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第一章
28話
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意識を失った後、僕はいつものようにベッドへと寝かされていた。
目を開ければ暗い表情で俯くガイルさんの姿が目に入る。
「ガイルさん…」
僕の声にハッとした表情を見せ、次には顔を歪ませる。
「ハイル…すまない。怖い思いをさせてしまったな…」
そう言って僕の頭を撫でようとしたが、ガイルさんに触れられた時に僕が体を震わせてしまった事を思い出したのか伸ばしかけた手を引っ込める。
「僕の方こそごめんなさい…。思わずアストさんを突き飛ばしてしまいました…」
「あんな風に急に抱きつかれれば誰だって驚くし怖いと思ってしまう。ましてやハイルはアストに牙を向けられたんだ…恐怖するのも仕方のない事だ。アストもここ最近はとても落ち着いてね…油断してしまいアストを止められなかった私が全て悪いんだ」
ガイルさんはそう言うと僕に頭を下げる。
「そんな!頭を上げて下さいガイルさん!」
「しかし…」
「僕なら大丈夫です!だから…謝らないで下さい…」
きっとガイルさんもアストさんの事で色々と悩んでいる。僕の事なんかで悩みを増やしてはダメだ…。
そう思い僕が笑顔を向けるとガイルさんの疲れた顔にも少し笑顔が戻った。
それから数日後、僕が温室で本を読んでいるとゴードンさんがやってくる。
「ハイル様…すみません。お願い事が一つあるのですが…」
「はい。なんですか?」
ゴードンさんからのお願い事なんて珍しいなと思いながら話を聞くと、ゴードンさんは少し言いづらそうに口を開く。
「アスト様が温室のドアの前で座り込んでしまいまして…。どうやらハイル様の事が気になっているようなんです。私がアスト様のそばで飛びかからないように見守りますので…温室に入れてもよろしいですか?無理ならば断っていただいても大丈夫です」
アストさんが…来ている?
閉じられたドアの方へと目を向け少し考える。
確かにまだアストさんの事を怖いと思ってはいるけれど…前回もアストさんは僕を傷つけようとして近づいてきたわけではなかった。
ゴードンさんもいるし…きっと大丈夫だろう…。
「大丈夫です。アストさんを中に入れてあげて下さい」
僕の返事にゴードンさんは少し心配した顔を見せて「分かりました」と、言って温室のドアへ向かう。
ドアを開くとその前で座り込んでいたアストさんが見え、ゴードンさんに手招かれるとゆっくり中へと入ってくる。
僕と目が合えば前と同じように顔を綻ばせるが、飛びかかる事もなく逆に物陰に隠れてしまう。
「「えっ!?」」
僕とゴードンさんはアストさんの意外な行動に驚き思わず二人して声を上げてしまう。
「これは…ハイル様を怖がらせないようにしているのでしょうか…?」
「どうなんでしょう…?」
僕とゴードンさんは顔を見合わせアストさんの方へと目線を向ける。
物陰からは尻尾だけが見えており、ゆらゆらと嬉しそうに揺れていた。
それから僕が温室に行くと必ずアストさんがやってくるようになった。僕に姿を見せないように物陰に隠れ、何をする訳でもなく同じ空間で過ごす日々。
定位置になりつつある物陰には床に座り込むアストさんの為に、ゴードンさんが大きめのクッションを用意して今ではそこに座っている。
普段はゆらゆらと揺れている尻尾も、眠気を誘う陽気の時には徐々に下がっていき床につくとスースーと寝息が聞こえてくる。
そんな不思議な日々を過ごしていくうちに、アストさんに対する恐怖心は少しずつ薄らいでいった…。
目を開ければ暗い表情で俯くガイルさんの姿が目に入る。
「ガイルさん…」
僕の声にハッとした表情を見せ、次には顔を歪ませる。
「ハイル…すまない。怖い思いをさせてしまったな…」
そう言って僕の頭を撫でようとしたが、ガイルさんに触れられた時に僕が体を震わせてしまった事を思い出したのか伸ばしかけた手を引っ込める。
「僕の方こそごめんなさい…。思わずアストさんを突き飛ばしてしまいました…」
「あんな風に急に抱きつかれれば誰だって驚くし怖いと思ってしまう。ましてやハイルはアストに牙を向けられたんだ…恐怖するのも仕方のない事だ。アストもここ最近はとても落ち着いてね…油断してしまいアストを止められなかった私が全て悪いんだ」
ガイルさんはそう言うと僕に頭を下げる。
「そんな!頭を上げて下さいガイルさん!」
「しかし…」
「僕なら大丈夫です!だから…謝らないで下さい…」
きっとガイルさんもアストさんの事で色々と悩んでいる。僕の事なんかで悩みを増やしてはダメだ…。
そう思い僕が笑顔を向けるとガイルさんの疲れた顔にも少し笑顔が戻った。
それから数日後、僕が温室で本を読んでいるとゴードンさんがやってくる。
「ハイル様…すみません。お願い事が一つあるのですが…」
「はい。なんですか?」
ゴードンさんからのお願い事なんて珍しいなと思いながら話を聞くと、ゴードンさんは少し言いづらそうに口を開く。
「アスト様が温室のドアの前で座り込んでしまいまして…。どうやらハイル様の事が気になっているようなんです。私がアスト様のそばで飛びかからないように見守りますので…温室に入れてもよろしいですか?無理ならば断っていただいても大丈夫です」
アストさんが…来ている?
閉じられたドアの方へと目を向け少し考える。
確かにまだアストさんの事を怖いと思ってはいるけれど…前回もアストさんは僕を傷つけようとして近づいてきたわけではなかった。
ゴードンさんもいるし…きっと大丈夫だろう…。
「大丈夫です。アストさんを中に入れてあげて下さい」
僕の返事にゴードンさんは少し心配した顔を見せて「分かりました」と、言って温室のドアへ向かう。
ドアを開くとその前で座り込んでいたアストさんが見え、ゴードンさんに手招かれるとゆっくり中へと入ってくる。
僕と目が合えば前と同じように顔を綻ばせるが、飛びかかる事もなく逆に物陰に隠れてしまう。
「「えっ!?」」
僕とゴードンさんはアストさんの意外な行動に驚き思わず二人して声を上げてしまう。
「これは…ハイル様を怖がらせないようにしているのでしょうか…?」
「どうなんでしょう…?」
僕とゴードンさんは顔を見合わせアストさんの方へと目線を向ける。
物陰からは尻尾だけが見えており、ゆらゆらと嬉しそうに揺れていた。
それから僕が温室に行くと必ずアストさんがやってくるようになった。僕に姿を見せないように物陰に隠れ、何をする訳でもなく同じ空間で過ごす日々。
定位置になりつつある物陰には床に座り込むアストさんの為に、ゴードンさんが大きめのクッションを用意して今ではそこに座っている。
普段はゆらゆらと揺れている尻尾も、眠気を誘う陽気の時には徐々に下がっていき床につくとスースーと寝息が聞こえてくる。
そんな不思議な日々を過ごしていくうちに、アストさんに対する恐怖心は少しずつ薄らいでいった…。
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