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第一章
37話〜アストSide〜
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ハイルが倒れた後、俺は部屋へと帰りベッドの上に蹲る。
ハイルを傷つけるつもりなどなかった…。
ただハイルに近づきたくて…触れたくて…
そんな事を考えていると部屋のドアが開き母さんが部屋へと入ってくる。
「アスト…。ハイルくん、目を覚ましたそうよ」
ハイルが無事に目を覚ましたと聞き少し安堵する。母さんはベッドへと腰かけると俺の頭を優しく撫でてくれる。
「父さんから話は聞いたわ…。いきなりハイルくんに抱きついたんですってね。誰だっていきなり飛びかかられたら驚いてしまうわ」
怒られると思い母さんの方へ恐る恐る顔を向けるとポンポンと頭を軽く叩かれる。
「アストはハイルくんのことが好きなの?」
母さんの言葉に俺はコクンと頷く。
「じゃあ今日のようにハイルくんを驚かせたり恐怖を植え付けるような行動はダメよ。アストはハイルくんよりも体が大きくて強いのだから、ハイルくんを守ってあげないと…」
そうだ…
俺はハイルを守るってずっと思っていたのに…
「少しずつハイルくんと仲良くなっていきなさい。大丈夫…貴方がハイルくんの事を大切に思っているのなら、その気持ちは必ず伝わるわ」
母さんの方を見ると優しい顔で俺に微笑みかけてくれた。
✳︎
それからはハイルと仲良くなる為にまずは言葉を必死に練習した。
話すのはなかなか難しく、頭では分かっていても声にすると違っている事もあった。
そんなある日、屋敷を歩いていると、ふとハイルの甘い香りがした。
久しぶりのハイルの香りにつられるように古びたドアの前に立つ。
ハイルが中にいるんだ…会いたいな…。
けれど、中に入ればこの前のように怖がらせてしまうかもしれない…我慢だ…。
そう思い俺は扉の前に座り込み、ほのかに香るハイルの甘い香りを嗅ぎながらハイルの事を思い浮かべる。
「アスト様…?どうされました?」
しばらくするとゴードンさんが通りがかり座り込む俺を見て驚いた顔をする。
俺がドアの方へと目線を向けると、「あぁ…ハイル様に会いたいのですね…」と呟く。
「……アスト様、少しお待ちください」
ゴードンさんはそう言うと部屋の中へと入っていき、暫くするとゴードンさんに部屋へ招かれる。
恐る恐る入った部屋の中は綺麗な草花が咲く温室だった。そして…ハイルの姿が目に入る。
ハイルに会え嬉しくて思わず顔は綻ぶが…俺を見るハイルの瞳は恐怖の色がまだ残っていた。
ハイルを怖がらせないように…。
そう思った俺はとりあえず姿を隠す。
ハイルの顔を見る事ができて…ハイルと同じ空間にいるだけで俺は幸せだった…。
それからは幸せな日々が続く。
毎日ハイルがいる温室へと通い何をする訳でもなく一緒に過ごす。
暖かな日差し、本のページをめくる音…時折、クスっと小さく笑うハイルの声も聞こえてきた。
言葉の方はようやく単語で話せるようになる。
父さん、母さん、ソル、ルナ。
そして一番好きな言葉…『ハイル』。
ハイルに向かって初めて名前を呼んだ時、そして俺の名前を呼んでくれた時は嬉しくて何度も何度呼んでしまった…。
✳︎
「アストは本当にハイルくんの事が好きなのね」
父さんと母さんと一緒に過ごしている時に母さんがそんな事を言ってくる。
「ウン!ハイル…スキ…。ハイル…イイニオイ!イッショダト、アンシン…」
嬉しそうにハイルの事を話す俺の言葉に父さんと母さんは顔を見合わせ驚いた顔を見せる。
「あらあら…。好きだとは知っていたけれどまさか…」
「アスト…。ハイルはお前の番なんだな…」
「ツガイ…?」
「あぁ。父さんと母さんの関係の事だ。番は自分の半身…とても大切な存在だ」
ハイルは大切な存在…。
その言葉はとてもしっくりくる。出会った時からハイルのことをずっと守りたいと思っていた。
「だがな…アスト。ハイルは『人』だ。私達半獣のように番という概念はない。だから、人は心を通わせ愛を育んでいくんだ」
「アイ…?」
「あぁ。言葉で説明するのは難しいが…ハイルの事を一番に思い大切にしてあげるんだ」
「ウン」
俺は父さんの言葉にしっかりと頷く。
ハイルは俺の番。
大切な大切な番なんだ…。
ハイルを傷つけるつもりなどなかった…。
ただハイルに近づきたくて…触れたくて…
そんな事を考えていると部屋のドアが開き母さんが部屋へと入ってくる。
「アスト…。ハイルくん、目を覚ましたそうよ」
ハイルが無事に目を覚ましたと聞き少し安堵する。母さんはベッドへと腰かけると俺の頭を優しく撫でてくれる。
「父さんから話は聞いたわ…。いきなりハイルくんに抱きついたんですってね。誰だっていきなり飛びかかられたら驚いてしまうわ」
怒られると思い母さんの方へ恐る恐る顔を向けるとポンポンと頭を軽く叩かれる。
「アストはハイルくんのことが好きなの?」
母さんの言葉に俺はコクンと頷く。
「じゃあ今日のようにハイルくんを驚かせたり恐怖を植え付けるような行動はダメよ。アストはハイルくんよりも体が大きくて強いのだから、ハイルくんを守ってあげないと…」
そうだ…
俺はハイルを守るってずっと思っていたのに…
「少しずつハイルくんと仲良くなっていきなさい。大丈夫…貴方がハイルくんの事を大切に思っているのなら、その気持ちは必ず伝わるわ」
母さんの方を見ると優しい顔で俺に微笑みかけてくれた。
✳︎
それからはハイルと仲良くなる為にまずは言葉を必死に練習した。
話すのはなかなか難しく、頭では分かっていても声にすると違っている事もあった。
そんなある日、屋敷を歩いていると、ふとハイルの甘い香りがした。
久しぶりのハイルの香りにつられるように古びたドアの前に立つ。
ハイルが中にいるんだ…会いたいな…。
けれど、中に入ればこの前のように怖がらせてしまうかもしれない…我慢だ…。
そう思い俺は扉の前に座り込み、ほのかに香るハイルの甘い香りを嗅ぎながらハイルの事を思い浮かべる。
「アスト様…?どうされました?」
しばらくするとゴードンさんが通りがかり座り込む俺を見て驚いた顔をする。
俺がドアの方へと目線を向けると、「あぁ…ハイル様に会いたいのですね…」と呟く。
「……アスト様、少しお待ちください」
ゴードンさんはそう言うと部屋の中へと入っていき、暫くするとゴードンさんに部屋へ招かれる。
恐る恐る入った部屋の中は綺麗な草花が咲く温室だった。そして…ハイルの姿が目に入る。
ハイルに会え嬉しくて思わず顔は綻ぶが…俺を見るハイルの瞳は恐怖の色がまだ残っていた。
ハイルを怖がらせないように…。
そう思った俺はとりあえず姿を隠す。
ハイルの顔を見る事ができて…ハイルと同じ空間にいるだけで俺は幸せだった…。
それからは幸せな日々が続く。
毎日ハイルがいる温室へと通い何をする訳でもなく一緒に過ごす。
暖かな日差し、本のページをめくる音…時折、クスっと小さく笑うハイルの声も聞こえてきた。
言葉の方はようやく単語で話せるようになる。
父さん、母さん、ソル、ルナ。
そして一番好きな言葉…『ハイル』。
ハイルに向かって初めて名前を呼んだ時、そして俺の名前を呼んでくれた時は嬉しくて何度も何度呼んでしまった…。
✳︎
「アストは本当にハイルくんの事が好きなのね」
父さんと母さんと一緒に過ごしている時に母さんがそんな事を言ってくる。
「ウン!ハイル…スキ…。ハイル…イイニオイ!イッショダト、アンシン…」
嬉しそうにハイルの事を話す俺の言葉に父さんと母さんは顔を見合わせ驚いた顔を見せる。
「あらあら…。好きだとは知っていたけれどまさか…」
「アスト…。ハイルはお前の番なんだな…」
「ツガイ…?」
「あぁ。父さんと母さんの関係の事だ。番は自分の半身…とても大切な存在だ」
ハイルは大切な存在…。
その言葉はとてもしっくりくる。出会った時からハイルのことをずっと守りたいと思っていた。
「だがな…アスト。ハイルは『人』だ。私達半獣のように番という概念はない。だから、人は心を通わせ愛を育んでいくんだ」
「アイ…?」
「あぁ。言葉で説明するのは難しいが…ハイルの事を一番に思い大切にしてあげるんだ」
「ウン」
俺は父さんの言葉にしっかりと頷く。
ハイルは俺の番。
大切な大切な番なんだ…。
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