人が消えた世界で

赤牙

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第一章

11話

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     ~イザベラSide~

少年を助けてから数日…。
まだ意識は戻らず今も小さな寝息をたてて眠っている。

あの屋敷で少年を見つけた時は驚きのあまり心臓が止まってしまいそうだった。

半獣人の私達よりも小さな体は抱きしめただけで折れてしまいそうな程に痩せていた。
首筋や肩には治癒魔術で治したであろう傷痕が無数にあり少年が今までどんな扱いを受けてきたかよく分かった…。


それから毎日、あの子の様子を見に部屋へ訪れ世話をしていく。
絶滅した『人』である少年に関しては私とガイル、マリオン、そしてあの屋敷にいた従者三名しか知らない。
その為、世話は少年の事を知っている者だけで行うようにしている。

部屋に入り少年のそばへ。
生きている事を確認し、少年の柔らかな黒髪を撫でると僅かに口元が動いた気がした。

「昨日よりも少し顔色が良くなったわね……」

少年に聞こえるように声をかけながら体を拭いていく。
少年が首につけていた発声を阻害する術式が組み込まれた首輪はマリオンの治療が終わってすぐに外した。

あんな物をこんな小さな子に使うなんて…。
声も出せず獣となった獣人に襲われるのはどんなに怖かっただろうか…。

自分の息子や娘が同じ目に遭うと思うと怒りや憎しみが次々と湧いてくる。
だが……凶獣化した親の気持ちも分からないわけではない。

ハァ……と、思わず少年の前でため息をついてしまいハッとする。


いけない…。
今はこの子の事を考えてあげないと…。

一通りの世話が終わると少年の頬を撫でて部屋を後にする。
その足で、夫のガイルがいる書斎へと向かう。

コンコンと、ドアを叩くと「は~い」と呑気な声が聞こえてくる。
部屋へ入れば領民からの嘆願書に目を通しているガイルが目に入る。
未だに慣れない領主の仕事に、眉間にシワを寄せて癖っ毛の燃えるような深紅の髪をわしゃわしゃと掻いている。

「何か困りごと?」
「ん~そうだね……。なかなか農地開拓が進んでいなくてねぇ…」
「あらそうなの……。まぁ、ここの土地を開拓していくのは困難だって言われてたものね」
「そうだねぇ……」

私がやってきたので考える事を諦めたのか書類を机に置き「ん~~…」と、獅子の獣人らしさもなく猫のように背伸びをする。

「少年の様子はどうだった?」
「あの子ならいつもと変わりないわ。今日は声をかけたら少し微笑まれた気がしたの」
「そうか…。私も仕事が終わった後に顔を見に行こうかな」

仕事でなかなか少年のところへと行けないガイルは少年の様子をよく聞いてくる。
少年の状態に一喜一憂している様子を見ると心配でしょうがないみたい。

「ねぇガイル。あの子を……これからどうするつもりなの?」
「意識のない今の状態で国に報告すると無理矢理にでも連れて行かれそうだからね……。私としては少年の意識が戻ったあとに彼の意思を確認したいと思っているんだ」

ガイルの意見に安堵し、ゆっくりと微笑む。
もしガイルが今の状態で国に少年を引き渡すなんて言い出したら引っ叩いてお説教してたところだったわ。

「まずは、あの子が元気になってくれる事を祈るしかないわね」
「あぁ……そうだな」


少年が目を覚ました時、私達は何ができるのか…
私達半獣人を見て怯えてしまわないか…

解決しなければいけない問題はまだまだ山積みね…。
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