人が消えた世界で

赤牙

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第一章

13話

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「これでよし! 今日の分の点滴はこれで終わりよ」

マリオンさんはそう言うベッド横に点滴袋を吊り下げる。吊り下げられたばかりの点滴袋はプラプラと揺れ、僕はそれをボーっと見つめていた。

「ハイルくん。お腹空かない?」

お腹……。
そういえばデニスが来なくなってから何も食べてなかった…。
意識するとなんだかお腹が空いて気がしてコクリと頷くとマリオンさんは目を細めて微笑む。

「じゃあ、お腹の音を聞かせてね」

そう言うとマリオンさんは器具を取り出しお腹に触れの音を確認していく。
問題がなかったのか、うんうんと頷きながら「今日から少しずつ食べていきましょう!」と言ってくれた。



✳︎

それからしばらくするとコンコンとドアを叩く音がして「入るわね……」と、女性の声が聞こえてくる。

ゆっくりとドアが開くと、僕が天使と見間違えた金髪の獅子の半獣人が食事を乗せたトレーを持って部屋へと入ってくる。

マリオンさんとガイルさん以外の半獣人に慣れていない僕は思わず顔を強張らせてしまう。
僕の表情を見て、入ってきた女性はピタリと足を止める。

「あのね……食事を持ってきたの。近くに行っても…いいかしら?」
「……はい」

僕の様子を見ながら女性は近づき、ベッド横までくるとトレーを机に置いて僕に目線を合わせて話しかけてくる。

「私の名前はイザベラよ。前に会った時は隠れたりして……ごめんね。私まで部屋に入るとあなたを怖がらせるんじゃないかと思って……」

さっき廊下に隠れていたことを申し訳なさそうにイザベラさんは謝ってくる。

「あの…、気に……しないで下さい…」

どうして僕なんかに謝ってくるのか分からず、とりあえず気にしないで言うとイザベラさんはパァァっと顔を明るくして笑顔を見せる。

「食事……食べましょうか。少し体を起こしても大丈夫?」
「はい……」

イザベラさんは恐る恐る僕に触れる。僕もイザベラさんに触れられ最初は体を強張らせていたが、触れられるのにも徐々に慣れゆっくりと体を起こされる。
背中にクッションを入れられ寄りかかるように体位を整えてくれる。体を起こしたせいか少しボーっとする頭もしばらくすればいつも通りになる。

「大丈夫?」
「はい」
「じゃあ、お水から飲みましょうか」

まだ腕が上がらない僕の代わりにスプーンを使って水を飲ませてくれる。
久しぶりに口にする水はなんだか甘く、じんわりと口の中へと広がり潤してくれる。
何口か水を飲むと次はスープを飲ませてくれる。

「今日は固形物はやめておいた方がいいってマリオンが言っていたからスープだけね」

イザベラさんの言葉に目を見て頷くとパッと花が咲いたような笑顔を向けられる。


……同じ半獣人なのに全然違う。

僕はイザベラさんの笑顔を見ながらデニスや僕の事を道具のように見てきた半獣人の顔を思い浮かべた。

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