人が消えた世界で

赤牙

文字の大きさ
上 下
10 / 55
第一章

10話

しおりを挟む
「ん……」

目を覚まし一番最初に目に飛び込んできたのはクリーム色の天井と柔らかな太陽の光…。
僕の体は真っ白なふわふわの布団に包まれていた。

凄くいい匂い…。

あの部屋の布団はいつもカビ臭くて、お日様の匂いがする布団の香りを嗅ぐのは久しぶりだ。
顔を少し横に向け部屋を見る。
あの牢獄のような部屋とは違い、大きな窓がありそこからは綺麗な青空が見えた。

あぁ……僕は天国に来れたんだ…。
やっと解放された…

そう思うと嬉しくて自然と涙が溢れてくる。

そういえば母さんは……?

僕を迎えに来てくれた母さんを探そうと思い、起き上がろうと体を動かすが自分では上手く動かせない…。
動かそうとした体はまだ重みを感じる。

死んだら……体は軽くならないのかな?

そう思いながら次は腕を動かそうとするがやはり上手く力が入らず、関節がギシっと軋み僅かに痛む…。

…もしかして僕死んでないの?
アイツデニスが帰ってきて……助けられたの?

せっかく死ぬことができたと喜んでいたのも束の間……僕はまた地獄に突き落とされた気分になった。

またあんな地獄が続くんだ…。
もう…あのまま死なせてくれればよかったのに…。


またあの日々が続くのかと思うと何もかもどうでもよくなる。
どうして地下の部屋じゃないのかと疑問に思うことなく僕は瞳を閉じて現実逃避する。
そしてそのまま睡魔が襲いウトウトと眠りについていく。

うつらうつらと、夢と現実を行き来しているとドアが開く音がした。

アイツデニスが来たのかな…。

そう思うと、体もデニスを拒絶しているのか目の奥が熱くなり胃はチクチクと痛みだす。
だが、疲労感も強く一度閉じた瞼は開かずデニスを無視するようにそのまま横になっていると、あの時僕を包んでくれた柔らかくて温かい手で優しく頭を撫でられる。

母さん……? あぁ……母さんの手だ……。

デニスではない母さんの温かな手を感じ、やっぱりここは天国なんだと実感し僕はまた深い眠りについた。

しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

【運命】に捨てられ捨てたΩ

雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

処理中です...