人が消えた世界で

赤牙

文字の大きさ
上 下
46 / 55
第一章

46話

しおりを挟む
アストさんとその後も何度かキスをした後、僕達はガイルさんの元へ向かった。
書斎のドアをノックすると、ガイルさんが「どうぞ」と返事を返してくれる。
部屋に入ると、僕とアストさんの姿を見てガイルさんは嬉しそうに微笑んでいた。

「二人揃ってやって来たって事は…ちゃんと想いを伝えられたんだなアスト」
「はい。父さん」

ガイルさんにそう言われてアストさんは嬉しそうに僕を抱き寄せる。

え…??
僕一人だけ状況が分からずに二人を交互に見つめているとガイルさんが説明してくれる。

「アストの番がハイルだって事を私は知っていてな…ハイルが王都に行くと言い出したから、アストに事情を伝えたらハイルのところに行って想いを伝えて来ると言って出て行ったんだよ」
「そうだったんですね…。あの、ガイルさん。僕…王都に行くのをやっぱり辞めます。皆と一緒に暮らしたいです。すみません!」

僕はそう言ってガイルさんに頭を下げる。

「ハイル。頭を上げてくれ。謝らなくていいんだよ。これからも一緒に暮らして行こう」
「はい…ありがとうございますガイルさん」

こうして、僕の長い長い一日が終わった。



そして、またいつもと変わらない毎日が…


「ハイル!」
「なぁハイル」
「ハイル?」
「ハーイールー!」
「はいるぅぅ~」


……いつもと変わらないとは言えない毎日が始まった。
もう気持ちを隠さないようになったアストさんは…凄かった。

どこでもここでも僕の隣にぴったりとくっつき、常に名前を呼ばれた。
温室で過ごす時も隣同士に座る事は無くなり…アストさんの膝の上に乗せられるか背後から抱きしめられている状態が当たり前になっていた。

そして今も背後からしっかりと抱きしめられている。

「ア、アストさん…」
「どうしたハイル?」
「あの…ずっとくっついてて…嫌になりませんか?」
「嫌になどならないよ。隣にいると安心するしハイルのいい香りはずっと嗅いでいたい」

そう言って頭に顔を埋められスンスンと匂いを嗅がれる。

「ひやぁ!だ、だめですってアストさん!臭いですから!」
「ハイルに臭いところなどないぞ!」

そう言い切るアストさんに僕は返す言葉もない。
恥ずかしくて顔も首も真っ赤にしているとアストさんが質問してくる。

「なぁハイル。首は…やっぱり触られるのは嫌か?」
「首……?」

首か……
アストさんが半獣人に戻った時に首筋に顔を埋められた時の事を思い出す。
あの時はアストさんの事を知らなくて…恐怖で突き飛ばしてしまったが今は違う。


「多分…大丈夫だと思います」
「少し触ってもいいか?」
「……はい」

緊張しているとアストさんの指先がそっと僕の首筋を撫でる。
なんだかゾクゾクしてビクっと体を震わせてしまう。

「やっぱり嫌か?」
「だ、大丈夫です…」
「そうか…」

触られる事が恐くてゾクゾクするというよりは、体がムズムズしてしまう感覚がなんだか恥ずかしくて俯く。
アストさんは、またゆっくりと首筋をなぞり僕の反応を見ている。

「ハイル…怖くないか?」
「はい…」
「……舐めてもいいか?」
「な、舐め…!?」
「なぁ…ダメか?」

耳元でおねだりされるように囁かれると、恥ずかしくて断りたいのに思わずコクンと頷いてしまう。
僕の返事を確認してアストさんは頸にそっとキスをしてペロ…と舐めてくる。

「ひぁぁ…」

指先とは違う少しザラっ…とした感覚に思わず変な声を上げてしまう。
その後も、チュッチュッと首筋や耳の裏をキスされたり舐められたりして…
アストさんが満足した時には、僕はもう何がなんだか分からずに身も心もくたくたになってしまった…
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

処理中です...