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第一章
30話
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「ハイルくん…お願いがあるんだけど…」
僕の部屋へとやってきたイザベラさんは申し訳なさそうに僕に声をかけてくる。
イザベラさんがお願い事なんて珍しいな…そう思いながら「どうしました?」と返事をする。
「あのね…アストの髪を切ろうと思うんだけど…なかなかじっとしてくれなくてね。ハイルくんにも協力した欲しいんだけどいいかしら?」
「髪切りですか?僕…人の髪の毛を切った事ないんです…。それにアストさんに触れられるか…」
「あっ!違うのハイルくん!ハイルくんはアストの目の前にいてくれればいいの!髪はフィッツが切るから」
「目の前に…いるだけ…」
想像しただけでなんだか不思議な光景が浮かんでくるが、確かにアストさんの髪は前も後ろも伸び放題だ。
髪の毛…切った方がスッキリするよね。
「分かりました。僕がいて効果があるか分かりませんが…協力します!」
「ハイルくんありがとう~!きっと上手くいくから♪」
イザベラさんはそう言うとアストさんを待たせている部屋へと僕を連れて向かう。
部屋の中へと入ればアストさんとフィッツさんが待っていた。
「ハイル様~!待ってましたよ~」
「ハイル!ハイル!」
ハサミを持って困り果てた様子の半泣き顔のフィッツさんと、僕を見ていつもの笑顔を見せるアストさんが僕を出迎えてくれる。
「フィッツさん、アストさん、こんにちわ」
挨拶をすれば自分よりも小さなフィッツさんの後ろに隠れてアストさんは嬉しそうエヘヘと笑いながらに尻尾を揺らす。
アストさんを見れば髪の毛を切る時に使うケープを被ってはいるが、今のところ髪を切られた痕跡は無かった。
「髪の毛を切る準備までは協力してくれるのだけど、いざ髪の毛を切ろうとするとソワソワしだして、いきなり動き出すから切りたくても切れないのよ…」
イザベラさんはハァ…と、ため息をついてアストさんへと目を向ける。
アストさんは自分の事を言われていると分かったのか、しゅん…と、落ち込んだ表情を見せ耳と尻尾も元気を無くしたようにへにゃりと垂らす。
そして、フィッツさんの持つハサミへと目を向けると凄く嫌そうな顔をした。
「あの…アストさん。ハサミが怖いんですか?」
僕の言葉にブンブンと頷くアストさんはハサミを忌々しそうに見つめる。
「大丈夫ですよ。髪の毛切るだけですから。痛くないですし、髪の毛切ったらスッキリしますよ」
宥めるようにアストさんへと声をかけると僕とハサミを交互に何度か見て…コクンと頷き用意されていた椅子へと座る。
フィッツさんとイザベラさんはホッとした表情を見せて「髪切るわね…」と、声をかけて髪を切っていく。
シャキシャキシャキと慣れた手つきでフィッツさんが髪の毛を切っていき、アストさんは顔をしかめ少しモジモジしながら耐えていた。
時折不安そうにこちらを見てくるので「大丈夫ですよ」と声をかければ少し表情が和らぐ。
耳の周りを切られるのは一番嫌なようで目をギュッと閉じて口を結び必死に我慢していた。
「ふふ。小さな頃のアストと一緒ね…。髪の毛切るの凄く嫌いだったから」
イザベラさんは僕達の様子を見ながら小さな頃のアストさんを思い浮かべ微笑んでいた。
「よし!アスト様終わりましたよ!」
フィッツさんがそう言ってケープを外してあげるとアストさんはやっと解放されたと背伸びをして頭をフルフルと振る。
長かった髪はサッパリと短くなり、よく見ると金色の髪の毛に混じってガイルさんと同じ赤色の髪が所々見える。
煌めく金色の間から見える燃えるような赤色がアクセントになっていて…髪の毛が短くなったアストさんにとても似合っている。
顔を覆っていた髪の毛が無くなるとアストさんの顔がはっきりと分かる。
イザベラさんに似た綺麗な顔立ちの中に、ガイルさんの凛々しさも合わさって同性の僕でもアストさんはカッコいいと思った。
「うわぁ…綺麗な髪色ですね。そして、髪型も凄く似合ってます」
「…カッコイイ?」
「はい。カッコいいです」
僕がそう言うとアストさんはとても嬉しそうに微笑み…その笑顔に少しドキッとしてしまう。
それからアストさんはフィッツさんやイザベラさんにも「カッコイイ?カッコイイ?」と何度も何度も嬉しそうに聞いていた。
僕の部屋へとやってきたイザベラさんは申し訳なさそうに僕に声をかけてくる。
イザベラさんがお願い事なんて珍しいな…そう思いながら「どうしました?」と返事をする。
「あのね…アストの髪を切ろうと思うんだけど…なかなかじっとしてくれなくてね。ハイルくんにも協力した欲しいんだけどいいかしら?」
「髪切りですか?僕…人の髪の毛を切った事ないんです…。それにアストさんに触れられるか…」
「あっ!違うのハイルくん!ハイルくんはアストの目の前にいてくれればいいの!髪はフィッツが切るから」
「目の前に…いるだけ…」
想像しただけでなんだか不思議な光景が浮かんでくるが、確かにアストさんの髪は前も後ろも伸び放題だ。
髪の毛…切った方がスッキリするよね。
「分かりました。僕がいて効果があるか分かりませんが…協力します!」
「ハイルくんありがとう~!きっと上手くいくから♪」
イザベラさんはそう言うとアストさんを待たせている部屋へと僕を連れて向かう。
部屋の中へと入ればアストさんとフィッツさんが待っていた。
「ハイル様~!待ってましたよ~」
「ハイル!ハイル!」
ハサミを持って困り果てた様子の半泣き顔のフィッツさんと、僕を見ていつもの笑顔を見せるアストさんが僕を出迎えてくれる。
「フィッツさん、アストさん、こんにちわ」
挨拶をすれば自分よりも小さなフィッツさんの後ろに隠れてアストさんは嬉しそうエヘヘと笑いながらに尻尾を揺らす。
アストさんを見れば髪の毛を切る時に使うケープを被ってはいるが、今のところ髪を切られた痕跡は無かった。
「髪の毛を切る準備までは協力してくれるのだけど、いざ髪の毛を切ろうとするとソワソワしだして、いきなり動き出すから切りたくても切れないのよ…」
イザベラさんはハァ…と、ため息をついてアストさんへと目を向ける。
アストさんは自分の事を言われていると分かったのか、しゅん…と、落ち込んだ表情を見せ耳と尻尾も元気を無くしたようにへにゃりと垂らす。
そして、フィッツさんの持つハサミへと目を向けると凄く嫌そうな顔をした。
「あの…アストさん。ハサミが怖いんですか?」
僕の言葉にブンブンと頷くアストさんはハサミを忌々しそうに見つめる。
「大丈夫ですよ。髪の毛切るだけですから。痛くないですし、髪の毛切ったらスッキリしますよ」
宥めるようにアストさんへと声をかけると僕とハサミを交互に何度か見て…コクンと頷き用意されていた椅子へと座る。
フィッツさんとイザベラさんはホッとした表情を見せて「髪切るわね…」と、声をかけて髪を切っていく。
シャキシャキシャキと慣れた手つきでフィッツさんが髪の毛を切っていき、アストさんは顔をしかめ少しモジモジしながら耐えていた。
時折不安そうにこちらを見てくるので「大丈夫ですよ」と声をかければ少し表情が和らぐ。
耳の周りを切られるのは一番嫌なようで目をギュッと閉じて口を結び必死に我慢していた。
「ふふ。小さな頃のアストと一緒ね…。髪の毛切るの凄く嫌いだったから」
イザベラさんは僕達の様子を見ながら小さな頃のアストさんを思い浮かべ微笑んでいた。
「よし!アスト様終わりましたよ!」
フィッツさんがそう言ってケープを外してあげるとアストさんはやっと解放されたと背伸びをして頭をフルフルと振る。
長かった髪はサッパリと短くなり、よく見ると金色の髪の毛に混じってガイルさんと同じ赤色の髪が所々見える。
煌めく金色の間から見える燃えるような赤色がアクセントになっていて…髪の毛が短くなったアストさんにとても似合っている。
顔を覆っていた髪の毛が無くなるとアストさんの顔がはっきりと分かる。
イザベラさんに似た綺麗な顔立ちの中に、ガイルさんの凛々しさも合わさって同性の僕でもアストさんはカッコいいと思った。
「うわぁ…綺麗な髪色ですね。そして、髪型も凄く似合ってます」
「…カッコイイ?」
「はい。カッコいいです」
僕がそう言うとアストさんはとても嬉しそうに微笑み…その笑顔に少しドキッとしてしまう。
それからアストさんはフィッツさんやイザベラさんにも「カッコイイ?カッコイイ?」と何度も何度も嬉しそうに聞いていた。
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