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2話:優しいルームメイトさん
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簡単な挨拶がすんだあと、自己紹介もしていなかったことに気づいた僕は慌てて名前を伝える。
「僕は久貫圭と申します。ご迷惑をおかけすると思いますが、どうぞよろしくお願いします」
深々と頭を下げ、アランの方を見上げると灰色の瞳が弧を描く。
「アラン・フィッシャーです。よろしくね、ケイ」
「こちらこそよろしくお願いします、アランくん」
「アランでいいよ。それに、敬語もいらないよ」
アランは気さくな雰囲気で僕を受け入れてくれる。
アルファは傲慢な人が多く、ベータを見下す人も多いとネットに書いてあったが、アランはそんなタイプのアルファでないことにホッとした。
それから僕たちは自己紹介の延長線で、互いのことを話した。
僕が六人兄弟だと言えば、アランは目を丸くして驚いていた。
そんなに兄弟がいたら、ご飯はどうしてるんだとか、どんな遊びをしてたのかとか色々と質問してきた。
アランについては、大学に入学する前までは、ずっとアメリカ暮らし。
流暢な日本語を話すので学校で習ったのか聞くと、アランの曽祖母はなんと日本人だったそうだ。
幼少期は仕事が忙しい両親の代わりに、曽祖母がアランのそばにいてくれ、自然と日本語を話すようになったんだとか。
その後も、アメリカで日本人との交流もあり今では英語と日本語を話せるようだ。
「アランは凄いね! 僕は、英語は書けるけど話すのが苦手で……」
「そうなの? どこが苦手なの?」
「英語は母音と子音が多いから、それがうまく使い分けられないんだ。友達からは、チビで舌が短いだからだろうって言われちゃうんだけどね」
リビングに常設されたソファーに二人で腰掛け、僕の英語が下手くそな理由を話していると、アランが顔を覗き込んでくる。
「ケイは、舌が短いの?」
「え? うん、ほら」
舌をべっと出すと、アランはまじまじと見つめたあとに、ふっと笑う。
「確かに、ケイは短いね」
「アランもそう思う? rの発音とかすごく苦手なんだ。うまく舌を巻けなくて」
「rの発音は舌を巻かない方がうまく出せるよ。アメリカに来たばかりの人も同じことで悩んでたけどね」
「え、じゃあどうすればいいの?」
アランに問いかければ、ゆっくりとrの発音を教えてくれる。
アランの口の形を真似しながら、舌の位置に注意をして言うと今までで一番綺麗な発音ができた気がした。
「ケイ、うまく発音できてるよ」
「ほんと! ありがとうアラン!」
ヘヘッと笑いながらアランに感謝の言葉をのべれば、アランは優しく微笑んでくれた。
そうこうしていると、引越し業者が荷物を運んできて、それから互いに荷解きに追われた。
一日はあっという間にすぎていく。
実家から持ってきたご飯をダンボールだらけの部屋で食べたあと、再びリビングに集まりアランと一緒にルームシェアのルールを決めていく。
共用スペースの掃除や、使う際の決まりごと。
ゴミ出しに、冷蔵庫内での注意点や約束ごと。
色々と紙に書き出していくと、アランは目を丸くしていた。
「どうしたの?」
「いや、よくこんなに思いつくなって思って」
「ハハ、僕の家は兄妹が多いし、両親も仕事で忙しいから約束ごとが沢山あったんだ。家族でも、ルールを守らないと喧嘩になっちゃうからね。特に、冷蔵庫の食べ物の名前書きは大事だよ! 名前書いてないと勝手に食べられても仕方ないってことだからね!」
そう言うとアランはおかしそうに笑い「気をつけるよ」と理解してくれた。
そして、決めごとを書き終わり……僕はハッとする。
アランがニコニコしながら話をきいてくれたことをいいことに、これもあれもと勝手に決めたが、一緒に暮らし始めた人に我が家の決めごとを押し付けすぎたことに気付く。
書き出された実家と同じようなお約束表を見ながら、申し訳ない顔をしてアランを見上げた。
「ごめん、アラン。僕、暴走してたね」
「ん? 何が?」
「約束ごととか勝手に決めて……うざかったよね?」
「ううん。ケイのルールは理にかなってるな~って思いながら見てたよ。オレも一人暮らしは初めてだから、ルールがあった方がありがたいよ。あ、一人じゃなくて二人暮らしだったね」
そう言って微笑むアランにつられて、僕も微笑む。
不安だらけだったルームシェアだったけれど、アランとならば楽しく過ごせそうだと思った。
「僕は久貫圭と申します。ご迷惑をおかけすると思いますが、どうぞよろしくお願いします」
深々と頭を下げ、アランの方を見上げると灰色の瞳が弧を描く。
「アラン・フィッシャーです。よろしくね、ケイ」
「こちらこそよろしくお願いします、アランくん」
「アランでいいよ。それに、敬語もいらないよ」
アランは気さくな雰囲気で僕を受け入れてくれる。
アルファは傲慢な人が多く、ベータを見下す人も多いとネットに書いてあったが、アランはそんなタイプのアルファでないことにホッとした。
それから僕たちは自己紹介の延長線で、互いのことを話した。
僕が六人兄弟だと言えば、アランは目を丸くして驚いていた。
そんなに兄弟がいたら、ご飯はどうしてるんだとか、どんな遊びをしてたのかとか色々と質問してきた。
アランについては、大学に入学する前までは、ずっとアメリカ暮らし。
流暢な日本語を話すので学校で習ったのか聞くと、アランの曽祖母はなんと日本人だったそうだ。
幼少期は仕事が忙しい両親の代わりに、曽祖母がアランのそばにいてくれ、自然と日本語を話すようになったんだとか。
その後も、アメリカで日本人との交流もあり今では英語と日本語を話せるようだ。
「アランは凄いね! 僕は、英語は書けるけど話すのが苦手で……」
「そうなの? どこが苦手なの?」
「英語は母音と子音が多いから、それがうまく使い分けられないんだ。友達からは、チビで舌が短いだからだろうって言われちゃうんだけどね」
リビングに常設されたソファーに二人で腰掛け、僕の英語が下手くそな理由を話していると、アランが顔を覗き込んでくる。
「ケイは、舌が短いの?」
「え? うん、ほら」
舌をべっと出すと、アランはまじまじと見つめたあとに、ふっと笑う。
「確かに、ケイは短いね」
「アランもそう思う? rの発音とかすごく苦手なんだ。うまく舌を巻けなくて」
「rの発音は舌を巻かない方がうまく出せるよ。アメリカに来たばかりの人も同じことで悩んでたけどね」
「え、じゃあどうすればいいの?」
アランに問いかければ、ゆっくりとrの発音を教えてくれる。
アランの口の形を真似しながら、舌の位置に注意をして言うと今までで一番綺麗な発音ができた気がした。
「ケイ、うまく発音できてるよ」
「ほんと! ありがとうアラン!」
ヘヘッと笑いながらアランに感謝の言葉をのべれば、アランは優しく微笑んでくれた。
そうこうしていると、引越し業者が荷物を運んできて、それから互いに荷解きに追われた。
一日はあっという間にすぎていく。
実家から持ってきたご飯をダンボールだらけの部屋で食べたあと、再びリビングに集まりアランと一緒にルームシェアのルールを決めていく。
共用スペースの掃除や、使う際の決まりごと。
ゴミ出しに、冷蔵庫内での注意点や約束ごと。
色々と紙に書き出していくと、アランは目を丸くしていた。
「どうしたの?」
「いや、よくこんなに思いつくなって思って」
「ハハ、僕の家は兄妹が多いし、両親も仕事で忙しいから約束ごとが沢山あったんだ。家族でも、ルールを守らないと喧嘩になっちゃうからね。特に、冷蔵庫の食べ物の名前書きは大事だよ! 名前書いてないと勝手に食べられても仕方ないってことだからね!」
そう言うとアランはおかしそうに笑い「気をつけるよ」と理解してくれた。
そして、決めごとを書き終わり……僕はハッとする。
アランがニコニコしながら話をきいてくれたことをいいことに、これもあれもと勝手に決めたが、一緒に暮らし始めた人に我が家の決めごとを押し付けすぎたことに気付く。
書き出された実家と同じようなお約束表を見ながら、申し訳ない顔をしてアランを見上げた。
「ごめん、アラン。僕、暴走してたね」
「ん? 何が?」
「約束ごととか勝手に決めて……うざかったよね?」
「ううん。ケイのルールは理にかなってるな~って思いながら見てたよ。オレも一人暮らしは初めてだから、ルールがあった方がありがたいよ。あ、一人じゃなくて二人暮らしだったね」
そう言って微笑むアランにつられて、僕も微笑む。
不安だらけだったルームシェアだったけれど、アランとならば楽しく過ごせそうだと思った。
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