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本編
二人の秘め事 ①
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綺麗にラッピングされたプレゼントを手に、予約していた居酒屋へ到着する。
完全個室型の落ち着いた雰囲気の洒落た居酒屋。
バーを思わせる制服を着た店員ひ薄暗い店内の中を案内されると、中にはすでに人がいた。
丈太郎の姿が見えると、パッと明るい声が飛ぶ。
「丈太郎、久しぶり」
十四年ぶりに再会した聖は満面の笑みで丈太郎を出迎える。
「聖、久しぶり」
聖の対面に腰掛けた丈太郎は十数年ぶりに会う幼馴染の姿をマジマジと見つめる。
昔と変わらず色素の薄い茶色の髪を耳にかけ、両耳には小さなシルバーのフープピアス。
くりっとした大きめな瞳も丈太郎を観察するように見開いていた。
どことなく中性的な印象は、幼い頃から変わっておらず、それに似合うモノトーンでまとめられた服は聖のオシャレさを際立てていた。
それに比べて、丈太郎は仕事終わりのくたびれたスーツ姿。
小綺麗な聖と自分を見比べて、丈太郎はなんだか申し訳なくなる。
「久しぶりの再会なんだから、着替えてくればよかったな……」
「ハハ、気にしなくていいよ。忙しい仕事終わりに駆けつけてくれたんだろ? ありがとう。ほら、飲み物注文しよ。丈太郎も喉渇いたでしょ」
ほらほらと聖は飲み物のメニューを丈太郎に手渡す。
「じゃあ……とりあえず生で」
「オッケー! 僕も同じ」
タッチパネルで生ビールとおつまみを数点注文するとすぐにビールとお通しが到着する。
肌寒い季節になってきたが、暖房のきいた店内では冷えたビールが美味しそうに煌めいて見えた。
二人でビールを手にしかかげると、ニコリと聖が微笑む。
「久しぶりの再会に乾杯」
「乾杯」
チンとグラスを合わせ、二人同時にビールを勢いよく飲み干し、感嘆の息が部屋の中に響くと二人揃って笑い合った。
「あ~よかった。丈太郎が昔と変わらないままで」
「ん? そうか? 中学の同級生からはデカくなっただの可愛げがなくなって威圧的になっただの色々言われるぞ」
「まぁそうだけど、笑顔は全然変わらないよ。昔のまんまキラキラしてる」
聖はそう言うと、丈太郎よりもキラキラと輝く笑顔を見せる。
幼い頃から綺麗な顔をしていると思ってはいたが、成長した聖はモデル並みの顔立ちに成長していた。
そんな聖から笑顔だけでも褒められると、なんだか嬉しくなってしまい丈太郎は照れ笑いを見せる。
「聖は……その……すごく大人っぽくなったな」
「……なんだか親戚のおじさんに褒められてる気分」
「な! 褒めベタで悪かったな……」
「ハハ、ごめんって。ほら、グラス空いたし次の飲み物注文しようよ」
はぐらかされるように聖にお酒をすすめられ、二人は楽しい時を過ごしていく。
手紙でやりとりしていた懐かしい記憶を辿りながら、昔話に花がさく。
日本とアメリカではこんなことが違ったなどと、聖のカルチャーショックを受けた時の話や、丈太郎が大学時代にプールの監視員のバイトをしていた時に小学生の女子からナンパされた話など、たわいのない話で話題は尽きない。
二時間などあっという間に過ぎ、話の分だけお酒も入った二人は上機嫌だった。
「大学までは楽しく過ごせればそれでよかったけど、やっぱ社会人になるとそうも言ってらんねーよなぁ……。あ~大人になるのってほんとヤダ……。何の責任もなくお金だけ欲しい~」
「丈太郎、その台詞クズっぽくてすっごくいいね。僕も楽してお金だけほしいよ」
「だろ? 好きなことだけしてさ、いいパートナーに恵まれて……そんで……」
楽しいほろ酔い気分の中、ぽろりと溢しそうになった言葉を丈太郎は思わず飲み込む。
浮かんできた『Dom』という言葉で酔いが少し冷めてしまう。
ヘラヘラと眉を下げ笑っていた丈太郎が、いきなり真顔になり聖は心配そうに顔を覗き込んでくる。
「丈太郎、大丈夫? 気分が悪いのか? 水もらおうか?」
聖の優しい声と言葉に顔を上げる。
聖が冷えたおしぼりをそっと手渡してくれ、丈太郎はそれを受け取ると目に押し当てる。
昔と変わらない優しい幼馴染といると、自然と安心してしまう。
Domとして不甲斐ない姿を晒した週末から始まり、新規事業の立ち上げで目まぐるしく働き緊張の連続だった日々から解放された今、丈太郎の心は不安定だった。
仕事は努力と気合いでどうにかなるが、プライベートはそうはいかない。
Domとしての不安を吐き出す場所のない丈太郎は、へっぽこDomと名付けられた日以来に弱音をこぼす。
「あのさ……聖、笑わないで聞いてくれる?」
「え? う、うん。どうしたの?」
「俺さ……Domなんだ」
「丈太郎が…………Dom」
『Dom』という言葉に一瞬にして聖の表情がこわばる。
だが、おしぼりで視界を塞いだ丈太郎は、聖の表情の変化に気付かずに話を続けた。
「そう、Domなんだ。Domなんだけど……ダメダメなDomでさ……俺、コマンド使えないんだ。どんなに頑張っても頑張ってもSubを満足させてやれなくて、笑われて……。ついたあだ名がへっぽこDomなんだぜ。マジ……笑えるよな……」
自分で呆れたように笑いながら、熱くなる目頭を隠すようにおしぼりを押し付ける。
聖は無言のまま話を聞き、丈太郎は今までの自分の何がいけなかったのか振り返るように話す。
「高校の時にさ、初めてプレイを誘われてコマンドを噛んじゃったんだよ。そしたら、すんげー笑われて『期待外れだ』って言われて強制退場。それから、プレイしようとする度にその言葉が浮かんで、緊張して声が上擦ってさ……失望されてふられるんだ。簡単なプレイもできなくて、薬ばっか増えて、医者は簡単にパートナー見つけろなんて言ってくるけど、コマンドも使えないDomにパートナーなんか出来るわけねーだろ。ハァ……なんで俺Domなんかになっちゃったんだろ。母さんも父さんも妹も親戚もNormalだらけなのに何で俺だけ……」
深いため息を吐くと、聖がポツリと問いかけてくる。
「……丈太郎はDomの自分が嫌いなの?」
「……うん、嫌いだ。Domってだけで贔屓される社会も嫌いだし、俺じゃなくてDom性ばかり見るやつも嫌い。そして……そんなDom性に振り回されてこうやって愚痴ってる俺自身が大嫌いだ」
丈太郎の中で燻っていた気持ちを吐き出し終えると少し心が軽くなる。
しょげた顔を隠していたおしぼりを外して聖へと視線を向けると、聖は真剣な顔をして丈太郎を見つめてくる。
せっかくの楽しい再会の時間をぶち壊してしまったことに気付いた丈太郎が慌てて謝ろうとすると、聖が静かに口を開く。
「ねぇ、丈太郎……僕の話も聞いてくれる」
「う……うん」
「実は僕ね………………二次性はSubなんだ」
完全個室型の落ち着いた雰囲気の洒落た居酒屋。
バーを思わせる制服を着た店員ひ薄暗い店内の中を案内されると、中にはすでに人がいた。
丈太郎の姿が見えると、パッと明るい声が飛ぶ。
「丈太郎、久しぶり」
十四年ぶりに再会した聖は満面の笑みで丈太郎を出迎える。
「聖、久しぶり」
聖の対面に腰掛けた丈太郎は十数年ぶりに会う幼馴染の姿をマジマジと見つめる。
昔と変わらず色素の薄い茶色の髪を耳にかけ、両耳には小さなシルバーのフープピアス。
くりっとした大きめな瞳も丈太郎を観察するように見開いていた。
どことなく中性的な印象は、幼い頃から変わっておらず、それに似合うモノトーンでまとめられた服は聖のオシャレさを際立てていた。
それに比べて、丈太郎は仕事終わりのくたびれたスーツ姿。
小綺麗な聖と自分を見比べて、丈太郎はなんだか申し訳なくなる。
「久しぶりの再会なんだから、着替えてくればよかったな……」
「ハハ、気にしなくていいよ。忙しい仕事終わりに駆けつけてくれたんだろ? ありがとう。ほら、飲み物注文しよ。丈太郎も喉渇いたでしょ」
ほらほらと聖は飲み物のメニューを丈太郎に手渡す。
「じゃあ……とりあえず生で」
「オッケー! 僕も同じ」
タッチパネルで生ビールとおつまみを数点注文するとすぐにビールとお通しが到着する。
肌寒い季節になってきたが、暖房のきいた店内では冷えたビールが美味しそうに煌めいて見えた。
二人でビールを手にしかかげると、ニコリと聖が微笑む。
「久しぶりの再会に乾杯」
「乾杯」
チンとグラスを合わせ、二人同時にビールを勢いよく飲み干し、感嘆の息が部屋の中に響くと二人揃って笑い合った。
「あ~よかった。丈太郎が昔と変わらないままで」
「ん? そうか? 中学の同級生からはデカくなっただの可愛げがなくなって威圧的になっただの色々言われるぞ」
「まぁそうだけど、笑顔は全然変わらないよ。昔のまんまキラキラしてる」
聖はそう言うと、丈太郎よりもキラキラと輝く笑顔を見せる。
幼い頃から綺麗な顔をしていると思ってはいたが、成長した聖はモデル並みの顔立ちに成長していた。
そんな聖から笑顔だけでも褒められると、なんだか嬉しくなってしまい丈太郎は照れ笑いを見せる。
「聖は……その……すごく大人っぽくなったな」
「……なんだか親戚のおじさんに褒められてる気分」
「な! 褒めベタで悪かったな……」
「ハハ、ごめんって。ほら、グラス空いたし次の飲み物注文しようよ」
はぐらかされるように聖にお酒をすすめられ、二人は楽しい時を過ごしていく。
手紙でやりとりしていた懐かしい記憶を辿りながら、昔話に花がさく。
日本とアメリカではこんなことが違ったなどと、聖のカルチャーショックを受けた時の話や、丈太郎が大学時代にプールの監視員のバイトをしていた時に小学生の女子からナンパされた話など、たわいのない話で話題は尽きない。
二時間などあっという間に過ぎ、話の分だけお酒も入った二人は上機嫌だった。
「大学までは楽しく過ごせればそれでよかったけど、やっぱ社会人になるとそうも言ってらんねーよなぁ……。あ~大人になるのってほんとヤダ……。何の責任もなくお金だけ欲しい~」
「丈太郎、その台詞クズっぽくてすっごくいいね。僕も楽してお金だけほしいよ」
「だろ? 好きなことだけしてさ、いいパートナーに恵まれて……そんで……」
楽しいほろ酔い気分の中、ぽろりと溢しそうになった言葉を丈太郎は思わず飲み込む。
浮かんできた『Dom』という言葉で酔いが少し冷めてしまう。
ヘラヘラと眉を下げ笑っていた丈太郎が、いきなり真顔になり聖は心配そうに顔を覗き込んでくる。
「丈太郎、大丈夫? 気分が悪いのか? 水もらおうか?」
聖の優しい声と言葉に顔を上げる。
聖が冷えたおしぼりをそっと手渡してくれ、丈太郎はそれを受け取ると目に押し当てる。
昔と変わらない優しい幼馴染といると、自然と安心してしまう。
Domとして不甲斐ない姿を晒した週末から始まり、新規事業の立ち上げで目まぐるしく働き緊張の連続だった日々から解放された今、丈太郎の心は不安定だった。
仕事は努力と気合いでどうにかなるが、プライベートはそうはいかない。
Domとしての不安を吐き出す場所のない丈太郎は、へっぽこDomと名付けられた日以来に弱音をこぼす。
「あのさ……聖、笑わないで聞いてくれる?」
「え? う、うん。どうしたの?」
「俺さ……Domなんだ」
「丈太郎が…………Dom」
『Dom』という言葉に一瞬にして聖の表情がこわばる。
だが、おしぼりで視界を塞いだ丈太郎は、聖の表情の変化に気付かずに話を続けた。
「そう、Domなんだ。Domなんだけど……ダメダメなDomでさ……俺、コマンド使えないんだ。どんなに頑張っても頑張ってもSubを満足させてやれなくて、笑われて……。ついたあだ名がへっぽこDomなんだぜ。マジ……笑えるよな……」
自分で呆れたように笑いながら、熱くなる目頭を隠すようにおしぼりを押し付ける。
聖は無言のまま話を聞き、丈太郎は今までの自分の何がいけなかったのか振り返るように話す。
「高校の時にさ、初めてプレイを誘われてコマンドを噛んじゃったんだよ。そしたら、すんげー笑われて『期待外れだ』って言われて強制退場。それから、プレイしようとする度にその言葉が浮かんで、緊張して声が上擦ってさ……失望されてふられるんだ。簡単なプレイもできなくて、薬ばっか増えて、医者は簡単にパートナー見つけろなんて言ってくるけど、コマンドも使えないDomにパートナーなんか出来るわけねーだろ。ハァ……なんで俺Domなんかになっちゃったんだろ。母さんも父さんも妹も親戚もNormalだらけなのに何で俺だけ……」
深いため息を吐くと、聖がポツリと問いかけてくる。
「……丈太郎はDomの自分が嫌いなの?」
「……うん、嫌いだ。Domってだけで贔屓される社会も嫌いだし、俺じゃなくてDom性ばかり見るやつも嫌い。そして……そんなDom性に振り回されてこうやって愚痴ってる俺自身が大嫌いだ」
丈太郎の中で燻っていた気持ちを吐き出し終えると少し心が軽くなる。
しょげた顔を隠していたおしぼりを外して聖へと視線を向けると、聖は真剣な顔をして丈太郎を見つめてくる。
せっかくの楽しい再会の時間をぶち壊してしまったことに気付いた丈太郎が慌てて謝ろうとすると、聖が静かに口を開く。
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