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本編
コマンド、ぽろり。
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小窓から朝の光が入りこみ、丈太郎の顔を照らす。
その明るさに丈太郎の瞼をゆっくりと開く。
いつもより暖かな隣では聖がすやすやと無防備に寝顔を晒していた。
寝起きに感じる虚無感が今日は感じられず、丈太郎の頭は普段よりもすっきりとしていた。
プレイは失敗したのに、心が満たされている理由は隣で眠る聖のおかげなのだろうと丈太郎は思う。
ダメな自分を蔑まず、そのままの自分を見てくれる聖の存在に安らぎを感じてしまう。
聖が小さく寝返りをうち、さらりと薄茶色の髪がゆれる。
丈太郎は思わず手を伸ばし、ゆっくりと聖の頭を撫で髪に触れる。
すると聖は口元を綻ばせ、小さく微笑みを浮かべた。
何か楽しい夢でも見ているのだろうか?
そう思い、丈太郎もつられて微笑んだ。
しばらくして、聖が目を覚ました頃には丈太郎は着替えをすませインスタントコーヒーを淹れていた。
「ん……おはよう、丈太郎」
「おはよう。よく眠れたか?」
「うん。今日はいつもより目覚めがいいよ」
「俺もだよ。いつもは何か心の中が足りない感じがして、それを薬で埋めてるんだけど……今日は薬もいらなそうだ」
そう丈太郎が伝えると、聖も同じだと肯定するように大きく首をふる。
「僕も同じ! なんか……心があったかい感じがするよね」
ヘヘッと目を細め、嬉しそうに微笑む聖に温かなコーヒーを手渡すとふーっと息を吹きかけて口にする。
コーヒーで体も温まった聖は、さらに顔を緩め幸せそうに微笑む。
その笑顔を見て、丈太郎は決心し口を開く
「なぁ、聖。できれば……また……俺とプレイしてくれないか……? む、無理にとは言わない。また、昨日みたいにコマンド言えないかもしれないし、情けない姿を晒してしまうかもしれないから……。聖の時間がある時でいいかさ……だから……」
「いいよ」
聖を繋ぎ止めたくてダラダラと言葉を続けていると、その言葉を切るように聖が答えを出す。
聖の言葉に丈太郎は少し間の抜けた顔をしてしまう。
「い、いいのか?」
「うん。実は僕もお願いしようと思っていたんだ。また、一緒にプレイしてくれないかな」
「もしかしたら、俺は一生コマンドなんて使えないかもしれないけど……いいのか?」
「いいよ。その時は、今日みたいに二人で楽しく遊んでいようよ」
笑いかけてくれる聖をみて丈太郎の感情は嬉しさで満ち溢れ、何も考えず言葉がこぼれ落ちる。
「聖……ありがとう。聖は本当に《いい子》だな」
「……えっ?」
「ん?」
丈太郎がそう言った瞬間、聖の顔がぶわりと赤く染まり瞳はトロリととろける。
聖の表情の変化に丈太郎はぎょっとしてしまう。
「丈太郎……今のコマンド……」
「……えぇ!? 俺、コマンド言えたの!?」
「うん! コマンド言えてた! 《いい子》って言えてたよ」
無意識に放たれたコマンドに二人して慌てふためく。
「もしかして今なら言えるのか!? な、なぁ、聖。コマンド言ってみてもいいか?」
「うん!」
何度か大きく息をして、丈太郎が口を開く。
「に、ニーーーール!」
「あ……ダメ……みたい」
「……やっぱダメか」
喜びから一転。
丈太郎はしょんぼりと肩を落とすが、悲しさや虚しさはなかった。
聖と目が合えば、なんだかおかしくなって笑ってしまう。
思いがけず放たれたコマンドだったが、それは丈太郎がDomとしてコマンドが使えるという自信に繋がった。
「少しずつやっていこうね、丈太郎」
「うん。少しずつだな」
二人は約束を交わし、友人とは違う二人だけの特別な関係を結んだ。
その明るさに丈太郎の瞼をゆっくりと開く。
いつもより暖かな隣では聖がすやすやと無防備に寝顔を晒していた。
寝起きに感じる虚無感が今日は感じられず、丈太郎の頭は普段よりもすっきりとしていた。
プレイは失敗したのに、心が満たされている理由は隣で眠る聖のおかげなのだろうと丈太郎は思う。
ダメな自分を蔑まず、そのままの自分を見てくれる聖の存在に安らぎを感じてしまう。
聖が小さく寝返りをうち、さらりと薄茶色の髪がゆれる。
丈太郎は思わず手を伸ばし、ゆっくりと聖の頭を撫で髪に触れる。
すると聖は口元を綻ばせ、小さく微笑みを浮かべた。
何か楽しい夢でも見ているのだろうか?
そう思い、丈太郎もつられて微笑んだ。
しばらくして、聖が目を覚ました頃には丈太郎は着替えをすませインスタントコーヒーを淹れていた。
「ん……おはよう、丈太郎」
「おはよう。よく眠れたか?」
「うん。今日はいつもより目覚めがいいよ」
「俺もだよ。いつもは何か心の中が足りない感じがして、それを薬で埋めてるんだけど……今日は薬もいらなそうだ」
そう丈太郎が伝えると、聖も同じだと肯定するように大きく首をふる。
「僕も同じ! なんか……心があったかい感じがするよね」
ヘヘッと目を細め、嬉しそうに微笑む聖に温かなコーヒーを手渡すとふーっと息を吹きかけて口にする。
コーヒーで体も温まった聖は、さらに顔を緩め幸せそうに微笑む。
その笑顔を見て、丈太郎は決心し口を開く
「なぁ、聖。できれば……また……俺とプレイしてくれないか……? む、無理にとは言わない。また、昨日みたいにコマンド言えないかもしれないし、情けない姿を晒してしまうかもしれないから……。聖の時間がある時でいいかさ……だから……」
「いいよ」
聖を繋ぎ止めたくてダラダラと言葉を続けていると、その言葉を切るように聖が答えを出す。
聖の言葉に丈太郎は少し間の抜けた顔をしてしまう。
「い、いいのか?」
「うん。実は僕もお願いしようと思っていたんだ。また、一緒にプレイしてくれないかな」
「もしかしたら、俺は一生コマンドなんて使えないかもしれないけど……いいのか?」
「いいよ。その時は、今日みたいに二人で楽しく遊んでいようよ」
笑いかけてくれる聖をみて丈太郎の感情は嬉しさで満ち溢れ、何も考えず言葉がこぼれ落ちる。
「聖……ありがとう。聖は本当に《いい子》だな」
「……えっ?」
「ん?」
丈太郎がそう言った瞬間、聖の顔がぶわりと赤く染まり瞳はトロリととろける。
聖の表情の変化に丈太郎はぎょっとしてしまう。
「丈太郎……今のコマンド……」
「……えぇ!? 俺、コマンド言えたの!?」
「うん! コマンド言えてた! 《いい子》って言えてたよ」
無意識に放たれたコマンドに二人して慌てふためく。
「もしかして今なら言えるのか!? な、なぁ、聖。コマンド言ってみてもいいか?」
「うん!」
何度か大きく息をして、丈太郎が口を開く。
「に、ニーーーール!」
「あ……ダメ……みたい」
「……やっぱダメか」
喜びから一転。
丈太郎はしょんぼりと肩を落とすが、悲しさや虚しさはなかった。
聖と目が合えば、なんだかおかしくなって笑ってしまう。
思いがけず放たれたコマンドだったが、それは丈太郎がDomとしてコマンドが使えるという自信に繋がった。
「少しずつやっていこうね、丈太郎」
「うん。少しずつだな」
二人は約束を交わし、友人とは違う二人だけの特別な関係を結んだ。
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