人が消えた世界で

第一章

９話

眠りから覚めると気怠い体を起こして水を飲みボーっと過ごす。いつもなら、もうそろそろデニスがやってきて追加の治療を施しに来るはずだ。
治療をしてくれるのはいいが、その時に聞かされる自分自身の自慢話はそろそろ聞き飽きたな…。

今日はどんな自慢話なのだろうと考えながら部屋で待っていたが、その日デニスがやってくる事はなかった。

いつまで経っても現れないデニスの事を少し心配はしたが、以前も同じような事はあったのであまり気にはならなかった。

治療するのを忘れてしまったのだろうか？まぁ、食事の時に僕の調子を見にやってくるだろう。と、呑気に考え再度眠りにつくことにした。

次の日も目が覚めボーっと部屋で待っているがデニスはやはり来ない。
とりあえず僕の事を忘れているんじゃないかと思い、ジャラ……と重い鎖を引きずりながら扉へ向かいドンドンと叩く。

首の魔道具のせいで声は出ないので音を出す方法は叩くか笛を吹くくらいだ。
しかし、どんなに扉を叩こうと誰も近づいてくる気配がない。

デニスどうしたんだろう……。
嫌な奴だが捕まっている間はデニスがいないと僕は生きていけない。僕の命はデニスに握られているも同然だ。

とりあえず、水差しに入った水を飲み空腹をごまかしながら一日が終わった。


✳︎


腹…減った……。

デニスが来なくなって何日経ったのか分からない。
ボーっとする意識の中、よろよろと立ち上がりなんとか水を飲む。

体……ダルいな……。

水を飲み終わると、すぐに横になり目を閉じた。



✳︎


立ち上がることさえもできなくなり数日が経つ。

トイレに行くこともできず部屋の中は悪臭が立ち込める。
もう水を飲む気力もなくベッドの上でなんとか生きている状態だった。

そっか……もうこのまま僕は死ぬんだ……。

まさかこんな死に方をするなんて思いもしなかったが…やっと楽になれる。

意識が遠のいていき目を閉じる……






…
………
……………！！


なんだか…外が……騒がしい…

薄らと目を開けると誰かが僕に触れる……


誰……？

母……さん……？
母さんが……迎えにきてくれた……。

目の前にボンヤリと映る死んだはずの母さんは僕の手を優しく握ると温めてくれる。

母さんの温もりに包まれて、そのまま僕は目を閉じた。