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第一章
23話
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ガイルさんの暖かい腕の中で僕はまた泣いてしまう。
…やっぱりガイルさんの腕の中は落ち着く。
「もぉ~何二人で抱き合ってんの。父さん~ハイルを泣かさないでくれよなぁ~」
「えっ!?あぁ…そうだな…。いきなりあんな事を言って驚かせてすまないなハイル」
ソルは、このなんとも言えない雰囲気に耐えられない様子で、茶化す様な言い方で話しかけてくる。
僕もまた皆の前でガイルさんに抱きついてしまった事を今になって恥ずかしく思い「僕の方こそすみません…」と、言いながら離れる。
僕…なんだか泣きすぎだよね。
思い返すと色々と恥ずかしくなり、皆の反応が気になって周りを見渡すと、イザベラさんとマリオンさん鼻をスンスンいわせながら涙を流していた。そして、端っこの方でフィッツさんも泣いている。
ルナとゴードンさんはニコニコと微笑みながら僕の事を見ていて…なんだか凄い状況だ…。
「じゃあ、これでハイルも『家族』だな!」
「家族…?え?僕が…?」
「うん。だって一緒に暮らすんだったら家族だろ?」
ソルの言葉を聞いてガイルさんを見上げると、うんうんと頷きながら頭を撫でられる。
「ハイルは私達の家族だ」
「…はい。よろしく…お願いします」
止まったはずの嬉し涙がまた溢れ落ちてくる。
けれど…この涙は何度だって流したいと思った。
✳︎
皆と『家族』になってから数日後。
僕はガイルさんの書斎の前に立ち、バクバクと脈打つ心臓をどうにか落ち着かせようと深呼吸をしている。
あの日から何日何日も悩み……僕は一つの答えを出した。
『お兄さんの凶獣化を治す』
僕も『家族』としてお兄さんを助けたい。
そう決心した僕はガイルさんにその事を伝えにやってきた。
コンコンと、書斎のドアをノックするとガイルさんの声が返ってくる。
「あの…ハイルです」
そう声をかけると、しばらくしてドアが開きガイルさんが出迎えてくれる。
「どうした?何か困りごとか?」
「あ、あの…お話があって…」
「あら。ハイルくんが来るなんて珍しい。じゃあ私は席を外すわね」
書斎の奥から顔を出してきたイザベラさんは、そう言うと部屋から出て行こうとする。
どうせなら二人に話を聞いてもらいたかった僕はイザベラさんを引き止める。
「イザベラさんも一緒に話を聞いて欲しいんです!」
「私も…?分かったわ。さぁハイルくん中に入って」
イザベラさんとガイルさんに迎え入れられ書斎にある大きなソファーへ案内される。
机を挟んでがさん達と対面するような形で向き合うと少し緊張感が増す…。
「で、話ってなんだい?」
「あの…僕…お兄さんの凶獣化を治したいと思っているんです」
僕の言葉にイザベラさんは目を見開き口元に手を当て、ガイルさんはさっきまでの朗らかな笑顔から打って変わって厳しい顔へと変化する。
「僕の血を舐めれば凶獣化を治すことができます。だから…」
「ハイルの気持ちは嬉しい…。だが、その気持ちだけで十分だよ」
僕の言葉を最後まで聞く前にガイルさんは話を止める。
言葉は優しいが、口調はまるで僕の行為を拒絶しているようだった。
「で、でも…僕の血があれば…」
「ハイル…それはダメだ。今までは運良く命を落とさずに治せただけだ。次もハイルが無事な保証はどこにもないんだよ。だからそんな事はさせられない…」
「僕の事なら大丈夫です!今まで何人も目の前で凶獣化が解けるのを見てきました。だから今回だって…」
「ダメだと言っているだろっ!!」
初めて聞くガイルさんの荒々しい声に僕は恐怖を覚えて身体が固まる。
ガイルさんは怒りを我慢するように拳をギュッと握り込み僕の目を見て話し出す。
「厳しい事を言うが、これは私達半獣人の問題なんだ。だから人であるハイルには関係のない事だ」
「ガイル!そんな言い方しなくても…」
ガイルさんの言葉が痛いくらいに胸に突き刺さり返事をすることもできない…。
下を向き必死に涙をこらえるが、悲しみと怒りが入り混じり溢れてくる涙を止める事はできない。
「分かり…ました…」
声を絞り出し返事をすると二人と目を合わせず飛び出すように書斎を出て行く。
僕の事…そんな風に思っていたんだ…。
やっぱり僕は…本当の家族になんてなれないんだ…
廊下を涙で濡らしながら部屋へと戻り、ベッドに飛び込むと僕は枕に向かって叫ぶように泣き喚いた。
✳︎
しばらくすると、コンコンと遠慮がちなノックの音が聞こえる。
「はい…」と、泣きすぎてかすれた声で返事をさるとイザベラさんが部屋へと入ってくる。
「ハイルくん…少し話せるかしら…」
顔を上げてイザベラさんを見ると目尻が少し赤くなっていて、さっきまで泣いてたいたような顔をしていた。
僕も涙を拭い「大丈夫です…」と返事をすると、イザベラさんは近くまでやってきてベッドの端へと腰をかける。
「ハイルくん…さっきはごめんなさいね。ガイルもあんな酷いことを言うつもりじゃなかったの。ただ…私達はハイルくんの傷つく姿を見たくないの…」
「でも……」
「お願いハイルくん…。もう自分を犠牲にしないで…。私達はあなたのその気持ちだけで十分嬉しいんだから…」
イザベラさんは震える声で僕に優しい言葉をかけ、涙を浮かべながらなんとか必死に笑顔をつくろうとしている…。
「…お兄さんってどんな人なんですか?」
僕の質問にイザベラさんは一瞬息を呑むが、ポツリポツリとお兄さんについて語り始める。
「あの子の名前はアストって言うの。顔は私に似ていて髪の色も同じ金色よ。でも所々にガイルの燃えるような赤い色も入っていてとても綺麗なの」
アストさんの事を思い出し懐かしむ顔はとても嬉しそうだった。
それからアストさんの小さな頃、学校に通い出してから、武術の大会で優勝したことなど…凶獣化する前までを色々と教えてもらう。
「アストさんって、凄くカッコいい人なんですね」
「えぇ。本当に…自慢の息子よ…」
イザベラさんはそう言って微笑むが、やはりその笑顔には寂しさや辛さが混じっているように見えた。
本当はアストさんを凶獣化から救いたいと思っているはずだ…。
今まで凶獣化から救った親の顔を思い出して行く。
凶獣化が解けた我が子を見て泣きじゃくる者、笑顔を見せる者と反応は様々だったが…そこには確かに愛を感じた。
やっぱり…アストさんを助けたい…。
僕は再びアストさんを凶獣化から救い出すことを決意した。
…やっぱりガイルさんの腕の中は落ち着く。
「もぉ~何二人で抱き合ってんの。父さん~ハイルを泣かさないでくれよなぁ~」
「えっ!?あぁ…そうだな…。いきなりあんな事を言って驚かせてすまないなハイル」
ソルは、このなんとも言えない雰囲気に耐えられない様子で、茶化す様な言い方で話しかけてくる。
僕もまた皆の前でガイルさんに抱きついてしまった事を今になって恥ずかしく思い「僕の方こそすみません…」と、言いながら離れる。
僕…なんだか泣きすぎだよね。
思い返すと色々と恥ずかしくなり、皆の反応が気になって周りを見渡すと、イザベラさんとマリオンさん鼻をスンスンいわせながら涙を流していた。そして、端っこの方でフィッツさんも泣いている。
ルナとゴードンさんはニコニコと微笑みながら僕の事を見ていて…なんだか凄い状況だ…。
「じゃあ、これでハイルも『家族』だな!」
「家族…?え?僕が…?」
「うん。だって一緒に暮らすんだったら家族だろ?」
ソルの言葉を聞いてガイルさんを見上げると、うんうんと頷きながら頭を撫でられる。
「ハイルは私達の家族だ」
「…はい。よろしく…お願いします」
止まったはずの嬉し涙がまた溢れ落ちてくる。
けれど…この涙は何度だって流したいと思った。
✳︎
皆と『家族』になってから数日後。
僕はガイルさんの書斎の前に立ち、バクバクと脈打つ心臓をどうにか落ち着かせようと深呼吸をしている。
あの日から何日何日も悩み……僕は一つの答えを出した。
『お兄さんの凶獣化を治す』
僕も『家族』としてお兄さんを助けたい。
そう決心した僕はガイルさんにその事を伝えにやってきた。
コンコンと、書斎のドアをノックするとガイルさんの声が返ってくる。
「あの…ハイルです」
そう声をかけると、しばらくしてドアが開きガイルさんが出迎えてくれる。
「どうした?何か困りごとか?」
「あ、あの…お話があって…」
「あら。ハイルくんが来るなんて珍しい。じゃあ私は席を外すわね」
書斎の奥から顔を出してきたイザベラさんは、そう言うと部屋から出て行こうとする。
どうせなら二人に話を聞いてもらいたかった僕はイザベラさんを引き止める。
「イザベラさんも一緒に話を聞いて欲しいんです!」
「私も…?分かったわ。さぁハイルくん中に入って」
イザベラさんとガイルさんに迎え入れられ書斎にある大きなソファーへ案内される。
机を挟んでがさん達と対面するような形で向き合うと少し緊張感が増す…。
「で、話ってなんだい?」
「あの…僕…お兄さんの凶獣化を治したいと思っているんです」
僕の言葉にイザベラさんは目を見開き口元に手を当て、ガイルさんはさっきまでの朗らかな笑顔から打って変わって厳しい顔へと変化する。
「僕の血を舐めれば凶獣化を治すことができます。だから…」
「ハイルの気持ちは嬉しい…。だが、その気持ちだけで十分だよ」
僕の言葉を最後まで聞く前にガイルさんは話を止める。
言葉は優しいが、口調はまるで僕の行為を拒絶しているようだった。
「で、でも…僕の血があれば…」
「ハイル…それはダメだ。今までは運良く命を落とさずに治せただけだ。次もハイルが無事な保証はどこにもないんだよ。だからそんな事はさせられない…」
「僕の事なら大丈夫です!今まで何人も目の前で凶獣化が解けるのを見てきました。だから今回だって…」
「ダメだと言っているだろっ!!」
初めて聞くガイルさんの荒々しい声に僕は恐怖を覚えて身体が固まる。
ガイルさんは怒りを我慢するように拳をギュッと握り込み僕の目を見て話し出す。
「厳しい事を言うが、これは私達半獣人の問題なんだ。だから人であるハイルには関係のない事だ」
「ガイル!そんな言い方しなくても…」
ガイルさんの言葉が痛いくらいに胸に突き刺さり返事をすることもできない…。
下を向き必死に涙をこらえるが、悲しみと怒りが入り混じり溢れてくる涙を止める事はできない。
「分かり…ました…」
声を絞り出し返事をすると二人と目を合わせず飛び出すように書斎を出て行く。
僕の事…そんな風に思っていたんだ…。
やっぱり僕は…本当の家族になんてなれないんだ…
廊下を涙で濡らしながら部屋へと戻り、ベッドに飛び込むと僕は枕に向かって叫ぶように泣き喚いた。
✳︎
しばらくすると、コンコンと遠慮がちなノックの音が聞こえる。
「はい…」と、泣きすぎてかすれた声で返事をさるとイザベラさんが部屋へと入ってくる。
「ハイルくん…少し話せるかしら…」
顔を上げてイザベラさんを見ると目尻が少し赤くなっていて、さっきまで泣いてたいたような顔をしていた。
僕も涙を拭い「大丈夫です…」と返事をすると、イザベラさんは近くまでやってきてベッドの端へと腰をかける。
「ハイルくん…さっきはごめんなさいね。ガイルもあんな酷いことを言うつもりじゃなかったの。ただ…私達はハイルくんの傷つく姿を見たくないの…」
「でも……」
「お願いハイルくん…。もう自分を犠牲にしないで…。私達はあなたのその気持ちだけで十分嬉しいんだから…」
イザベラさんは震える声で僕に優しい言葉をかけ、涙を浮かべながらなんとか必死に笑顔をつくろうとしている…。
「…お兄さんってどんな人なんですか?」
僕の質問にイザベラさんは一瞬息を呑むが、ポツリポツリとお兄さんについて語り始める。
「あの子の名前はアストって言うの。顔は私に似ていて髪の色も同じ金色よ。でも所々にガイルの燃えるような赤い色も入っていてとても綺麗なの」
アストさんの事を思い出し懐かしむ顔はとても嬉しそうだった。
それからアストさんの小さな頃、学校に通い出してから、武術の大会で優勝したことなど…凶獣化する前までを色々と教えてもらう。
「アストさんって、凄くカッコいい人なんですね」
「えぇ。本当に…自慢の息子よ…」
イザベラさんはそう言って微笑むが、やはりその笑顔には寂しさや辛さが混じっているように見えた。
本当はアストさんを凶獣化から救いたいと思っているはずだ…。
今まで凶獣化から救った親の顔を思い出して行く。
凶獣化が解けた我が子を見て泣きじゃくる者、笑顔を見せる者と反応は様々だったが…そこには確かに愛を感じた。
やっぱり…アストさんを助けたい…。
僕は再びアストさんを凶獣化から救い出すことを決意した。
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