人が消えた世界で

赤牙

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第一章

7話〜ガイルSide〜

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「こちらです……。あそこに見える屋敷が突然現れた例の屋敷です」

生い茂る草木を掻き分け、慣れない道を馬で進みようやく目的の屋敷へと到着する。
古びたデザインの屋敷は高い塀に囲まれ、なんだか不気味な雰囲気を醸し出している。


「結構古そうなお屋敷ねぇ~」
「そうだな…」

イザベラは怪しい屋敷を目の前に子どものように目をキラキラと輝かせて早く行きましょう!と言ってくる。
案内してもらった者は何かあった時の為に屋敷の外で待機してもらい、私とイザベラと屋敷から連れてきた腕の立つ従者達の数名で屋敷へと向かう。

屋敷を囲う塀と門は一見普通に見えるのだが、中に入ろうと門や塀に触れようとすると弾かれてしまい近づけない。

「へぇ~なかなか凄い結界を張ってるわねぇ…」

イザベラは一人でブツブツと呟きながら屋敷を囲う塀に沿って何かを探すように歩いていく。
そして何かを見つけたのか立ち止まると塀に向かって手をかざす。

「古代魔術を使った術式でこの結界を張ってるのね…。いいわ……やってやろうじゃない!」

イザベラは不敵な笑みを浮かべなから数十分程一言も喋らずに塀に手をかざし続ける。


「よし! これで解除できたはず! ガイル、門を開けてみて!」

イザベラの言葉を聞き先程弾かれた門へと触れると問題なく触れられる。

「イザベラ! 大丈夫だ! 解除できてる」
「久々だったから時間かかっちゃったわね。それにしても結界の術式も古いし突然屋敷が現れたって事は、随分前にかけられた認識阻害の術式の効果が切れてこの屋敷が見えるようになったのかもしれないわね…」
「なるほどな…」

「この術式を組んだ人は結界も幾重にも重ねて掛けていたから、まだ色々あるかもしれないわね……。私が先頭で進んで行くけどいい? 何かあったらすぐに対応したいから」
「あぁ。よろしく頼む」

イザベラは気合の入った足取りで先陣を切っていく。
いつもはおっとりした優しい性格のイザベラだが魔術が絡むと性格が変わり男前な一面も…。
この場はイザベラに任せ私と従者達は大人しく後ろをついて行くことにした。

玄関にも同じような結界が張られておりイザベラが解除し屋敷の中へと入っていく。
薄暗い屋敷の中は物音一つせず静まり返っている。

「誰もいないみたいね……」
「そうだな……」

屋敷の部屋を一つずつ見て回るが特に変わった様子もない。キッチンには使いかけの食器が二人分あり、この屋敷に誰か住んでいたのは間違いないようだ。

「この部屋だけ結界が張られてるわ……」

イザベラが再度結界を解除して部屋のドアを開けると、部屋の真ん中に白骨化した半獣人の遺体が目に入る。

「ひぃっっ!!」

イザベラは思わず声を上げ私の方へしがみついてくる。

「大丈夫だよイザベラ…。ただの骨だから」
「そ、そうだけどぉ……骨でも怖いのよ!」

さっきまでの男らしさは何処へやら…。
怖がるイザベラを宥めながら白骨化した遺体に手を合わせ丁重に扱う。
部屋の中は魔術書や資料などで溢れ返り、遺体に怯えていたイザベラもいつの間にか大量の魔術書に釘付けになっていた。

イザベラが魔術書を見て回っている間に私は机に置いてあった手帳を手に取る。
魔術の事ばかりが書いてある手帳をパラパラとめくっているとイザベラが後ろから手帳を覗き込んでくる。

「何を見ているの?」
「あぁ、ここの屋敷の人物の手帳のようだ……。手掛かりがないかと思ったが書いてあるのは魔術に関する事ばかりでね…」
「ふーん……。あら、これは多分日記よ?」
「え? でも書いてあるのは…」
「ちょっと待っててねぇ…」

イザベラが手帳へと手をかざし魔力を送り込んでいくと、手帳に書かれていた文字が動き出し内容が変化していく。

「ふふ。小さな頃に友達と秘密の手紙のやり取りをする時にこの魔術を使ったわ~」
「へぇ~そうなんだ」

文字の動きが止まり内容の変わった手帳に目を通していく。先程とはまるで違う文面の内容はイザベラの言った通り手帳の持ち主の日記だった。

この手帳の持ち主は男性の魔導師で日記の内容のほとんどが自分の魔術がいかに優れているのか、世間が自分を認めてくれない葛藤や妬み…
はっきりいって読んでいて気分のいいものではなかった。
日記の後半になると男性は金に困り犯罪にも手を染めだしていた。
自分の力を示す事に固執している男性は次第に金のためならば何でもするようになっていく。

ページをめくっていくと『人を手に入れた』という文章が目に入る。
数百年前まで半獣人は『人』を凶獣化の治療方法の一つとして使い、最後には絶滅まで追い込んだ歴史がある……。

ここに書かれた『人』も、その犠牲者なのか……。

そう思うと同族が行った行為に対して怒りが湧いてくる。
犠牲になった一人の少年を使い、男性は凶獣化した者へ少年の血を分け与え多額の金を手に入れていたようだ。

そして、半獣人に比べると寿命の短い人を長期的に使用できるよう時間の経過を遅らせる術式を施した地下の部屋へ少年を隔離していると書いてあった……。
そしてその横には、その少年のいる部屋に施した術式の計算式のようなものが書かれていた。

時間を遅らせる……??
もし……これが本当ならば…この屋敷には人の少年がいるのか…?

『人』という文字を見てから早くなっていた鼓動はバクバクとさらに早く脈を打つ。

緊張と興奮で震える手で男性が最後に書いたであろうページをめくり日付を確認する。

「300年前だとっ!!」

私がいきなりあげた大声でイザベラは「ヒャッ!」と、声をあげ驚きのあまり持っていた本を床に落とす。

「ガイル!? どうしたの?」
「イザベラ! 紙とペンを!! あと、地下へと続く通路があるはずだ! 皆を集めて探しだすんだ!」
「え? えっ? 何どうしたの?」
「もしかしたらこの屋敷に人がいるかもしれない…」
「えぇぇぇえ!!?」

イザベラは驚愕の表情を見せ慌てて他の部屋にいる従者達に声をかける。
連れてきた従者が地下への通路を探している間に男性が残した日記の計算式を解き、少年が閉じ込められた部屋ではどのくらいの時間が経過したのか計算していく。

「20日間……」

もし少年が飲み食いせずにいるのなら…生きている確率は少ない。
だが、一刻も早く探し出さなければ…。
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