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第一章
20話
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それから僕が泣き止むまでガイルさんは抱きしめてくれて涙が枯れる頃には気持ちも落ち着いてきて…皆の視線が集まっている事に気づく。
イザベラさんはニコニコと微笑み、ソルはニヤニヤしながら、そしてルナは少し呆れたような顔で僕とガイルさんを見ていた…。
「あ!あの…ガイルさん…。抱きついてごめんなさい…」
恥ずかしくなってバッと離れるとガイルさんは口元を綻ばせ「落ち着いたか?」と、頭をポンポンと撫でてくる。
頭に乗せられた大きな手は父さんのように大きくて温かくて…
「はい。落ち着きました」
そう言って僕は心からの笑顔を向けた。
✳︎
それからの日々はとても賑やかだった。
少し動けるようになった僕の為にと、執事見習いのフィッツさんというイタチの半獣人が身の回りの世話をしてくれるようになった。
フィッツさんは他の半獣人に比べると小柄だが、ゴードンさんやガイルさんに鍛えられているらしく僕の護衛も兼任しているらしい。
口調はゴードンさんに比べるとくだけた感じの話し方をしてくれるので、僕もすぐにフィッツさんに慣れた。
それからソルとルナが僕の部屋に訪れるようになり、僕達は少しずつ仲良くなっていった。
ソルとルナは双子だが顔はあまり似ていない。
ソルはガイルさん似の整った顔で、ルナはイザベラさん似の綺麗な顔をしている。
二人の事で一番驚いたのが年齢で…なんとまだ8歳。
体格や身長は僕なんかよりも大きくてしっかりしている。
けれど、性格はまだまだ子どもっぽいところもある。
特にソルは好奇心旺盛で疑問に思った事や興味のある事についてはなんでも知りたがる。
「なぁハイル。なんでお前ってそんなに小さいの?もう15になるんだろ?」
歩く練習に付き合ってくれているソルは僕を目の前にして不思議そうな顔をして失礼な事を聞いてくる。
さらに僕の手を引きながら「手もちっちゃいんだな」と、まじまじと手を観察した後に無邪気な笑顔を向けてくるので文句も言えない。
「ソルが大きいだけだよ」
僕はアハハと苦笑いしながらソルの言葉に答えていく。
ソルはこんな感じでたまに失礼な事を言ってくるけど、この素直な性格と笑顔は一緒にいて楽しくなる。
「俺なんて兄さんに比べたら小さいんだぞ!兄さんが俺くらいの時には身長は10cm以上も高くて、剣の腕前もそこいらの兵士には負けないって聞いた事があるんだ!」
「そうなんだ。強そうなお兄さんだね」
「あぁ!凶獣化しなかったら国一番の騎士になってただろうな!」
「えっ…?」
さらっとソルが言った言葉に僕は反応してしまう。
ソルのお兄さんが……凶獣化…?
「はいはいはいはい!ハイル様、そろそろ休憩して下さい。あと、ソル坊ちゃんは旦那様がお呼びでしたよ」
パンパンッと手を叩き僕達の間に入ってきたのはフィッツさんだった。
フィッツさんはソルの代わりに僕の手を取ると「早くガイルさんのところに行って下さい」と、ソルを急かす。
「げっ。俺何かしたかな…?じゃあハイルまたな!」
「あ…。ソル待っ……」
フィッツさんの言葉にソルは慌てて部屋を出ていき、ソルの言っていた『お兄さん』の事をもう少し聞きたかったのだが呼び止める時間も無かった。
凶獣化って言ってたけど…聞き間違いじゃないよね?
そう思いフィッツさんに聞いてみようと目線を向けると俺の言いたい事が分かったのか、あからさまに嫌そうな顔をされる。
「俺は何を聞かれても話しませんよ」
「まだ何も言ってないです…」
手を引かれてベッドへと腰掛けると、フィッツさんは珍しく真面目な顔をして見せる。
「いいですか。ソル坊ちゃんの言葉は忘れて下さい」
「ソルのお兄さんが凶獣化したって本当なんですか…?」
「俺からは…何も言えません…」
そう言って下を向き眉間にシワを寄せるフィッツさんの表情には答えが書いてあるように見えた。
ソルのお兄さんが凶獣化しているかもしれない…。
その事実に僕の心は大きく揺さぶられた。
イザベラさんはニコニコと微笑み、ソルはニヤニヤしながら、そしてルナは少し呆れたような顔で僕とガイルさんを見ていた…。
「あ!あの…ガイルさん…。抱きついてごめんなさい…」
恥ずかしくなってバッと離れるとガイルさんは口元を綻ばせ「落ち着いたか?」と、頭をポンポンと撫でてくる。
頭に乗せられた大きな手は父さんのように大きくて温かくて…
「はい。落ち着きました」
そう言って僕は心からの笑顔を向けた。
✳︎
それからの日々はとても賑やかだった。
少し動けるようになった僕の為にと、執事見習いのフィッツさんというイタチの半獣人が身の回りの世話をしてくれるようになった。
フィッツさんは他の半獣人に比べると小柄だが、ゴードンさんやガイルさんに鍛えられているらしく僕の護衛も兼任しているらしい。
口調はゴードンさんに比べるとくだけた感じの話し方をしてくれるので、僕もすぐにフィッツさんに慣れた。
それからソルとルナが僕の部屋に訪れるようになり、僕達は少しずつ仲良くなっていった。
ソルとルナは双子だが顔はあまり似ていない。
ソルはガイルさん似の整った顔で、ルナはイザベラさん似の綺麗な顔をしている。
二人の事で一番驚いたのが年齢で…なんとまだ8歳。
体格や身長は僕なんかよりも大きくてしっかりしている。
けれど、性格はまだまだ子どもっぽいところもある。
特にソルは好奇心旺盛で疑問に思った事や興味のある事についてはなんでも知りたがる。
「なぁハイル。なんでお前ってそんなに小さいの?もう15になるんだろ?」
歩く練習に付き合ってくれているソルは僕を目の前にして不思議そうな顔をして失礼な事を聞いてくる。
さらに僕の手を引きながら「手もちっちゃいんだな」と、まじまじと手を観察した後に無邪気な笑顔を向けてくるので文句も言えない。
「ソルが大きいだけだよ」
僕はアハハと苦笑いしながらソルの言葉に答えていく。
ソルはこんな感じでたまに失礼な事を言ってくるけど、この素直な性格と笑顔は一緒にいて楽しくなる。
「俺なんて兄さんに比べたら小さいんだぞ!兄さんが俺くらいの時には身長は10cm以上も高くて、剣の腕前もそこいらの兵士には負けないって聞いた事があるんだ!」
「そうなんだ。強そうなお兄さんだね」
「あぁ!凶獣化しなかったら国一番の騎士になってただろうな!」
「えっ…?」
さらっとソルが言った言葉に僕は反応してしまう。
ソルのお兄さんが……凶獣化…?
「はいはいはいはい!ハイル様、そろそろ休憩して下さい。あと、ソル坊ちゃんは旦那様がお呼びでしたよ」
パンパンッと手を叩き僕達の間に入ってきたのはフィッツさんだった。
フィッツさんはソルの代わりに僕の手を取ると「早くガイルさんのところに行って下さい」と、ソルを急かす。
「げっ。俺何かしたかな…?じゃあハイルまたな!」
「あ…。ソル待っ……」
フィッツさんの言葉にソルは慌てて部屋を出ていき、ソルの言っていた『お兄さん』の事をもう少し聞きたかったのだが呼び止める時間も無かった。
凶獣化って言ってたけど…聞き間違いじゃないよね?
そう思いフィッツさんに聞いてみようと目線を向けると俺の言いたい事が分かったのか、あからさまに嫌そうな顔をされる。
「俺は何を聞かれても話しませんよ」
「まだ何も言ってないです…」
手を引かれてベッドへと腰掛けると、フィッツさんは珍しく真面目な顔をして見せる。
「いいですか。ソル坊ちゃんの言葉は忘れて下さい」
「ソルのお兄さんが凶獣化したって本当なんですか…?」
「俺からは…何も言えません…」
そう言って下を向き眉間にシワを寄せるフィッツさんの表情には答えが書いてあるように見えた。
ソルのお兄さんが凶獣化しているかもしれない…。
その事実に僕の心は大きく揺さぶられた。
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