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第一章
36話〜アストSide〜
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それからは少しずつ少しずつ紐解かれていくように記憶が蘇っていった。
母さん…ルナ…ソル…。
皆に会うと記憶はより鮮明になっていく。
言葉は理解できるようになったが、話せなくなってしまった俺に父さんと母さんは話し方を教えてくれた。
色々なことを教えてもらうたびに何かを思い出し、ただの獣から元の俺自身に戻っていくのが自分でも分かった。
それから暫くして、俺を殴った馬の半獣ゴードンさんと拘束された時に一緒にいたイタチの半獣フィッツさんは、落ち着いた俺に会うなり謝罪をしてきた。
あの時は少年を取られると思い必死だったが、二人に牙を向け威嚇した俺を止めるには、あの行為は必要な事だったと今なら理解できる。
二人は傷ついた少年を助けたかっただけなんだ。
謝罪する二人と同じように俺も頭を下げれば「そんな…。アスト様…頭を上げて下さい」と、申し訳なさそうな顔をしていた。
二人とも仲直りをした後は、ゴードンさんがマナーを中心に教えてくれるようになった。
体が半獣に戻り全てが順調に進んでいく。
そう思っていた時に、父さんからあの少年『ハイル』と会ってみないかと聞かれた。
ハイルに会えるのはとても嬉しかった。
まだ言葉が上手く喋れず名前を呼ぶ事ができないのが悔しかったが、顔を見て匂いを嗅いで…ハイルの笑顔が見たい。
俺が嬉しそうにウンウンと頷くと父さんが口を開く。
「ハイルもアストと会ってもいいと言っているが…いいかアスト。お前はハイルに一度牙を向け傷つけている。それがハイルにとってどれだけ恐ろしい事なのか理解しておくんだぞ」
真剣な表情の父さんの言葉に俺はしっかり頷く。
ハイルを二度と傷つけたりしない…そう心の中で誓った。
そして、ハイルに会う当日。
父さんからは再度ハイルにいきなり近づかないように言われたが、そんな事よりも早くハイルに会いたい気持ちの方が強く俺はとても興奮していた。
ハイルの甘い香りが近づいてくる…
もうすぐ…もうすぐ会えるんだ…。
ハイルを目の前にすると喜びが爆発してしまい、思わず飛びつくように駆け寄ってしまう。
ハイルだ…
あぁ…なんていい香りなんだ…心が安らぐ…
そして柔らかな体…ハイル…ハイル…
ギュッと抱き寄せ首筋へと顔を埋めた瞬間にハイルが拒絶するように俺を突き飛ばした。
「いやっっっ!!」
突然の事に訳がわからずハイルを見つめると、体はカタカタと震え俺を見つめる瞳は恐怖の色に染まっていた。
「ごめんなさい…ごめんな…さい…ごめん…な…さ…い…」
ハァハァと荒い呼吸をしながら何度もそう呟くとハイルは糸が切れたように意識を失う。
思わず駆け寄ろうとする前にゴードンさんに止められ、代わりに父さんがハイルを抱きかかえていた。
「アスト…」
父さんから向けられた視線で何を言いたいのか分かった…。
俺は…ハイルをまた傷つけてしまった…。
母さん…ルナ…ソル…。
皆に会うと記憶はより鮮明になっていく。
言葉は理解できるようになったが、話せなくなってしまった俺に父さんと母さんは話し方を教えてくれた。
色々なことを教えてもらうたびに何かを思い出し、ただの獣から元の俺自身に戻っていくのが自分でも分かった。
それから暫くして、俺を殴った馬の半獣ゴードンさんと拘束された時に一緒にいたイタチの半獣フィッツさんは、落ち着いた俺に会うなり謝罪をしてきた。
あの時は少年を取られると思い必死だったが、二人に牙を向け威嚇した俺を止めるには、あの行為は必要な事だったと今なら理解できる。
二人は傷ついた少年を助けたかっただけなんだ。
謝罪する二人と同じように俺も頭を下げれば「そんな…。アスト様…頭を上げて下さい」と、申し訳なさそうな顔をしていた。
二人とも仲直りをした後は、ゴードンさんがマナーを中心に教えてくれるようになった。
体が半獣に戻り全てが順調に進んでいく。
そう思っていた時に、父さんからあの少年『ハイル』と会ってみないかと聞かれた。
ハイルに会えるのはとても嬉しかった。
まだ言葉が上手く喋れず名前を呼ぶ事ができないのが悔しかったが、顔を見て匂いを嗅いで…ハイルの笑顔が見たい。
俺が嬉しそうにウンウンと頷くと父さんが口を開く。
「ハイルもアストと会ってもいいと言っているが…いいかアスト。お前はハイルに一度牙を向け傷つけている。それがハイルにとってどれだけ恐ろしい事なのか理解しておくんだぞ」
真剣な表情の父さんの言葉に俺はしっかり頷く。
ハイルを二度と傷つけたりしない…そう心の中で誓った。
そして、ハイルに会う当日。
父さんからは再度ハイルにいきなり近づかないように言われたが、そんな事よりも早くハイルに会いたい気持ちの方が強く俺はとても興奮していた。
ハイルの甘い香りが近づいてくる…
もうすぐ…もうすぐ会えるんだ…。
ハイルを目の前にすると喜びが爆発してしまい、思わず飛びつくように駆け寄ってしまう。
ハイルだ…
あぁ…なんていい香りなんだ…心が安らぐ…
そして柔らかな体…ハイル…ハイル…
ギュッと抱き寄せ首筋へと顔を埋めた瞬間にハイルが拒絶するように俺を突き飛ばした。
「いやっっっ!!」
突然の事に訳がわからずハイルを見つめると、体はカタカタと震え俺を見つめる瞳は恐怖の色に染まっていた。
「ごめんなさい…ごめんな…さい…ごめん…な…さ…い…」
ハァハァと荒い呼吸をしながら何度もそう呟くとハイルは糸が切れたように意識を失う。
思わず駆け寄ろうとする前にゴードンさんに止められ、代わりに父さんがハイルを抱きかかえていた。
「アスト…」
父さんから向けられた視線で何を言いたいのか分かった…。
俺は…ハイルをまた傷つけてしまった…。
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