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本編
路地裏での約束
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丈太郎は若宮に抜けることを伝え、Barの外へ。
人の通りが多くなった年末の繁華街。
人混みを掻き分けながら進むが、聖の姿は見当たらず、丈太郎は聖がどう行動するか必死に考える。
幼い頃、聖と丈太郎は何度か喧嘩をした。理由は些細なことで、丈太郎が意地を張って謝らなかったせいで聖が怒って走り去ったことがあった。
しばらくして、自分が悪かったことに気づいた丈太郎は謝ろうと思い聖を探した。
よく二人で遊ぶ公園、家への帰り道、秘密基地……しかしどこにも聖はいなかった。
聖を見つけられず、丈太郎は夕焼けで真っ赤に染まる道を一人でうつむきながら帰っていると、普段は通らない路地裏から啜り泣く声が聞こえてきた。
丈太郎が顔をのぞかせると、そこには体を小さく丸めうずくまる聖の姿があった。
丈太郎が声をかけ仲直りしようと告げると、涙でいっぱいの聖の顔から笑顔がこぼれ落ちた。
それから、喧嘩するたびに聖は逃げ隠れ丈太郎が見つけ出してくれるのを待つようになった。
その時と同じように、丈太郎は繁華街の路地裏をのぞいて回る。
しばらく歩き続け、Barからだいぶ離れた路地裏にうずくまる人影を見つけた。
膝を抱え込み目を伏せ、丈太郎を待つ姿は幼い頃と変わっていない。
「聖……」
丈太郎が名を呼ぶと、聖は膝を抱え込む両腕にぐっと力を込めた。
「……あの人のとこにいなくていいの? 丈太郎を待ってるんじゃない? 早く戻りなよ」
目線も合わさず突き放すような聖の言葉。その言葉と態度に丈太郎の胸が痛む。
「……嫌だ。戻らない」
「いや? だって丈太郎は、あの人と……楽しくプレイしてたじゃないか。僕以外ともプレイできて……よかった、ね」
聖が吐き捨てるように呟いた言葉に、丈太郎の胸の奥がカッと熱くなる。
丈太郎は俯いたまま膝を抱える聖の前に座り込むと、聖の両頬を大きな手で包み込み無理やり顔を上げさせる。
聖は丈太郎の大胆な行動に驚き目を丸くした。
じっと見つめ合う二人。
聖は薄茶色の瞳を不安気にゆらす。丈太郎は、いつになく真面目な顔をして、聖を見すえゆっくりと口を開く。
「聖じゃないと……やだ」
「……え?」
「俺のパートナーは聖じゃないと嫌なんだ。いや……聖がいいんだ。聖とだけがいい」
丈太郎は懇願するように聖を見つめた。
「ごめん、聖。俺、先輩とプレイして分かったんだ。聖とのプレイがどれだけ特別だったのかって……。聖と一緒にするプレイはあったかくて、聖で心がいっぱいになる。聖で満たされると、俺すごく幸せな気持ちになるんだ。もっと聖とプレイしたいって、もっと聖と一緒にいたいって……。なのに、本当にごめん。もう、聖以外の人とはプレイしないから、許してほしい……」
眉を下げ泣き出してしまいそうなくらいにしょげた丈太郎を前に、聖は顔を真っ赤にして混乱していた。
沙羅と丈太郎のプレイする姿に嫉妬心にかられ、衝動的に飛び出してしまい、行く当てもなく路地裏でうずくまっていた聖。
二人のその後を考えると胸が張り裂けそうになった。
自分にだけ見せてくれていた優しい表情、包み込むような温かなコマンド、不安を全て受け止めてくれた大きな手……
それが、自分だけのものではないことは分かっていたはずなのに、いざその場面を目にすると我慢できなかった。
丈太郎が探しにきてくれたことに安堵しながらも、強がって突き放すような言葉をかけてしまい罪悪感にかられる。
丈太郎を傷つけ、怒らせてしまったかもしれない。
ーーいや、嫌われてしまったかもしれない……
そう思い、聖は突き放される覚悟をしていたが丈太郎の口からでてきたのは謝罪と心から聖を求める言葉だった。
丈太郎はDomなのだから、Subである聖を従わせたいのならばコマンド一つで解決する。
なのに丈太郎はコマンドなど使わずに、真っ直ぐに思いを伝えてくれた。
その言葉が聖の不安定な心を優しく包み込む。
「僕……だけでいいの?」
「うん。聖だけがいい」
「もっと他にもいい人、いるかもしれないよ?」
「聖じゃなきゃいやだ」
はっきりと大胆に丈太郎から自分がいいと求められ、聖の心臓は大きく高鳴る。
この胸の高鳴りは、Subとしてのものなのか、それとも自分自身のものなのか……
聖がそう考える暇もなく、早く答えが欲しいと丈太郎はせがむように顔を寄せてくる。
丈太郎から香るアルコールの匂い。いつにも増して距離が近いのは、きっとお酒のせいだと聖は思った。
だからあんなにも大胆に自分を求めてきたのだろうと……
「丈太郎、酔ってるでしょ」
「酔ってない。俺は限りなくシラフだ」
あからんだ顔のまま唇をむいっと尖らせて頬を膨らます丈太郎を見て、聖はクスリと笑う。
「はいはい。丈太郎はシラフだね」
聖が酔った丈太郎をなだめると、拗ねた丈太郎は聖の額にコツンと自分の額を寄せる。
「聖の答え聞いてない。ねぇ、聖……俺じゃダメ?」
甘えた仕草を見せる丈太郎に、聖は微笑みかける。
「僕も丈太郎がいいよ」
「本当か? 俺だけの聖でいてくれる?」
「うん」
聖の答えに丈太郎は満面の笑みを浮かべ、大きな体で聖をまるごと包み込む。
冬の寒空の下、丈太郎と聖は路地裏で小さな約束をかわす。二人にとって大切な約束を。
人の通りが多くなった年末の繁華街。
人混みを掻き分けながら進むが、聖の姿は見当たらず、丈太郎は聖がどう行動するか必死に考える。
幼い頃、聖と丈太郎は何度か喧嘩をした。理由は些細なことで、丈太郎が意地を張って謝らなかったせいで聖が怒って走り去ったことがあった。
しばらくして、自分が悪かったことに気づいた丈太郎は謝ろうと思い聖を探した。
よく二人で遊ぶ公園、家への帰り道、秘密基地……しかしどこにも聖はいなかった。
聖を見つけられず、丈太郎は夕焼けで真っ赤に染まる道を一人でうつむきながら帰っていると、普段は通らない路地裏から啜り泣く声が聞こえてきた。
丈太郎が顔をのぞかせると、そこには体を小さく丸めうずくまる聖の姿があった。
丈太郎が声をかけ仲直りしようと告げると、涙でいっぱいの聖の顔から笑顔がこぼれ落ちた。
それから、喧嘩するたびに聖は逃げ隠れ丈太郎が見つけ出してくれるのを待つようになった。
その時と同じように、丈太郎は繁華街の路地裏をのぞいて回る。
しばらく歩き続け、Barからだいぶ離れた路地裏にうずくまる人影を見つけた。
膝を抱え込み目を伏せ、丈太郎を待つ姿は幼い頃と変わっていない。
「聖……」
丈太郎が名を呼ぶと、聖は膝を抱え込む両腕にぐっと力を込めた。
「……あの人のとこにいなくていいの? 丈太郎を待ってるんじゃない? 早く戻りなよ」
目線も合わさず突き放すような聖の言葉。その言葉と態度に丈太郎の胸が痛む。
「……嫌だ。戻らない」
「いや? だって丈太郎は、あの人と……楽しくプレイしてたじゃないか。僕以外ともプレイできて……よかった、ね」
聖が吐き捨てるように呟いた言葉に、丈太郎の胸の奥がカッと熱くなる。
丈太郎は俯いたまま膝を抱える聖の前に座り込むと、聖の両頬を大きな手で包み込み無理やり顔を上げさせる。
聖は丈太郎の大胆な行動に驚き目を丸くした。
じっと見つめ合う二人。
聖は薄茶色の瞳を不安気にゆらす。丈太郎は、いつになく真面目な顔をして、聖を見すえゆっくりと口を開く。
「聖じゃないと……やだ」
「……え?」
「俺のパートナーは聖じゃないと嫌なんだ。いや……聖がいいんだ。聖とだけがいい」
丈太郎は懇願するように聖を見つめた。
「ごめん、聖。俺、先輩とプレイして分かったんだ。聖とのプレイがどれだけ特別だったのかって……。聖と一緒にするプレイはあったかくて、聖で心がいっぱいになる。聖で満たされると、俺すごく幸せな気持ちになるんだ。もっと聖とプレイしたいって、もっと聖と一緒にいたいって……。なのに、本当にごめん。もう、聖以外の人とはプレイしないから、許してほしい……」
眉を下げ泣き出してしまいそうなくらいにしょげた丈太郎を前に、聖は顔を真っ赤にして混乱していた。
沙羅と丈太郎のプレイする姿に嫉妬心にかられ、衝動的に飛び出してしまい、行く当てもなく路地裏でうずくまっていた聖。
二人のその後を考えると胸が張り裂けそうになった。
自分にだけ見せてくれていた優しい表情、包み込むような温かなコマンド、不安を全て受け止めてくれた大きな手……
それが、自分だけのものではないことは分かっていたはずなのに、いざその場面を目にすると我慢できなかった。
丈太郎が探しにきてくれたことに安堵しながらも、強がって突き放すような言葉をかけてしまい罪悪感にかられる。
丈太郎を傷つけ、怒らせてしまったかもしれない。
ーーいや、嫌われてしまったかもしれない……
そう思い、聖は突き放される覚悟をしていたが丈太郎の口からでてきたのは謝罪と心から聖を求める言葉だった。
丈太郎はDomなのだから、Subである聖を従わせたいのならばコマンド一つで解決する。
なのに丈太郎はコマンドなど使わずに、真っ直ぐに思いを伝えてくれた。
その言葉が聖の不安定な心を優しく包み込む。
「僕……だけでいいの?」
「うん。聖だけがいい」
「もっと他にもいい人、いるかもしれないよ?」
「聖じゃなきゃいやだ」
はっきりと大胆に丈太郎から自分がいいと求められ、聖の心臓は大きく高鳴る。
この胸の高鳴りは、Subとしてのものなのか、それとも自分自身のものなのか……
聖がそう考える暇もなく、早く答えが欲しいと丈太郎はせがむように顔を寄せてくる。
丈太郎から香るアルコールの匂い。いつにも増して距離が近いのは、きっとお酒のせいだと聖は思った。
だからあんなにも大胆に自分を求めてきたのだろうと……
「丈太郎、酔ってるでしょ」
「酔ってない。俺は限りなくシラフだ」
あからんだ顔のまま唇をむいっと尖らせて頬を膨らます丈太郎を見て、聖はクスリと笑う。
「はいはい。丈太郎はシラフだね」
聖が酔った丈太郎をなだめると、拗ねた丈太郎は聖の額にコツンと自分の額を寄せる。
「聖の答え聞いてない。ねぇ、聖……俺じゃダメ?」
甘えた仕草を見せる丈太郎に、聖は微笑みかける。
「僕も丈太郎がいいよ」
「本当か? 俺だけの聖でいてくれる?」
「うん」
聖の答えに丈太郎は満面の笑みを浮かべ、大きな体で聖をまるごと包み込む。
冬の寒空の下、丈太郎と聖は路地裏で小さな約束をかわす。二人にとって大切な約束を。
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