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リアムの過去 ③

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王都周辺に現れたドラゴンは『厄災』と呼ばれるレッドドラゴンだった。
普通のドラゴンならば厄災などと大それた名前はつかないが、レッドドラゴンは鎧をも溶かす火炎を吐き近づいても鋭い爪で寄せ付けない。
そして、厄介なところは頑丈な鱗。普通の剣ではレッドドラゴンに傷すらつけられない……。
気性が荒く攻撃的な性格でレッドドラゴンが襲った村や町は無惨な姿へ変わる……。

「ロンヴァルト、イーゼル。お前達にも出動命令が出ている。支度し直ぐに出動しろ」
「「はっ!」」

団長からの命令を受けて俺とイーゼルはすぐに準備を始める。今までの魔獣とはレベルが違うレッドドラゴンとの対戦に俺の鼓動は高鳴る。

「ロンヴァルト。お前、今すごくウキウキしてるだろ」
「え? そう見えるか……?」
「あぁ。お前は強敵に立ち向かう時はいつも目をキラキラとさせているからな……。今日は特にだ」

イーゼルは俺の顔を見ながらクスッと笑みを溢す。

「すまん……。レッドドラゴンと対峙するのに浮かれてちゃダメだよな……」
「いや、お前らしくていいよ。動きやすいように私は後方からサポートする。だからいつものように暴れ回ってこい」
「あぁ。よろしく頼むよ相棒」

俺とイーゼルはいつものようにコツンと拳を合わせレッドドラゴンの元へと向かった。




レッドドラゴンが出没したという王都近くにある集落はすでに悲惨な状態になっていた……。あちらこちらで焼け焦げた匂いと煙……そこにあったであろう家屋は焼け崩れていた。
そして、その状況を作り出した張本人レッドドラゴンは優雅に空を舞っていた。

「ロンヴァルト。まずはアイツを地上へと引きずり下ろす。その後は頼んだぞ」
「あぁ、任せてくれ」

イーゼルは魔法が使える他の騎士達と共にレッドドラゴンへと魔法攻撃を繰り出す。攻撃を受けたレッドドラゴンは、怒りを露わにしイーゼル達がいる騎士達を標的とし攻撃を繰り出してくる。

イーゼル達は障壁などを駆使してレッドドラゴンを引きつけてくれ、痺れを切らしたレッドドラゴンは直接攻撃しようとイーゼル達へ牙を向く。

今だ……!

レッドドラゴンが地上へと向かってくるタイミングに合わせて物陰から駆け出すと跳躍しレッドドラゴンの背中に乗り込む。
レッドドラゴンは驚き、俺を振り払おうと必死に抵抗を見せるが俺も負けてはいられない。剣を背中へと突き立ててみるが頑丈な鱗に守られ通らない……。

ならば……と、最近覚えた剣そのものを強化する強化魔法を使いもう一度攻撃をすると、あんなに硬かった鱗はいとも簡単に貫通する。
痛みにレッドドラゴンは暴れ回り俺を背中に乗せたまま空へと舞い上がる。

空中戦になれば俺の勝ち目はない……。
相打ち覚悟で背中を蹴り上げレッドドラゴンの頭上まで飛び上がり剣を振り下ろす。
レッドドラゴンの首に剣が入るが、相手も抵抗し鋭い爪が襲う。痛みで一瞬意識が遠のくが、気力を振り絞り剣に力を入れる。

コイツを倒さなければ……終われないんだ……。

「うらぁぁぁぁぁぁあああ!」

最後の力を振り絞り残りの魔力を全て剣へと注ぎ込み振り抜くと、レッドドラゴンの首と胴体が二つに別れる……。
そして、俺とレッドドラゴンは仲良く地上へと降下していく。魔力を使い果たした俺は何も出来ずに落ちていき、あと少しで地面へと体を叩きつけられる……と、思った時に体の周囲に風が巻き起こりふわりと体が浮く。

レッドドラゴンの胴体と頭は地響きをならし地面へと叩きつけられ、俺はその隣にドサリと落ちる。
立つ事すら出来ずに仰向けのまま空を見つめていると、歓声と共にこちらに駆け寄ってくる足音が聞こえる。
俺の視界にキラリと輝きを放つ金髪と心配そうに覗き込んでくる水色の瞳を見て、戦いが終わった事を実感する。

「大丈夫かロンヴァルト? 酷くやられたな……すぐに手当てをするからな」
「あぁ……頼む」

イーゼルは救護班を呼び俺の手当てを始める。興奮冷めやらぬ騎士団達や俺達の戦いを見守っていた集落の人々に笑顔が戻るのを見て俺も自然と頬が緩む。

「なぁイーゼル。落ちる時に風魔法使ってくれたのはお前だろ?」
「あぁ。あのまま落ちれば今の怪我どころじゃないからな。間に合ってよかったよ」
「そうだな……。ありがとうな、イーゼル」
「気にするな。大事な相棒を守るのが私の役目だからな」

イーゼルは優しく笑みを溢し、俺もつられて笑顔を見せる。


こうして厄災と呼ばれたレッドドラゴンとの戦いは終わり、また厳しい訓練と戦いの日々が続くと思っていたが……


俺の生活は王から与えられた『英雄』の称号により一変してしまうのだった。

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