人が消えた世界で

赤牙

文字の大きさ
上 下
42 / 55
第一章

42話

しおりを挟む
今日もアストさんはガイルさんとソルと剣の稽古をしている。温室には草花の手入れをしているフィッツさんと僕の二人きり…

「あの…フィッツさん…。恋ってした事ありますか…?」
「えっ!?こ、恋ですか…?」


僕がずっとアストさんに対して抱えていた気持ちは…家族としてのものじゃない。
そう実感してしまった…。

村で皆と暮らしていた時も大好きだと思う子はいたけれど、アストさんに対する気持ちとはまるで違う。
本当に僕はアストさんの事を『好き』なのか…何故か自信が持てなくて相談できる相手は…と考えたところ、フィッツさんしか見当たらなかった。

ガイルさんとイザベラさんには相談できないし、ソルとルナはまだ恋なんて知らないかもしれない。
ゴードンさんは…なんだか相談しづらいし、マリオンさんには逆に質問責めされそうな気がした…。

フィッツさんは俺の質問に驚き少し照れた顔で話してくれる。

「恋をした事があるかと言われたら…あります」
「そうなんですか!それで…その…恋したらどんな気持ちきなりますか?」
「気持ちですか…。ずっと一緒にいたいとか…笑顔を見たいとか…そんな事を思っていました」

同じだ…。
僕がアストさんに抱く気持ちと、とても似ていて僕は思わずウンウンと頷きながらフィッツさんの話を聞いてしまう。

「フィッツさんは、その…恋をした人とはどうなったったんですか?」
「相手とですか?…今も一緒にいます」
「わっ!結ばれたって…ことですか?」

フィッツさんは僕の言葉に照れ笑いしながら頷いてくれる。

「そうです。でも…俺達は歳も凄く離れていたので最初は俺の片思いだったんですけど…番だったので上手くいったって感じですかね」
「番…?」
「えぇ。ハイル様は、俺達半獣人の恋愛と人の恋愛の違いについて知っていますか?」
「恋愛の違い…?僕とフィッツさんで違うんですか?」
「はい。俺達半獣人も人と同じように心を通わせて恋愛する人もいますが、人と決定的に違うのは『番』という存在がある事です」
「番があると何が違うんですか?」

初めて聞く言葉に首を傾げながらフィッツさんの話を聞いていく。

「半獣人にはそれぞれ番がいます。旦那様と奥様も番です。番かどうかは大体出会った時にわかります。匂いも他の人とは違いますしね…」
「そうなんですか…。初めて知りました…」
「番に出会えるということは半獣人にとって幸せなことです…。番は自分の半身みたいなものですからね…」

そう言ってフィッツさんは自分の番の事を思い出しているのか幸せそうに微笑む。


『番』に出会える事は半獣人にとって最高の幸せ…か…。

僕の心の中で『番』という言葉が重くのしかかる。

アストさんは僕のせいでこのお屋敷に縛られている。
それはつまり…アストさんがこれから出会う『番』との機会を奪っているということだ…。

僕のせいで…アストさんは番と出会えない…

花壇へと視線を向けるとアストさんが僕の為にと植えてくれた水色の花が目に入る。

『ハイルに…幸福な愛を贈りたい』

そう言って微笑んでくれたアストさんを思い出す。
きっとその言葉を貰う資格は僕になんてない…。本当にアストさんが『幸福な愛』を贈らなければいけない人がこの世界にいるんだ…


「フィッツさん。お話ありがとうございました…」
「はい。あの…ハイル様…?大丈夫ですか…?」
「…大丈夫です」

精一杯の笑顔を向けて僕は温室を後にした。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

【運命】に捨てられ捨てたΩ

雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

処理中です...