人が消えた世界で

赤牙

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第一章

16話

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あの後、僕は目を閉じたまま眠ってしまったようで起きた時には次の日の朝になっていた。

喉が渇きベッド横に置いてある水差しへと手を伸ばすが体が上手く動かせず途中で力尽きてしまう。
こんな事もできなくなってしまったのかと思うと少し悲しくなった。
ゴードンさんが用があれば鳴らして下さいと言って置いてくれた鈴を鳴らすか迷いもう一度水差しへと手を伸ばしてみるが結果は変わらず…。

こんな事で呼び出すなんて申し訳ないと思いながら遠慮気味に鈴を鳴らした。

チリンチリンと鈴が鳴ったと同時にドアをノックされる。
あまりの早さに驚いてしまい返事をするのを忘れていると「入ってよろしいですか?」と、声をかけられる。

「は、はい!」

返事をすると一礼してゴードンさんが入ってくる。僕を見た後に、僕が水差しを取ろうとして乱してしまったベッドへと目を向けるとそれだけで察してくれたのかすぐに水差しを取ってくれる。

「すみません。もう少し取りやすい場所に置いておかないといけませんでしたね…」
「いえ…僕が体を上手く動かせないのが悪いんです…。ごめんなさい…」
「ハイル様は何も悪くありません。私が悪いのです」
「違います!僕が…悪いんです…。本当にごめんなさい…」
「いえ。私が悪いのです。申し訳ありません」

二人で自分の方が悪いと言い合い「すみません」や「ごめんなさい」が飛び交う。
途中から何に謝っているのか分からなくなり、なんだかおかしくなってきて思わず笑ってしまう。

「ふふ…」
「ハイル様。お腹は空いていますか?よければ朝食をお持ちしますが」
「じゃあ…お願いします」

僕が笑うとゴードンさんも微笑んでくれて、久しぶりに笑ったせいか頬が少し痛かった…。


✳︎

昨日と同じメニューの朝食を食べ終えるとマリオンさんが僕の体調を確認しにやってきた。

「おはよう。食事も少しずつ食べれているみたいね。顔色も昨日よりいいわ」
「おはようございます…」

今日もふわふわの紺色の髪の毛を揺らしながらマリオンさんは点滴の準備などを始めていく。

「昨日は眠れた?」
「はい…。食事を食べてそのまま寝てしまっていました」
「食事をするのは体力使うからね。今は無理せずに体の要求はそのまま受け入れてあげるといいわ。疲れたら休む!眠たくなったら眠る!」

ニカッと僕の方へと笑いかけながら昨日と同じように全身状態を確認される。
マリオンさんに触れられるのも最初は怖かったはずなのに、今はビクつくこともなく診察を受けれるようになった。

マリオンさんは手足に触れると、足首などの関節をゆっくりと動かし始める。
軽く曲げられただけなのに痛くて思わず顔をしかめてしまう…。

「寝たきりの生活が長かったから関節も硬くなってるわね…。それに筋肉も落ちているから、徐々に体を動かしていきましょう」
「はい…」
「一緒にがんばりましょうね」

さっきと同じように、ニカッと歯を見せ笑うマリオンさんの眩しい笑顔は、僕の中にある暗い気持ちを少し明るくしてくれた。

 
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