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第一章
12話
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「……………。」
「……?」
頭元で声が聞こえる…。
デニスとは違う男性の声と女性の声…。
ゆっくりと瞼を開くとキラキラと煌く金色と燃えるような赤色が目に入る。
天使…?
昔、父さんが見せてくれた絵本に描いてあった天使は輝くような金色の髪の毛をしていた。
その絵本に出てくる天使は赤毛の馬を連れて、辛い思いをしている子ども達を天界へ連れていく為に迎えに来てくれるという内容だった。
あぁ……そっか。
天使がここに連れて来てくれたんだ……。
天使に触れたくて手をどうにか動かすと指先に何か当たり、それをゆっくりと握る。
握りしめたのは天使の指先のようだが……思ったよりもゴツゴツしている。
まるで父さんのような指だ……。
指をギュッと握りしめると天使ではなく赤毛の馬が僕の方へと振り向く。
だが……その顔は絵本に描いてあった優しい馬ではなく、驚いた顔をした凛々しい獅子の半獣人だった。
半獣人を見た瞬間にドクンッ! と、一気に心臓が跳ね握っていた指をパッと離す。
以前、僕を襲ってきた凶獣化した獅子を思い出し目を見開いたまま、ハッハッハッハッ……と短い呼吸を繰り返していると手足や唇が痺れてくる。
「だ、大丈夫か!? イザベラ!少年が目を覚ました! マリオンを呼んできてくれ!」
「わ、わかったわ!!」
恐怖で硬直したままの体をどうにか動かそうとするが言う事を聞かない……
逃げないと……逃げないと……早く逃げないと……
「大丈夫……大丈夫だ。私は何もしない。もう君を傷つける奴はいない」
大丈夫だと僕に語りかける口調はとても優しくて、まるで僕の事を心配しているような……。
離した僕の手に恐る恐る触れ、包み込んできた手は今まで僕を道具のように扱っていた連中の手とは違った……。
混乱し恐怖のあまりパニックになった僕を半獣人は「大丈夫だ」と何度も何度も語りかけ優しく僕の手を撫でてくる。
「ぁ……ぃゃ…ぃゃ…」
漏れるように擦れた声が出てくる。
僕の声に半獣人は眉を下げ泣き出しそうな顔を見せるが、すぐに真剣な表情へと戻り僕に向かって落ち着いた口調で語りかけてくる。
「すまない……。君を傷つけたのは私達半獣だ。私の姿が恐ろしいのは分かっているんだ……。今すぐに信じてもらうのは難しいかもしれないが、ここにいる半獣人は決して君を傷つけない。約束する」
真っ直ぐな瞳を向けられ逸らすことができない。
目の前の半獣人は僕の事を蔑むこともなく、傷つけることもしてこない……。
信じていいのかな……?
僕は考え込み唇をギュッと結ぶ。
僕が何も答えないでいる間も半獣人は怒ることもなく、ただただ優しく微笑みそばにいてくれた。
互いに緊張しているせいか握られた手は汗で湿っぽくなっている。
「あ…の……」
勇気を振り絞り口を開いた瞬間、部屋のドアがバンッ! と、勢いよく開かれ紺色の髪の女性が部屋の中へと勢いよく走りこんでくる。
僕はその音に驚き体をビクつかせてしまう。
「あの子が目を覚ましたって本当っ!?」
「なっ!? マリオン!静かにしろ! 少年が怖がるだろう!」
獅子の半獣人は僕がまた青ざめた顔をしているのを見て入ってきた半獣人へ注意をする。
紺色のふわふわした髪の毛をなびかせながら近づいてきたのは羊の半獣人だった。
僕の顔を覗き込むとニカッと笑顔を向けてくる。
「マリオンよ。あなたの治療をしている医者よ。今から診察をするから体に触れるわね」
「え……?」
そう言って僕の手を取り手首に指先を当て脈を調べられ下瞼を引っ張られ何かを確認されたりと…怖がる隙もなくテキパキと診察される。
「マリオン……もう少し優しく…」
「これでも十分優しいんですよ。えーっと……君の名前を教えてもらってもいいかしら?」
「……ハイル」
「オッケー。ハイルくんね。単刀直入に言うとね、君は死にかけてた状態でここに来てやっと状態が安定したの。でも、これからも点滴や薬による治療を行っていく予定よ」
やっぱり僕……死にかけていたんだ。
「死にたかった……」
思わずポツリと言葉が漏れると獅子の半獣人の表情は硬くなる。
「まぁ……そう思うよね……。でも、そこにいるガイルさんと廊下で何故か隠れているイザベラさんは、どうしても君を助けたいと思っていたみたいよ。もちろん私もね」
マリオンさんがそう言うので開きっぱなしの扉の方へ目を向けると金色の髪をした獅子の半獣人がこっそりとこちらを見ていた。
「………なんで?」
「そうねぇ……傷ついている人を放っておけないって言うのが一番の理由かしら。あの時は皆、あなたを助けたいって気持ちだけで動いてたから」
マリオンさんの言葉に僕の心はざわつく。
感謝しなくてはいけないと思うのに、どうして死なせてくれなかったんだという気持ちが入り混じる……。
「今はまだ気持ちの整理がつかないかもしれないけど、まずは体を治してこれからの事を一緒に考えていきましょう」
「……はぃ」
僕の返事にマリオンさんは笑顔を見せ、ガイルさんは安堵の表情を浮かべていた。
憎くて仕方ない半獣人に命を救われた僕は……これからどうすればいいのだろうか……。
「……?」
頭元で声が聞こえる…。
デニスとは違う男性の声と女性の声…。
ゆっくりと瞼を開くとキラキラと煌く金色と燃えるような赤色が目に入る。
天使…?
昔、父さんが見せてくれた絵本に描いてあった天使は輝くような金色の髪の毛をしていた。
その絵本に出てくる天使は赤毛の馬を連れて、辛い思いをしている子ども達を天界へ連れていく為に迎えに来てくれるという内容だった。
あぁ……そっか。
天使がここに連れて来てくれたんだ……。
天使に触れたくて手をどうにか動かすと指先に何か当たり、それをゆっくりと握る。
握りしめたのは天使の指先のようだが……思ったよりもゴツゴツしている。
まるで父さんのような指だ……。
指をギュッと握りしめると天使ではなく赤毛の馬が僕の方へと振り向く。
だが……その顔は絵本に描いてあった優しい馬ではなく、驚いた顔をした凛々しい獅子の半獣人だった。
半獣人を見た瞬間にドクンッ! と、一気に心臓が跳ね握っていた指をパッと離す。
以前、僕を襲ってきた凶獣化した獅子を思い出し目を見開いたまま、ハッハッハッハッ……と短い呼吸を繰り返していると手足や唇が痺れてくる。
「だ、大丈夫か!? イザベラ!少年が目を覚ました! マリオンを呼んできてくれ!」
「わ、わかったわ!!」
恐怖で硬直したままの体をどうにか動かそうとするが言う事を聞かない……
逃げないと……逃げないと……早く逃げないと……
「大丈夫……大丈夫だ。私は何もしない。もう君を傷つける奴はいない」
大丈夫だと僕に語りかける口調はとても優しくて、まるで僕の事を心配しているような……。
離した僕の手に恐る恐る触れ、包み込んできた手は今まで僕を道具のように扱っていた連中の手とは違った……。
混乱し恐怖のあまりパニックになった僕を半獣人は「大丈夫だ」と何度も何度も語りかけ優しく僕の手を撫でてくる。
「ぁ……ぃゃ…ぃゃ…」
漏れるように擦れた声が出てくる。
僕の声に半獣人は眉を下げ泣き出しそうな顔を見せるが、すぐに真剣な表情へと戻り僕に向かって落ち着いた口調で語りかけてくる。
「すまない……。君を傷つけたのは私達半獣だ。私の姿が恐ろしいのは分かっているんだ……。今すぐに信じてもらうのは難しいかもしれないが、ここにいる半獣人は決して君を傷つけない。約束する」
真っ直ぐな瞳を向けられ逸らすことができない。
目の前の半獣人は僕の事を蔑むこともなく、傷つけることもしてこない……。
信じていいのかな……?
僕は考え込み唇をギュッと結ぶ。
僕が何も答えないでいる間も半獣人は怒ることもなく、ただただ優しく微笑みそばにいてくれた。
互いに緊張しているせいか握られた手は汗で湿っぽくなっている。
「あ…の……」
勇気を振り絞り口を開いた瞬間、部屋のドアがバンッ! と、勢いよく開かれ紺色の髪の女性が部屋の中へと勢いよく走りこんでくる。
僕はその音に驚き体をビクつかせてしまう。
「あの子が目を覚ましたって本当っ!?」
「なっ!? マリオン!静かにしろ! 少年が怖がるだろう!」
獅子の半獣人は僕がまた青ざめた顔をしているのを見て入ってきた半獣人へ注意をする。
紺色のふわふわした髪の毛をなびかせながら近づいてきたのは羊の半獣人だった。
僕の顔を覗き込むとニカッと笑顔を向けてくる。
「マリオンよ。あなたの治療をしている医者よ。今から診察をするから体に触れるわね」
「え……?」
そう言って僕の手を取り手首に指先を当て脈を調べられ下瞼を引っ張られ何かを確認されたりと…怖がる隙もなくテキパキと診察される。
「マリオン……もう少し優しく…」
「これでも十分優しいんですよ。えーっと……君の名前を教えてもらってもいいかしら?」
「……ハイル」
「オッケー。ハイルくんね。単刀直入に言うとね、君は死にかけてた状態でここに来てやっと状態が安定したの。でも、これからも点滴や薬による治療を行っていく予定よ」
やっぱり僕……死にかけていたんだ。
「死にたかった……」
思わずポツリと言葉が漏れると獅子の半獣人の表情は硬くなる。
「まぁ……そう思うよね……。でも、そこにいるガイルさんと廊下で何故か隠れているイザベラさんは、どうしても君を助けたいと思っていたみたいよ。もちろん私もね」
マリオンさんがそう言うので開きっぱなしの扉の方へ目を向けると金色の髪をした獅子の半獣人がこっそりとこちらを見ていた。
「………なんで?」
「そうねぇ……傷ついている人を放っておけないって言うのが一番の理由かしら。あの時は皆、あなたを助けたいって気持ちだけで動いてたから」
マリオンさんの言葉に僕の心はざわつく。
感謝しなくてはいけないと思うのに、どうして死なせてくれなかったんだという気持ちが入り混じる……。
「今はまだ気持ちの整理がつかないかもしれないけど、まずは体を治してこれからの事を一緒に考えていきましょう」
「……はぃ」
僕の返事にマリオンさんは笑顔を見せ、ガイルさんは安堵の表情を浮かべていた。
憎くて仕方ない半獣人に命を救われた僕は……これからどうすればいいのだろうか……。
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