?」
「??」
「ご主人様は優しい人なのだろ?」
「はい。そうですけど……」
「ならば何故あの屋敷に一緒に住まないんだ?」
「あ……。えっと……ちょっと訳があって……」
お兄さんにそう言われて僕はどう答えていいものか悩んでしまう。
僕がこの小屋に住んでいる理由は………
なかなか答えを言わない僕に申し訳なさそうな顔をしてお兄さが声をかけてくる。
「すまない……。色々と聞きすぎてしまったな……」
「いえ! 僕の方こそ答えられずにすみません……。あの……中にどうぞ。見た目通り小さくて狭いん所ですが」
「ありがとう。じゃあ、お邪魔するよ」
お兄さんを小屋の中に案内し、ぎぃ……と軋む小屋の扉を開く。入り口もお兄さんにとっては低く少し体を屈めて小屋の中へ……。
この小屋は以前お屋敷の警備をしていた使用人が使っていた場所だ。小さな机とイスとベッドがあるだけだったが、僕が住みだし一年かけ小屋の補修をし少しずつだが家具も揃えた。
けれど、人を招くなんて考えてもいなかったので色々と足りない物もある……。
「お兄さんはそこの椅子に座って下さいね。僕はちょっとお屋敷の方に行ってきます」
「あぁ……」
お兄さんはそう言って椅子に座るが、おんぼろな椅子はキシキシと軋みながらなんとかお兄さんの体重に耐えている。
……お兄さんの椅子作らなきゃいけないな。
そう思いながら僕はお屋敷の方へと向かった。
12
お気に入りに追加
1,039
あなたにおすすめの小説
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました
十夜 篁
BL
初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。
そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。
「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!?
しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」
ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意!
「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」
まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…?
「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」
「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」
健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!?
そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…
《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》
平凡な俺、何故かイケメンヤンキーのお気に入りです?!
彩ノ華
BL
ある事がきっかけでヤンキー(イケメン)に目をつけられた俺。
何をしても平凡な俺は、きっとパシリとして使われるのだろうと思っていたけど…!?
俺どうなっちゃうの~~ッ?!
イケメンヤンキー×平凡
獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる