25 / 55
第一章
25話
しおりを挟む
離れの屋敷へと続く裏口の前で僕は緊張しながらフィッツさんを待っていた。
毎日ゴードンさんとフィッツさんの行動を観察して、僕は離れの屋敷へと侵入する計画を立てた。
屋敷に入るには鍵が必要で、その鍵の保管場所を確認する為にフィッツさんの後をつける予定だ。
もうすぐ戻ってくるはず…。
そう思っていると、裏口のドアが開きフィッツさんが姿を現す。
「うわっ!ビックリしたぁ…ハイル様どうしたんですか?こんなところに立って」
「えっとぉ…暇だからフィッツさんの仕事でも見てようかなって…」
「はは。見てても何も楽しいことなんてありませんよ~」
フィッツさんはそう言いながら次の目的地へと歩いて行く。僕もその後を追って行くと、厨房へと入って行き手前にある棚の引き出しへと鍵を入れる。
あそこか…。
忘れないようにじっと見ていると「どうしました?」と、フィッツさんは不思議そうな顔で俺を見てくる。
「ううん。なんでもないです!僕、用事思い出したんで…じゃあフィッツさんまた後で!」
「えっ?あ…また後で…」
キョトンとした顔を見せるフィッツさんを一人残して僕は部屋へと戻って行く。
「屋敷の鍵の場所も分かったし…いつアストさんの所へ行くかだよなぁ…」
アストさんの所に行くのはいつがいいかな…と、考えていると凶獣化した子に襲われた事を思い出しブルリと体が震える。
「こういうのって…勢いが大事だよね…」
僕はそう思い、今日屋敷へと侵入することに決めた。
✳︎
キョロキョロと辺りを見回して厨房の中へと入り手前にある棚の引き出しを開け鍵を手に入れる。そして、その鍵を持ったまま裏口のドアからアストさんのいる離れの屋敷へと向かう。
屋敷の扉を前にして心臓はドキドキと煩く音を立てる。
落ち着かないと…。
そう思い、ふぅ…と深呼吸をして鍵を開け屋敷の中へ…。
屋敷の中は誰もいないかのように静かだった。
緊張して震える手をギュッと握りしめながら廊下を歩きアストさんの部屋を探していると、僕に気づいたのかガンッ、ガンッと奥の部屋から金属と爪を叩きつける音が聞こえる。
その音は早くこっちに来いと言っているようだった…。
部屋の前までくれば叩きつける音は大きくなり獣の唸り声まで聞こえてくる。
緊張と恐怖で震える手でなんとかドアノブを握り部屋の中へと入っていく。
ドアを開けた瞬間に懐かしさすら感じる獣特有の匂い…。
そして鉄格子に囲まれた中に黄金色に輝くたてがみを持った獅子がギラギラした目つきで僕の事を見てくる。
克服したと思っていた恐怖が再び僕を襲い膝はガクガクと揺れる。
鎖には繋がれていないが周りには頑丈な鉄格子がはめられていた。
「アストさん…助けにきました…」
震える声で獅子の姿のアストさんに声をかけると返事をするかのようにグルル…と唸り声をあげる。
「とりあえず…血を舐めさせればいいんだよね…」
厨房から持ってきたナイフをギュッと握り、深呼吸をしながら手の平をスパ…と切る。
「いっっ…」
薄く切れた手の平からはじわじわと血が滲み出し、血の匂いを嗅いだアストさんは目を見開いて興奮し始める。
ガンッガンッと前足で鉄格子を叩きつける姿は「よこせ!よこせ!」と言っているかのようだった。
鉄格子越しに恐る恐る血に染まった手を差し出すと、長い舌でベロベロと血を舐め取られる。
これで治るのかな…?
ジンジンと痛む手の平を押さえながらアストさんの姿に変化が無いかしばらく待つが……何も起こりはしなかった。
やっぱり…噛まれないといけないのか…
一番初めに凶獣化を治した時の事を思い出す。
『魔力の強い子ほど獣のように肌に牙を立て、生き血を直接啜らないといけない』
嫌な人物の事も同時に思い出し背筋がゾクッとする。
大丈夫…大丈夫…。
今までも何度も噛まれてきたのだから今回も同じように我慢すれば良いだけだ。
そう自分に言い聞かせアストさんの方へ目を向けると、涎をダラダラと垂らし瞳をギラギラと輝かせながら僕の事を見つめてくる。
他の子ども達と同じで獲物を見つめる目に恐怖を感じ、ハッハッハッ…と過呼吸ぎみになる呼吸をどうにか整えて上の服を脱いでいく。
せっかく貰った服を汚すのは申し訳ない…。
上着を脱ぎ、一歩ずつ鉄格子の入り口の方へと近づいていくとアストさんは僕が中に入って来るのが分かっているのか僕が来るのを大人しく待っている。
キィ…と鉄格子の扉を開け中へ入ればアストさんとの距離は目と鼻の先…。
荒く獣臭い鼻息を感じる…
やっぱり怖い……逃げたい…。でも…でも…
僕は目をギュッと閉じ…最後の一歩を踏み出しアストさんに触れられるところまで来た瞬間、飛びかかられ押し倒される。
勢いよく背中を打ち「うぐっ…」と呻くと同時にアストさんは僕の肩へと牙を向ける。
肉が裂け血が吹き出し噛まれた場所は熱く鋭い痛みが走る。
「あぐぅッッッ!あぁぁぁあ!!」
あまりの痛さに声なんて我慢できずに叫ぶ。
あぁ…やっぱりこんな事するんじゃなかった…
目からは涙が溢れて叫びすぎて喉が焼けるように痛い。
アストさんは突き立てていた牙を抜くと溢れ出す血をペロペロと舐めだす。
ぺちゃぺちゃと血液を舐めとられる音が耳に入り頭の中に響き渡る…。
「ふっ…ぐっ……い…たい…くるし…」
ざらざらした舌が傷を抉り痛みが増し、押し倒され、のしかかられた重みで上手く息ができない…。
早く終わってくれ…
そう思った時、アストさんは舐めていた場所から顔を上げると僕を見つめて顔をベロリと舐められる。
喰われる…!!と、目をギュッとつぶると僕にのしかかっていた体をどかし横にゴロリと寝転がる。
すると…獅子だった体がいつものように変化していく。
毛が薄くなり顔と体が人間に近づいていき…そして目の前には痩せた青年が横たわっていた。
あぁ…よかった…ちゃんと治った…
ホッとして緊張が解けると目の前がかすみ意識が遠くなっていく。
血出しすぎちゃったかな…
もうすぐゴードンさんが昼食を持ってくる時間だ…。
僕とアストさんを見たら流石のゴードンさんも驚いてしまうよね…。
驚くゴードンさんを想像しながら「迷惑かけてごめんなさい…」と呟き僕は目を閉じた。
毎日ゴードンさんとフィッツさんの行動を観察して、僕は離れの屋敷へと侵入する計画を立てた。
屋敷に入るには鍵が必要で、その鍵の保管場所を確認する為にフィッツさんの後をつける予定だ。
もうすぐ戻ってくるはず…。
そう思っていると、裏口のドアが開きフィッツさんが姿を現す。
「うわっ!ビックリしたぁ…ハイル様どうしたんですか?こんなところに立って」
「えっとぉ…暇だからフィッツさんの仕事でも見てようかなって…」
「はは。見てても何も楽しいことなんてありませんよ~」
フィッツさんはそう言いながら次の目的地へと歩いて行く。僕もその後を追って行くと、厨房へと入って行き手前にある棚の引き出しへと鍵を入れる。
あそこか…。
忘れないようにじっと見ていると「どうしました?」と、フィッツさんは不思議そうな顔で俺を見てくる。
「ううん。なんでもないです!僕、用事思い出したんで…じゃあフィッツさんまた後で!」
「えっ?あ…また後で…」
キョトンとした顔を見せるフィッツさんを一人残して僕は部屋へと戻って行く。
「屋敷の鍵の場所も分かったし…いつアストさんの所へ行くかだよなぁ…」
アストさんの所に行くのはいつがいいかな…と、考えていると凶獣化した子に襲われた事を思い出しブルリと体が震える。
「こういうのって…勢いが大事だよね…」
僕はそう思い、今日屋敷へと侵入することに決めた。
✳︎
キョロキョロと辺りを見回して厨房の中へと入り手前にある棚の引き出しを開け鍵を手に入れる。そして、その鍵を持ったまま裏口のドアからアストさんのいる離れの屋敷へと向かう。
屋敷の扉を前にして心臓はドキドキと煩く音を立てる。
落ち着かないと…。
そう思い、ふぅ…と深呼吸をして鍵を開け屋敷の中へ…。
屋敷の中は誰もいないかのように静かだった。
緊張して震える手をギュッと握りしめながら廊下を歩きアストさんの部屋を探していると、僕に気づいたのかガンッ、ガンッと奥の部屋から金属と爪を叩きつける音が聞こえる。
その音は早くこっちに来いと言っているようだった…。
部屋の前までくれば叩きつける音は大きくなり獣の唸り声まで聞こえてくる。
緊張と恐怖で震える手でなんとかドアノブを握り部屋の中へと入っていく。
ドアを開けた瞬間に懐かしさすら感じる獣特有の匂い…。
そして鉄格子に囲まれた中に黄金色に輝くたてがみを持った獅子がギラギラした目つきで僕の事を見てくる。
克服したと思っていた恐怖が再び僕を襲い膝はガクガクと揺れる。
鎖には繋がれていないが周りには頑丈な鉄格子がはめられていた。
「アストさん…助けにきました…」
震える声で獅子の姿のアストさんに声をかけると返事をするかのようにグルル…と唸り声をあげる。
「とりあえず…血を舐めさせればいいんだよね…」
厨房から持ってきたナイフをギュッと握り、深呼吸をしながら手の平をスパ…と切る。
「いっっ…」
薄く切れた手の平からはじわじわと血が滲み出し、血の匂いを嗅いだアストさんは目を見開いて興奮し始める。
ガンッガンッと前足で鉄格子を叩きつける姿は「よこせ!よこせ!」と言っているかのようだった。
鉄格子越しに恐る恐る血に染まった手を差し出すと、長い舌でベロベロと血を舐め取られる。
これで治るのかな…?
ジンジンと痛む手の平を押さえながらアストさんの姿に変化が無いかしばらく待つが……何も起こりはしなかった。
やっぱり…噛まれないといけないのか…
一番初めに凶獣化を治した時の事を思い出す。
『魔力の強い子ほど獣のように肌に牙を立て、生き血を直接啜らないといけない』
嫌な人物の事も同時に思い出し背筋がゾクッとする。
大丈夫…大丈夫…。
今までも何度も噛まれてきたのだから今回も同じように我慢すれば良いだけだ。
そう自分に言い聞かせアストさんの方へ目を向けると、涎をダラダラと垂らし瞳をギラギラと輝かせながら僕の事を見つめてくる。
他の子ども達と同じで獲物を見つめる目に恐怖を感じ、ハッハッハッ…と過呼吸ぎみになる呼吸をどうにか整えて上の服を脱いでいく。
せっかく貰った服を汚すのは申し訳ない…。
上着を脱ぎ、一歩ずつ鉄格子の入り口の方へと近づいていくとアストさんは僕が中に入って来るのが分かっているのか僕が来るのを大人しく待っている。
キィ…と鉄格子の扉を開け中へ入ればアストさんとの距離は目と鼻の先…。
荒く獣臭い鼻息を感じる…
やっぱり怖い……逃げたい…。でも…でも…
僕は目をギュッと閉じ…最後の一歩を踏み出しアストさんに触れられるところまで来た瞬間、飛びかかられ押し倒される。
勢いよく背中を打ち「うぐっ…」と呻くと同時にアストさんは僕の肩へと牙を向ける。
肉が裂け血が吹き出し噛まれた場所は熱く鋭い痛みが走る。
「あぐぅッッッ!あぁぁぁあ!!」
あまりの痛さに声なんて我慢できずに叫ぶ。
あぁ…やっぱりこんな事するんじゃなかった…
目からは涙が溢れて叫びすぎて喉が焼けるように痛い。
アストさんは突き立てていた牙を抜くと溢れ出す血をペロペロと舐めだす。
ぺちゃぺちゃと血液を舐めとられる音が耳に入り頭の中に響き渡る…。
「ふっ…ぐっ……い…たい…くるし…」
ざらざらした舌が傷を抉り痛みが増し、押し倒され、のしかかられた重みで上手く息ができない…。
早く終わってくれ…
そう思った時、アストさんは舐めていた場所から顔を上げると僕を見つめて顔をベロリと舐められる。
喰われる…!!と、目をギュッとつぶると僕にのしかかっていた体をどかし横にゴロリと寝転がる。
すると…獅子だった体がいつものように変化していく。
毛が薄くなり顔と体が人間に近づいていき…そして目の前には痩せた青年が横たわっていた。
あぁ…よかった…ちゃんと治った…
ホッとして緊張が解けると目の前がかすみ意識が遠くなっていく。
血出しすぎちゃったかな…
もうすぐゴードンさんが昼食を持ってくる時間だ…。
僕とアストさんを見たら流石のゴードンさんも驚いてしまうよね…。
驚くゴードンさんを想像しながら「迷惑かけてごめんなさい…」と呟き僕は目を閉じた。
10
お気に入りに追加
940
あなたにおすすめの小説


【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。

【運命】に捨てられ捨てたΩ
雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる