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第一章
41話
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「なぁ~ハイルってさ…兄さんの事どう思ってるの?」
ソルと一緒に過ごしていると突然そんな事を質問をされ僕は少し焦った顔をして返事をする。
「えぇっ!?ど、どうって?」
「ん?もう怖くないのかって事だよ」
「あ…そっちか」
「そっちって…違う方もあるのか?」
ソルは挙動不審な僕を不思議そうに見つめる。
その視線に自分は一体何を考えていたんだ…と、思い返して一人顔を赤くする。
「き、気にしないで!もう…アストさんの事は怖くないよ」
「そっか…それならよかった!」
ソルはそう言うと嬉しそうな顔を見せ、アストさんの事を色々と話し始める。
この前はアストさんと何をした…何を話したなど、話を聞いているだけでソルがどれだけアストさんの事が好きなのかよく分かった。
「最近は兄さんと一緒に剣の訓練をしてるんだ」
「へぇ~。そういえばイザベラさんがアストさんは武術大会で優勝してたとか言ってたね」
「あぁそうなんだ!凶獣化してずっと剣を握ってなかったのに、この前手合わせしたら全然歯が立たなくてさ~」
ソルは誇らしげな顔をしてアストさんの自慢話を続ける。僕もその話を聞きながらアストさんの姿を思い浮かべた。
「アストさん強そうだもんね。でも…二人ともすごいなぁ。剣なんて僕、持ったことがないから…どんな風に練習してるの?」
「そっか…口で説明するのも難しいから見にこいよ!明日、父さんと兄さんと一緒に訓練するんだ!」
「いいの?」
「もちろん!午前中に中庭でやってるからさ」
「ありがとうソル。楽しみにしてるね」
剣術の練習かぁ…一体どんな感じなんだろうか…。
✳︎
朝食を済ませてソルが言っていた中庭へと向かうと剣と剣がぶつかり合う音が聞こえてくる。
その音を聞いて僕は少し興奮しながら足早に中庭へと向かった。
中庭ではアストさんとガイルさんが互いに剣を打ち込んでいた。
体格はアストさんの方が大きいのだが、ガイルさんはそんなアストさんをものともせず剣を受け止めて打ち返していた。
「うわぁ…凄い…」
「あ、ハイル!こっちこっち!」
中庭の端で突っ立っているソルが声をかけてくれたので、ソルの隣に行きガイルさんとアストさんの訓練を見学する。
二人は相手が次は何処に打ち込んでくるのか分かっているように動き、素人の僕は二人の動きを目で追うのが精一杯だった。
暫く二人を見ていると区切りがついたのか剣を下ろし一礼する。
「アスト。もう少し体重を乗せて打ち込め。体格差のある相手では打ち負けてしまうぞ」
「はい。分かりました」
アストさんはガイルさんからのアドバイスをもらい終えるとこちらに振り向き、僕に気付いたのか笑顔を向けてくれる。
「ハイル!来てたのか」
頬を伝う汗を拭いながらこちらにやってくるアストさんに近くにあったタオルを渡す。
「アストさん。凄かったです…」
「ははっ。ありがとうハイル。まだ父さんには敵わないんだがな」
タオルで汗を拭いながら、いつものようにニカっと微笑まれるとキュンと胸が熱くなる。
まただ…。
こうやってアストさんに笑顔を向けられると鼓動が早くなる…。
これじゃまるで…
「どうしたハイル?」
「な、なんでもないです!」
ドキドキと早くなる鼓動を抑え込むように深呼吸して気持ちを落ち着かせているとソルが声をかけてくる。
「兄さん。ハイルは剣を習った事ないんだって~」
「そうなのか…。ハイルも少しやってみるか?」
「えっ?僕…できるかな…」
「そう気を張らなくていい。まずは剣に触れて慣れてみる所からだな」
ソルの持っていた剣を手渡され受け取ると、思っていたより重たくて「うわっ…」と声を上げ剣落としそうになる。すると、アストさんの手が背後から伸びてきて剣を支えくれる。
「結構重たいからな。気をつけて持てよ」
「はい……」
手を添えられて…背中に感じるアストさんの体温と頭上から聞こえる低い声にドキドキしながら剣を一緒に振る。
10分程剣を振るとハァハァ…と息は上がり、腕はぷるぷると震え限界を知らせていた。
「ハイルはまずは体力作りからだな」
「はぃ…」
僕達の様子を見ていたガイルさんに笑いながら言われ僕はコクコクと頷く。
こんな重たい物を平気で振り回す皆を尊敬しているとアストさんの声が耳元で響く。
「ハイル。もう剣を下ろしていいぞ」
「ひゃいっ!」
いきなり聞こえてきたアストさんの声に驚き、上擦った変な声をあげてしまう。
「どうした?まだ緊張してるのか?」
「だ、大丈夫です…。すみません…」
剣を渡すとアストさんも背後からいなくなり…さっきまで近くにあった温もりが消えたことに寂しさを感じてしまう。
剣の手入れをしているアストさんを眺めながら僕は、アストさんに対する自分の気持ちの変化を感じた…。
ソルと一緒に過ごしていると突然そんな事を質問をされ僕は少し焦った顔をして返事をする。
「えぇっ!?ど、どうって?」
「ん?もう怖くないのかって事だよ」
「あ…そっちか」
「そっちって…違う方もあるのか?」
ソルは挙動不審な僕を不思議そうに見つめる。
その視線に自分は一体何を考えていたんだ…と、思い返して一人顔を赤くする。
「き、気にしないで!もう…アストさんの事は怖くないよ」
「そっか…それならよかった!」
ソルはそう言うと嬉しそうな顔を見せ、アストさんの事を色々と話し始める。
この前はアストさんと何をした…何を話したなど、話を聞いているだけでソルがどれだけアストさんの事が好きなのかよく分かった。
「最近は兄さんと一緒に剣の訓練をしてるんだ」
「へぇ~。そういえばイザベラさんがアストさんは武術大会で優勝してたとか言ってたね」
「あぁそうなんだ!凶獣化してずっと剣を握ってなかったのに、この前手合わせしたら全然歯が立たなくてさ~」
ソルは誇らしげな顔をしてアストさんの自慢話を続ける。僕もその話を聞きながらアストさんの姿を思い浮かべた。
「アストさん強そうだもんね。でも…二人ともすごいなぁ。剣なんて僕、持ったことがないから…どんな風に練習してるの?」
「そっか…口で説明するのも難しいから見にこいよ!明日、父さんと兄さんと一緒に訓練するんだ!」
「いいの?」
「もちろん!午前中に中庭でやってるからさ」
「ありがとうソル。楽しみにしてるね」
剣術の練習かぁ…一体どんな感じなんだろうか…。
✳︎
朝食を済ませてソルが言っていた中庭へと向かうと剣と剣がぶつかり合う音が聞こえてくる。
その音を聞いて僕は少し興奮しながら足早に中庭へと向かった。
中庭ではアストさんとガイルさんが互いに剣を打ち込んでいた。
体格はアストさんの方が大きいのだが、ガイルさんはそんなアストさんをものともせず剣を受け止めて打ち返していた。
「うわぁ…凄い…」
「あ、ハイル!こっちこっち!」
中庭の端で突っ立っているソルが声をかけてくれたので、ソルの隣に行きガイルさんとアストさんの訓練を見学する。
二人は相手が次は何処に打ち込んでくるのか分かっているように動き、素人の僕は二人の動きを目で追うのが精一杯だった。
暫く二人を見ていると区切りがついたのか剣を下ろし一礼する。
「アスト。もう少し体重を乗せて打ち込め。体格差のある相手では打ち負けてしまうぞ」
「はい。分かりました」
アストさんはガイルさんからのアドバイスをもらい終えるとこちらに振り向き、僕に気付いたのか笑顔を向けてくれる。
「ハイル!来てたのか」
頬を伝う汗を拭いながらこちらにやってくるアストさんに近くにあったタオルを渡す。
「アストさん。凄かったです…」
「ははっ。ありがとうハイル。まだ父さんには敵わないんだがな」
タオルで汗を拭いながら、いつものようにニカっと微笑まれるとキュンと胸が熱くなる。
まただ…。
こうやってアストさんに笑顔を向けられると鼓動が早くなる…。
これじゃまるで…
「どうしたハイル?」
「な、なんでもないです!」
ドキドキと早くなる鼓動を抑え込むように深呼吸して気持ちを落ち着かせているとソルが声をかけてくる。
「兄さん。ハイルは剣を習った事ないんだって~」
「そうなのか…。ハイルも少しやってみるか?」
「えっ?僕…できるかな…」
「そう気を張らなくていい。まずは剣に触れて慣れてみる所からだな」
ソルの持っていた剣を手渡され受け取ると、思っていたより重たくて「うわっ…」と声を上げ剣落としそうになる。すると、アストさんの手が背後から伸びてきて剣を支えくれる。
「結構重たいからな。気をつけて持てよ」
「はい……」
手を添えられて…背中に感じるアストさんの体温と頭上から聞こえる低い声にドキドキしながら剣を一緒に振る。
10分程剣を振るとハァハァ…と息は上がり、腕はぷるぷると震え限界を知らせていた。
「ハイルはまずは体力作りからだな」
「はぃ…」
僕達の様子を見ていたガイルさんに笑いながら言われ僕はコクコクと頷く。
こんな重たい物を平気で振り回す皆を尊敬しているとアストさんの声が耳元で響く。
「ハイル。もう剣を下ろしていいぞ」
「ひゃいっ!」
いきなり聞こえてきたアストさんの声に驚き、上擦った変な声をあげてしまう。
「どうした?まだ緊張してるのか?」
「だ、大丈夫です…。すみません…」
剣を渡すとアストさんも背後からいなくなり…さっきまで近くにあった温もりが消えたことに寂しさを感じてしまう。
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