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第一章
21話
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ソルからお兄さんの話を聞いてから、ずっとその事ばかり考えていた。
フィッツさんには、あれ以上聞ける雰囲気でもないしなぁ…。
寝かされたベッドの上でそう思っていると部屋にルナがやってくる。文字が上手く書けない僕にルナは毎日文字を教えに来てくれている。
今日も本やノートを抱えてやってきたルナはベッド横の椅子へ腰掛け、僕に持ってきた本を渡してくる。
「さぁハイルさん。昨日の続きからやりましょう」
「うん…」
ソルとは対象的でルナは凄く大人びている。
ルナの授業はなかなか厳しくて…年下だけど、たまにおっかないと感じる。
今日もテキパキと教えてくれるが、ただでさえ勉強は苦手なのに今はお兄さんの事も気になって尚更頭に入ってこない。
う~ん…と、頭を捻りながら、なんとか頑張るが先にルナが痺れを切らし大きなため息をつかれる。
「ハイルさん。今日は集中できてないみたいですけど何かありましたか?」
「あぁ…ごめん。えっとね…」
ルナから質問されて、このタイミングならお兄さんの事を聞けると思った僕はルナに質問をぶつける。
「ねぇルナ…。お兄さんのことを聞いてもいい?」
僕の口から『お兄さん』という言葉を聞いたルナは一気に表情をくもらせて鋭い目つきで僕のことを見てくる。
「……誰から聞いたんですか?」
「えっと…ソルが言ってたんだ。大きくて強いお兄さんがいるって…」
「兄様の事で聞いたのはそれだけですか?」
「うん…」
ルナの表情と雰囲気の変化に安易にお兄さんの話を聞いたことを後悔する。
お兄さんが凶獣化した事は咄嗟に知らないふりをした。
「…アスト兄様は大きくて強いだけじゃないです」
ポツリとルナが呟く。
「強くて優しくて凄くカッコよくて…自慢の兄なんです」
「うん…」
「私が小さな頃はよく遊んでもらって、兄様に肩車してもらうのが大好きでした」
ルナは少し上を見上げ懐かしむように話を続ける。
「でも…今は訳あって離れた場所で暮らしています。離れていても兄様と私達家族は心で繋がっているんです…」
そう言ってルナは窓へと目線を向ける。
目線の先には離れにある小さな屋敷がありルナは辛そうな顔をしながらその屋敷を見つめていた…。
✳︎
それから数週間…。
僕は部屋の中ならば一人で歩けるようになり少しずつ歩く距離を伸ばしている。
そして、暇があれば窓から離れの屋敷を見ていた。
離れの屋敷には毎日ゴードンさんやフィッツさんが決まった時間に食事を持っていっている。
ガイルさんやイザベラさんも毎日屋敷を訪れていた。
「やっぱり…あそこにお兄さんがいるのかな…」
お兄さんの事を考えていると凶獣化した子ども達や、その親の顔を思い出す。
子ども達は自我を失い、親はそんな自分の子どもを鎖で繋ぎ閉じ込めておかなければいけない。
あの時は自分の事で必死で半獣人の事を考える余裕なんてなかったが、今思うと皆凶獣化という現象に苦しんでいた。
ガイルさんやイザベラさん、双子やゴードンさん達だって苦しんでいる。
そして、お兄さん本人も…。
「僕が出来ること…」
過去を思い出しズキリと重く痛む首筋を撫でながら、僕は屋敷の中にいるお兄さんの事を考えた。
フィッツさんには、あれ以上聞ける雰囲気でもないしなぁ…。
寝かされたベッドの上でそう思っていると部屋にルナがやってくる。文字が上手く書けない僕にルナは毎日文字を教えに来てくれている。
今日も本やノートを抱えてやってきたルナはベッド横の椅子へ腰掛け、僕に持ってきた本を渡してくる。
「さぁハイルさん。昨日の続きからやりましょう」
「うん…」
ソルとは対象的でルナは凄く大人びている。
ルナの授業はなかなか厳しくて…年下だけど、たまにおっかないと感じる。
今日もテキパキと教えてくれるが、ただでさえ勉強は苦手なのに今はお兄さんの事も気になって尚更頭に入ってこない。
う~ん…と、頭を捻りながら、なんとか頑張るが先にルナが痺れを切らし大きなため息をつかれる。
「ハイルさん。今日は集中できてないみたいですけど何かありましたか?」
「あぁ…ごめん。えっとね…」
ルナから質問されて、このタイミングならお兄さんの事を聞けると思った僕はルナに質問をぶつける。
「ねぇルナ…。お兄さんのことを聞いてもいい?」
僕の口から『お兄さん』という言葉を聞いたルナは一気に表情をくもらせて鋭い目つきで僕のことを見てくる。
「……誰から聞いたんですか?」
「えっと…ソルが言ってたんだ。大きくて強いお兄さんがいるって…」
「兄様の事で聞いたのはそれだけですか?」
「うん…」
ルナの表情と雰囲気の変化に安易にお兄さんの話を聞いたことを後悔する。
お兄さんが凶獣化した事は咄嗟に知らないふりをした。
「…アスト兄様は大きくて強いだけじゃないです」
ポツリとルナが呟く。
「強くて優しくて凄くカッコよくて…自慢の兄なんです」
「うん…」
「私が小さな頃はよく遊んでもらって、兄様に肩車してもらうのが大好きでした」
ルナは少し上を見上げ懐かしむように話を続ける。
「でも…今は訳あって離れた場所で暮らしています。離れていても兄様と私達家族は心で繋がっているんです…」
そう言ってルナは窓へと目線を向ける。
目線の先には離れにある小さな屋敷がありルナは辛そうな顔をしながらその屋敷を見つめていた…。
✳︎
それから数週間…。
僕は部屋の中ならば一人で歩けるようになり少しずつ歩く距離を伸ばしている。
そして、暇があれば窓から離れの屋敷を見ていた。
離れの屋敷には毎日ゴードンさんやフィッツさんが決まった時間に食事を持っていっている。
ガイルさんやイザベラさんも毎日屋敷を訪れていた。
「やっぱり…あそこにお兄さんがいるのかな…」
お兄さんの事を考えていると凶獣化した子ども達や、その親の顔を思い出す。
子ども達は自我を失い、親はそんな自分の子どもを鎖で繋ぎ閉じ込めておかなければいけない。
あの時は自分の事で必死で半獣人の事を考える余裕なんてなかったが、今思うと皆凶獣化という現象に苦しんでいた。
ガイルさんやイザベラさん、双子やゴードンさん達だって苦しんでいる。
そして、お兄さん本人も…。
「僕が出来ること…」
過去を思い出しズキリと重く痛む首筋を撫でながら、僕は屋敷の中にいるお兄さんの事を考えた。
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