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第一章
4話
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鉄格子の中にいる狼は興奮しながらウロウロと歩き回り時折その鋭い爪で鉄格子にガンガンと爪を叩きつけ、金属音が地下通路に反響し響き渡る。
「本当にこのまま彼をこの中に入れていいのか?」
「はい。御子息は非常に魔力が強く凶獣化の現象も長いですからね…。保存した人の血では効果が無かったのでしょう? 魔力の強い子ほど獣のように肌に牙を立て、生き血を直接啜らないと改善しないという研究報告もありますからね…」
二人の会話で僕が今から何をさせられるのか予想がつき思わず逃げ出してしまう。
しかし、手枷に繋がった鎖をグンッとデニスに引かれるとバランスを崩してその場で倒れ込んでしまう。
「ハイル往生際が悪いぞ。さぁ、お前の仕事をしてこい」
そう言われるとデニスに首根っこを掴まれ無理矢理狼のいる鉄格子の中へと投げ入れられる。
投げ入れられた衝撃で床に体を打ち付け横たわっていると、すぐに狼が僕の上へと覆い被さってくる。
いやだっ! 来るな! あっちに行けっ!
必死に口を開き腕を上げ振り回し抵抗する。
振り回した腕が狼の顔に当たり、狼が怯んだ隙に身体を起こし距離を取る。
狼はさらに唸り声を上げ口からはダラダラと涎を垂れ流している。
鉄格子の部屋はあまり広さはなく後退りしている間に壁際まで来てしまう。
助けて……助けて……。
じりじりと距離を詰め興奮した面持ちの狼に恐怖で足は竦む。
助けてほしくてデニスと侯爵様へと目線を向けるが、二人は真面目な顔で僕達の様子を伺っていた。
そして、二人の方へ目線を向けた一瞬に狼は僕との距離を縮め…首筋に鋭く硬い牙を突き立てた。
「っっっつつ!!!!」
首筋の肉が裂け血が吹き出す感覚と痛みに息が止まる。立っていられず座り込み、自然と涙が溢れ痛みに耐えるように拳を握り締める。
ハッハッハッ…と、狼の興奮した荒い息が吹きかけられ首筋に食い込んだ牙がゆっくりと抜かれるとドクドクと血が溢れ出してくる。
その血を長い舌で舐め取られ耳元ではピチャピチャと水音が響く。
やだ……やだ……怖い…痛い…殺される……。
痛みと恐怖にカタカタと体を揺らしハフハフと呼吸する。頬を恐怖の涙で濡らし体を縮め僕はただ耐えるしかできなかった…。
それからしばらく僕の血を舐めていた狼は徐々に落ち着き始める。ギラギラと獲物を求めていた瞳は穏やかになり、血を舐めるのを満足したのか首筋から離れ僕の膝の上に頭を乗せてくる。
訳がわからない僕は動けずにいると狼の体は徐々に変化を始める。
いきなり目の前で起こり始めた出来事に、噛まれた時とは違う恐怖で体を強張らせていると狼から手足が伸び徐々に子どもの半獣人の姿へと変化していった。
「おぉ……なんということだ…。凶獣化が解けている…」
鉄格子の外で一部始終を見ていた侯爵様は歓喜の声をあげながら部屋へと入り、半獣人に戻った我が子を抱きしめていた。
「あれだけ冷凍保存した血液を飲ませてもダメだったのに…。生き血はこうも違うのだな…」
「私も半信半疑でしたがここまでの効果があるとは驚きです」
デニスもいつもより興奮した声で侯爵様と話しながら僕に気味の悪い笑顔を向けてくる。
「なぁデニス……この子を私に譲ってくれないか?」
「すみませんが売り物ではないので……。また御子息に何かあればいつでも連絡してください。今回、侯爵様のおかげで人の生き血の効果を知る事ができましたので」
「そうか……残念だが仕方ないな……。また何かあれば連絡をする。金は屋敷の者に持たせてあるから受け取ってくれ」
デニスは侯爵様との話が終わると「ほら早くするんだ」と、無理矢理立たせられる。
なんとか立つが血を出しすぎたせいか歩くのがやっとだ…。
僕は侯爵様に抱きかかえられた半獣人の子どもを見つめ屋敷を後にした。
なんとか馬車まで辿り着くと倒れるように馬車へと乗り込む。
もう座っている事さえもままならない…。
「ハイル。よくやったぞ。お前を高い金を出して買った甲斐があった。また次も頑張るんだぞ」
デニスはそう言って僕の傷ついた首筋へと手を当てるとブツブツと呟く。首筋はホワリと暖かくなりズキズキと痛んでいた傷口は痛みが消える。
「お前がいくら傷ついても私がきちんと治してやるから安心しろ。お前を殺したりはしない」
デニスは、にやついた笑顔で僕を見ながら嬉しそうに今日の出来事を自分の手柄のように話し始める。
デニスの話を聞いていると今日の事を思い出し、痛みと恐怖でまたツゥ…と涙が頬を伝う。
父さん……助けて……。
僕は薄れゆく意識の中、何度も心の中でそう叫んだ。
「本当にこのまま彼をこの中に入れていいのか?」
「はい。御子息は非常に魔力が強く凶獣化の現象も長いですからね…。保存した人の血では効果が無かったのでしょう? 魔力の強い子ほど獣のように肌に牙を立て、生き血を直接啜らないと改善しないという研究報告もありますからね…」
二人の会話で僕が今から何をさせられるのか予想がつき思わず逃げ出してしまう。
しかし、手枷に繋がった鎖をグンッとデニスに引かれるとバランスを崩してその場で倒れ込んでしまう。
「ハイル往生際が悪いぞ。さぁ、お前の仕事をしてこい」
そう言われるとデニスに首根っこを掴まれ無理矢理狼のいる鉄格子の中へと投げ入れられる。
投げ入れられた衝撃で床に体を打ち付け横たわっていると、すぐに狼が僕の上へと覆い被さってくる。
いやだっ! 来るな! あっちに行けっ!
必死に口を開き腕を上げ振り回し抵抗する。
振り回した腕が狼の顔に当たり、狼が怯んだ隙に身体を起こし距離を取る。
狼はさらに唸り声を上げ口からはダラダラと涎を垂れ流している。
鉄格子の部屋はあまり広さはなく後退りしている間に壁際まで来てしまう。
助けて……助けて……。
じりじりと距離を詰め興奮した面持ちの狼に恐怖で足は竦む。
助けてほしくてデニスと侯爵様へと目線を向けるが、二人は真面目な顔で僕達の様子を伺っていた。
そして、二人の方へ目線を向けた一瞬に狼は僕との距離を縮め…首筋に鋭く硬い牙を突き立てた。
「っっっつつ!!!!」
首筋の肉が裂け血が吹き出す感覚と痛みに息が止まる。立っていられず座り込み、自然と涙が溢れ痛みに耐えるように拳を握り締める。
ハッハッハッ…と、狼の興奮した荒い息が吹きかけられ首筋に食い込んだ牙がゆっくりと抜かれるとドクドクと血が溢れ出してくる。
その血を長い舌で舐め取られ耳元ではピチャピチャと水音が響く。
やだ……やだ……怖い…痛い…殺される……。
痛みと恐怖にカタカタと体を揺らしハフハフと呼吸する。頬を恐怖の涙で濡らし体を縮め僕はただ耐えるしかできなかった…。
それからしばらく僕の血を舐めていた狼は徐々に落ち着き始める。ギラギラと獲物を求めていた瞳は穏やかになり、血を舐めるのを満足したのか首筋から離れ僕の膝の上に頭を乗せてくる。
訳がわからない僕は動けずにいると狼の体は徐々に変化を始める。
いきなり目の前で起こり始めた出来事に、噛まれた時とは違う恐怖で体を強張らせていると狼から手足が伸び徐々に子どもの半獣人の姿へと変化していった。
「おぉ……なんということだ…。凶獣化が解けている…」
鉄格子の外で一部始終を見ていた侯爵様は歓喜の声をあげながら部屋へと入り、半獣人に戻った我が子を抱きしめていた。
「あれだけ冷凍保存した血液を飲ませてもダメだったのに…。生き血はこうも違うのだな…」
「私も半信半疑でしたがここまでの効果があるとは驚きです」
デニスもいつもより興奮した声で侯爵様と話しながら僕に気味の悪い笑顔を向けてくる。
「なぁデニス……この子を私に譲ってくれないか?」
「すみませんが売り物ではないので……。また御子息に何かあればいつでも連絡してください。今回、侯爵様のおかげで人の生き血の効果を知る事ができましたので」
「そうか……残念だが仕方ないな……。また何かあれば連絡をする。金は屋敷の者に持たせてあるから受け取ってくれ」
デニスは侯爵様との話が終わると「ほら早くするんだ」と、無理矢理立たせられる。
なんとか立つが血を出しすぎたせいか歩くのがやっとだ…。
僕は侯爵様に抱きかかえられた半獣人の子どもを見つめ屋敷を後にした。
なんとか馬車まで辿り着くと倒れるように馬車へと乗り込む。
もう座っている事さえもままならない…。
「ハイル。よくやったぞ。お前を高い金を出して買った甲斐があった。また次も頑張るんだぞ」
デニスはそう言って僕の傷ついた首筋へと手を当てるとブツブツと呟く。首筋はホワリと暖かくなりズキズキと痛んでいた傷口は痛みが消える。
「お前がいくら傷ついても私がきちんと治してやるから安心しろ。お前を殺したりはしない」
デニスは、にやついた笑顔で僕を見ながら嬉しそうに今日の出来事を自分の手柄のように話し始める。
デニスの話を聞いていると今日の事を思い出し、痛みと恐怖でまたツゥ…と涙が頬を伝う。
父さん……助けて……。
僕は薄れゆく意識の中、何度も心の中でそう叫んだ。
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