人が消えた世界で

赤牙

文字の大きさ
上 下
15 / 55
第一章

15話〜ガイルSide〜

しおりを挟む
ハイルが目覚めると屋敷の中は慌ただしくなった。

『人』と触れ合った事のない世代の私達は人が何を食べどう生活してきたかも分からない。
慌てて『人』について書いてある書物を読み、食べ物の事や生活様式などを確認していく。

人と半獣人の生活は大きな変わりはなかったが、身体面では力の差が大きく注意しなくてはいけないと書いてあり、ハイルの体を見て納得した。

8歳になる双子の息子と娘と同じ歳くらいの体格だが、話をした感じでは年齢はもう少し上のように感じる。
力に関してはきっと双子の方が強いだろう…。
双子にはハイルのいる部屋へ近づかないように言っているが、今日もワザと部屋の前を通ったりしていたので注意しなくてはいけない。
私達の姿にも怯えていたが実際ハイルに牙を向けていたのは双子くらいの子どももいたはずだ…。

子ども達にも、ハイルについてしっかり話をしないといけないな…。


そう思い、双子のソルとルナのいる部屋へと向かう。
私に似た燃えるような赤髪のソルと、イザベラに似た煌めくような金色の髪のルナ。
二人は仲良くオモチャで遊んでいた。

「ソル、ルナ。今から大事なお話しをしたいんだがいいかな?」
「え~今怪獣をやっつけてて忙しいんだけど…」
「ソル。父様の言うことは聞かないと」

ルナはそう言うと、すぐに私の方へとやってきた。やんちゃ盛りのソルもルナにそう言われて口を尖らせながら私の方へとやってくる。

「いいかい。今から家族以外には絶対話してはいけない秘密の話をするからね」
「秘密!? なになに!!」
「ソル。しーー!」

興奮したソルはワクワクしながら目を輝かせ、ルナはじっと私を見つめる。

「お前達に近づくなと言っていた部屋があるだろ?実はそこには、『人』の子どもがいるんだ」
「「人…?」」
「あぁ。学校でも習ったと思うが『人』は絶滅したと言われている。だが、数日前に父さんと母さんは偶然人の子どもを見つけたんだ」
「えぇぇ!? 何それ! 凄い! 人! 見たい!」

ソルは好奇心旺盛に飛び跳ねて見たい!見たい!と元気に尻尾を振りながらせがんでくる。
ルナはどういう事なのか分からずに困惑した顔を見せる。


「ソル……。その子はね、ずっと私達半獣に閉じ込められて…傷つけられていたんだよ。だから今は会う事はできないんだ」
「閉じ込められて……」
「傷つけてられてた……」

二人は私の言葉を繰り返し意味を理解する。
さっきまで浮かれていたソルもどんよりと落ち込んだ顔を見せ尻尾もだらりと下がり元気を無くす。

「ねぇ父様。その子は無事なの?」
「あぁ。今日やっと目を覚ましたんだ。でも、体が弱っていてね……一人では立つことも起き上がることもできないんだ。だから、あの子が元気になるまではそっとして欲しいんだよ……。父さんと約束できるかな?」

二人へと視線を向けると二人とも真面目な顔をしてコクコクと息ピッタリに頷く。

「いい子だ」

そう言って二人の頭をわしゃわしゃと撫でてやると二人に笑顔が戻った。
二人への話も終わり部屋を出ていき書斎に戻ると、しばらくして暗い顔をしたルナが書斎を訪ねてくる。

「どうしたルナ?」
「ねぇ父様……その子の血があればアスト兄様治るの?」

ルナの言葉に私は表情を曇らせる。
『アスト』は、ソルとルナの兄で……凶獣化してしまった私の大切な息子だ。

「ルナ……。私達半獣人がどうやって『人』を滅ぼしてしまったか知っているよね?」
「うん……」
「凶獣化を治すのは命がけなんだ。それなのに、凶獣化を治す為の道具として人は何度も何度も体を傷つけられて……。そうやって私達は自分達の為に人の命を犠牲にしてきたんだ。もう二度とそんな事は繰り返してはいけないんだよ…ルナ」
「うん……。ごめんなさい父様……」

私の言葉に顔をくしゃくしゃに歪めルナは泣き出してしまう。
泣きじゃくるルナをそっと抱き寄せ背中を優しく撫でてやる。


ルナの気持ちは痛いほど分かる。
私もアストの凶獣化を治す為なら何でもすると誓った……。
だからといって…ハイルを犠牲になどできない…。


「ルナ……。きっとアスト兄さんは治るからな…」

そう言って、ルナへかける言葉を自分にも言い聞かせた。

しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない

天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。 ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。 運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった―――― ※他サイトにも掲載中 ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。  どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

処理中です...