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本章
88.5話:イケメン半獣人の事情 ① 〜エルSide〜
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✳︎✳︎少し暴力的な内容が含まれる場面があります✳︎✳︎
「アルジ……」
スヤスヤと眠るカオルを見つめてエルは優しく頬を撫でる。
今まで生きてきた中でカオルと過ごす時間はエルにとって幸せそのものだった。
幼い頃の記憶はなく父と母の顔は覚えていない。
親もおらず、もちろん住む家やお金も無かった。
毎日生きて行くことに必死だった。
物心ついた時には同じ境遇の子供達と身を寄せ合い路上で暮らしていた。
エルが産まれた国では内戦が繰り返され親のいない子は沢山いた。
そして、そんな子供達に優しく微笑む大人はロクな奴ではない事がほとんどだった。
体の発育が早く身体的にも強い半獣人は戦闘奴隷として高く売れた。
戦争孤児の半獣人の子供達を捕まえ自分達にとって都合のいい奴隷にしようとする者達は多かった。
美味しい食事を食べさせてあげよう。
綺麗な服を着せてあげる。
暖かい布団で寝れる。
こんな地獄のような生活から救ってあげよう。
皆、その甘く魅力的な言葉を信じて奴隷商についていく。
エルもそんな子供の一人だった。
一緒に暮らしていた子供達とご飯をくれると言う男についていき馬車に乗せられると、まず白くふわふわした物を皆に一つずつ配られた。
『これは何??』
『これは白パンだよ』
半獣人がよく使う言葉で子供の一人が話しかけると、その男も子供の言葉に合わせて答えてくれる。
自分達が使う言葉が通じる事に安心して渡された白パンに口をつける。
今まで食べた事のないふわふわとした食べ物にエルを含め子供達は皆驚く。
そして、その美味しさに持っていたパンはすぐに無くなってしまった。
男はその他にも甘い飲み物もくれた。
この世界にはこんなにも美味しいものがあるのかと皆感動した。
『私の家に来ればこれ以上に美味しい食べものが食べられるよ。君達を私の子供として育てたい』
男の優しそうな笑顔とその言葉に子供達は満面の笑顔を浮かべ了承し男についていく事にした。
男の家はとても大きな家で連れてこられた半獣の子以外にも沢山の子供がいた。
体を綺麗にすると服を着せられ、美味しい食事を食べる。
エルは拾ってくれた男が神様のように思えた。
そして、その日のうちに子供達は『私の子供達だと分かるように…』と、男に言われ主従の契約を結び男の所有物の証である奴隷の首輪をつけられた。
男に言われたのは、まずは人の言葉を覚えること。
毎日毎日、言葉や文字の勉強をする日々。
しかし一番小さかったエルは、なかなか勉強についていけずにいた。
男は勉強ができる子とできない子で態度を変える。
皆、男に褒められたくて勉強を頑張った。
『エルはどうしてこんな簡単な言葉も覚えられないんだ?』
『ごめんなさい…』
男のところに来てから数ヶ月が経ち今だに上手く人の言葉が話せないエルに男は苛立っていた。
「ハァ……。ハズレを拾ったか」
男は大きなため息をつくとエルに冷たい目線を向ける。
それからすぐにエルだけ違う所に行くことになったと男から告げられた。
一緒に暮らしていた仲間達と離れるのが嫌で泣きながら馬車に乗せられエルは他の男に売られた。
2人目の主人となる男は勉強をしろとは言わなかったが、その日から剣術や体術を中心に厳しい訓練が始まった。
どんなに痛くても辛くても泣いてもやめる事はできない。気絶すれば叩き起こされ暴力をふるわれる。
男の命令には「ハイ」としか答える事を許されなかった。
そんな厳しい訓練にも耐え、身体的に発育が早かったエルは徐々に力をつけていき強くなった。
男は行商人でエルを含めた数名に荷馬車を護衛をさせながら色々な地域をまわっていった。
護衛の仕事は過酷だったが、食事を与えてもらえるだけでも感謝するんだと教えこまれたエルは男の事を優しい人だと思っていた。
2人目の男は人の言葉しか話せず、エルは男の命令を上手く理解できない事が多々あった。
命令通りに出来ないと男は怒り暴言を吐きながらエルに何度も鞭を振り上げた。
「ゴメン…ナサイ…」
鞭で打たれる時にはこう言うんだと護衛仲間に教えてもらった言葉を何度も何度も呟きながらエルは男の怒りが鎮まるのを待つ事しかできなかった。
それから数年が経ち、エルも人の言葉が大抵理解できるようになると失敗する事も減り鞭で打たれる回数も減っていった。
いつものように護衛をしていると毒を持つ獣の集団に襲われた。
数が多く討ち漏らした1匹が行商人の男に襲いかかっていた。
「おい!なにやってるんだ!早く助けろっ!!」
行商人の男の叫び声にエルが反応し向かう。
男を助けようと必死に戦いなんとか獣は倒したが、獣の体液に含まれる毒が右眼に入りエルは視力を失ってしまった。
今回の獣の襲撃で仲間が一人死に行商人の男も軽いかすり傷を負った。
行商人の男は自分を守れなかったエル達護衛に役立たずと罵り怒り鞭を一晩中打ちつけた。
そしてその後、右眼の視力を無くしたエルには価値がないと行商人の男はエルを奴隷商人へと格安の値段で売った。
エルの3人目の主人となる金髪の奴隷商人は使い道があまりないエルをオモチャとして貸し出す事にした。
人には言えない性癖を持った者達に痛みだけを与えられ傷つけられる毎日に…エルの心は死んでしまった。
何をされても反応しないエルに客も興味を無くし暗い牢屋のような部屋で過ごす事が多くなった。
金髪の奴隷商人は「これは廃棄処分ですね」と、言ってきたがエルはずっと死を望んでいた。
イタイ…ツライ…シニタイ…
ずっとその言葉を呟きながら自分の死を待っていた時、いつもなら素通りされる自分の部屋の前で声がした。
奴隷商人とその人の会話の内容が途切れ途切れに聞こえてくる。
「俺…この半獣人が欲しいです!」
その言葉が自分に向けて言われているなど微塵も思っていなかったエルは『ウルサイ…』と心の中で呟き目を閉じていると、部屋の鍵が開けられ奴隷商人の男に鎖を引かれる。
久しぶりに客が来たのかと思い引きずられながら外へとでると小柄な少年が自分を見上げていた。
「アルジ……」
スヤスヤと眠るカオルを見つめてエルは優しく頬を撫でる。
今まで生きてきた中でカオルと過ごす時間はエルにとって幸せそのものだった。
幼い頃の記憶はなく父と母の顔は覚えていない。
親もおらず、もちろん住む家やお金も無かった。
毎日生きて行くことに必死だった。
物心ついた時には同じ境遇の子供達と身を寄せ合い路上で暮らしていた。
エルが産まれた国では内戦が繰り返され親のいない子は沢山いた。
そして、そんな子供達に優しく微笑む大人はロクな奴ではない事がほとんどだった。
体の発育が早く身体的にも強い半獣人は戦闘奴隷として高く売れた。
戦争孤児の半獣人の子供達を捕まえ自分達にとって都合のいい奴隷にしようとする者達は多かった。
美味しい食事を食べさせてあげよう。
綺麗な服を着せてあげる。
暖かい布団で寝れる。
こんな地獄のような生活から救ってあげよう。
皆、その甘く魅力的な言葉を信じて奴隷商についていく。
エルもそんな子供の一人だった。
一緒に暮らしていた子供達とご飯をくれると言う男についていき馬車に乗せられると、まず白くふわふわした物を皆に一つずつ配られた。
『これは何??』
『これは白パンだよ』
半獣人がよく使う言葉で子供の一人が話しかけると、その男も子供の言葉に合わせて答えてくれる。
自分達が使う言葉が通じる事に安心して渡された白パンに口をつける。
今まで食べた事のないふわふわとした食べ物にエルを含め子供達は皆驚く。
そして、その美味しさに持っていたパンはすぐに無くなってしまった。
男はその他にも甘い飲み物もくれた。
この世界にはこんなにも美味しいものがあるのかと皆感動した。
『私の家に来ればこれ以上に美味しい食べものが食べられるよ。君達を私の子供として育てたい』
男の優しそうな笑顔とその言葉に子供達は満面の笑顔を浮かべ了承し男についていく事にした。
男の家はとても大きな家で連れてこられた半獣の子以外にも沢山の子供がいた。
体を綺麗にすると服を着せられ、美味しい食事を食べる。
エルは拾ってくれた男が神様のように思えた。
そして、その日のうちに子供達は『私の子供達だと分かるように…』と、男に言われ主従の契約を結び男の所有物の証である奴隷の首輪をつけられた。
男に言われたのは、まずは人の言葉を覚えること。
毎日毎日、言葉や文字の勉強をする日々。
しかし一番小さかったエルは、なかなか勉強についていけずにいた。
男は勉強ができる子とできない子で態度を変える。
皆、男に褒められたくて勉強を頑張った。
『エルはどうしてこんな簡単な言葉も覚えられないんだ?』
『ごめんなさい…』
男のところに来てから数ヶ月が経ち今だに上手く人の言葉が話せないエルに男は苛立っていた。
「ハァ……。ハズレを拾ったか」
男は大きなため息をつくとエルに冷たい目線を向ける。
それからすぐにエルだけ違う所に行くことになったと男から告げられた。
一緒に暮らしていた仲間達と離れるのが嫌で泣きながら馬車に乗せられエルは他の男に売られた。
2人目の主人となる男は勉強をしろとは言わなかったが、その日から剣術や体術を中心に厳しい訓練が始まった。
どんなに痛くても辛くても泣いてもやめる事はできない。気絶すれば叩き起こされ暴力をふるわれる。
男の命令には「ハイ」としか答える事を許されなかった。
そんな厳しい訓練にも耐え、身体的に発育が早かったエルは徐々に力をつけていき強くなった。
男は行商人でエルを含めた数名に荷馬車を護衛をさせながら色々な地域をまわっていった。
護衛の仕事は過酷だったが、食事を与えてもらえるだけでも感謝するんだと教えこまれたエルは男の事を優しい人だと思っていた。
2人目の男は人の言葉しか話せず、エルは男の命令を上手く理解できない事が多々あった。
命令通りに出来ないと男は怒り暴言を吐きながらエルに何度も鞭を振り上げた。
「ゴメン…ナサイ…」
鞭で打たれる時にはこう言うんだと護衛仲間に教えてもらった言葉を何度も何度も呟きながらエルは男の怒りが鎮まるのを待つ事しかできなかった。
それから数年が経ち、エルも人の言葉が大抵理解できるようになると失敗する事も減り鞭で打たれる回数も減っていった。
いつものように護衛をしていると毒を持つ獣の集団に襲われた。
数が多く討ち漏らした1匹が行商人の男に襲いかかっていた。
「おい!なにやってるんだ!早く助けろっ!!」
行商人の男の叫び声にエルが反応し向かう。
男を助けようと必死に戦いなんとか獣は倒したが、獣の体液に含まれる毒が右眼に入りエルは視力を失ってしまった。
今回の獣の襲撃で仲間が一人死に行商人の男も軽いかすり傷を負った。
行商人の男は自分を守れなかったエル達護衛に役立たずと罵り怒り鞭を一晩中打ちつけた。
そしてその後、右眼の視力を無くしたエルには価値がないと行商人の男はエルを奴隷商人へと格安の値段で売った。
エルの3人目の主人となる金髪の奴隷商人は使い道があまりないエルをオモチャとして貸し出す事にした。
人には言えない性癖を持った者達に痛みだけを与えられ傷つけられる毎日に…エルの心は死んでしまった。
何をされても反応しないエルに客も興味を無くし暗い牢屋のような部屋で過ごす事が多くなった。
金髪の奴隷商人は「これは廃棄処分ですね」と、言ってきたがエルはずっと死を望んでいた。
イタイ…ツライ…シニタイ…
ずっとその言葉を呟きながら自分の死を待っていた時、いつもなら素通りされる自分の部屋の前で声がした。
奴隷商人とその人の会話の内容が途切れ途切れに聞こえてくる。
「俺…この半獣人が欲しいです!」
その言葉が自分に向けて言われているなど微塵も思っていなかったエルは『ウルサイ…』と心の中で呟き目を閉じていると、部屋の鍵が開けられ奴隷商人の男に鎖を引かれる。
久しぶりに客が来たのかと思い引きずられながら外へとでると小柄な少年が自分を見上げていた。
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