人が消えた世界で

赤牙

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第一章

45話

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互いの気持ちを打ち明け、僕達はしばらくぎゅっと抱きしめ合う。
それから腕を少し緩め…とても近い距離で見つめあう。

「なぁハイル…。本当に王都へ行くのか?あんな辛そうな顔をしてまで王都に行く理由を…俺は知りたい」

アストさんの真剣な顔に僕は…本心を伝える。

「僕がこのまま隠れて生活してしまうと…アストさんは番に会うことができないと思ったからです…。番と出会うのは半獣人の幸せだって…。だから…アストさんの幸せを僕は奪いたくなかったんです…」

僕の言葉を聞いたアストさんは瞳を潤ませ…なんだか泣きそうな顔をして僕をまた抱きしめる。

「俺の番は…君だよ。ハイル…」
「ふぇ…?」

えっ…?
今アストさんはなんて…?

キョトンとした顔でアストさんを見上げれば、クスっと微笑まれ頬を優しく撫でられる。

「理解できてないって顔をしているな…。ハイルが俺の番だ。俺の大切な番だ…」

その言葉に僕の顔は一気に熱くなる。

アストさんの…番が…僕…?
えぇぇぇえ!?

まさかの展開に口をパクパクさせている僕を見てアストさんは目尻を下げる。

「もっと早く言わなくてはいけなかったな…。そうすればハイルが思い悩む事もなかったな…」

愛おしそうに僕の頬を撫でながらアストさんは後悔している口調で話す。

「アストさんの…せいじゃないです…。僕が誰にも相談しないで突っ走ってしまったから…」
「それは違う。俺がハイルから嫌われると恐れてしまったのが悪くて…」
「違います!僕が悪いんです…」
「いや!俺が悪い!」

互いに自分が悪いと言い合っていると可笑しくなって思わず二人とも笑ってしまう。

「こんなやり取りをゴードンさんともした事あります」
「ゴードンか…絶対に自分が悪いって言ってそうだな」

クスクスと二人で笑い合うと、少し気持ちが軽くなる。

「なぁハイル…。まだ王都に行きたいと思っているか?」

アストさんからの質問に僕はふるふると顔を横に振る。

「思ってません…。でも、アストさんは…自由になりたいと思わないんですか?」
「俺はハイルと共にいれるならそれだけでいいんだよ。ハイル…愛してる」
「アストさん…」

僕の頬を何度も優しくなでると、ゆっくりと指先を動かし唇に軽く触れる。
アストさんは僕の唇を熱をもった瞳で見ている。


あ…
キス…するのかな…

そう思うと僕も自然とアストさんの唇を見つめてしまう。
互いに唇を見つめた後に目が合えば吸い寄せられるように顔を近づけていく。

顔が近づくたびにドキドキ鼓動は高鳴る。

アストさん…好き…大好き…

そっと唇が重なり…僕達は初めてのキスをした。
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