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19話:治療薬
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先ほど見たスケッチの花と同じ形をした花が目の前で優雅に花を咲かせている。
驚きのあまり目を何度も瞬かせる。欲するがあまり救いの花の幻想を見ているのか、それとも似た花が月明かりに照らされてそう見えるのか。
ルイスは訳がわからぬまま窓辺へと近寄り、花を手に取る。
月の光が消えた後も、花は黄金色の輝きをまとったままルイスの顔を明るく照らした。
花を持ったまま呆然と立ち尽くすルイス。
ベルンがウーヴェたちを連れて部屋に入ると驚きの声があがる。
「———っ!? ル、ルイス様、その花は……」
ベルンが言葉を詰まらせる。ウーヴェも驚きのあまり言葉を失っていた。
ルイスたちが困惑していると、物音に反応してフェリスの耳がピクリと動く。
人の気配がして目を擦り開くと、目の前に花を手にしたルイスが見え、慌てて体を起こす。
「お帰りなさいませルイス様」
「ただ、いま。フェリス、この花は誰が……?」
ルイスの驚いた顔を見て、フェリスは嬉しそうに微笑む。
「花壇に植えていた花がやっと咲いたんです。とても綺麗だったので、オスカー様にも見て欲しくて持ってきました」
ルイスは視線を花へ向ける。確かに、特徴的な葉の形は花壇で世話をしていたあの花だった。
驚きのあまり固まったままのルイスをフェリスが心配そうに見つめていると、ドアの近くからしゃがれた声が聞こえてくる。
「シュミット侯爵、その花を見せてはいただけませんか? エルマー、資料を開いてくれ」
エルマーと呼ばれた付き添いの若い医師は慌てて救いの花について書かれたページを開く。
ウーヴェは興奮した様子でルイスのもとへと駆け救いの花を手に取り絵と目の前で咲いている花を見比べる。
特徴を一つ一つ確認していくウーヴェの瞳は輝きを増していく。
「これは……なんと、なんということだ。花弁の数や花の特徴が全て一致しております。この花は救いの花の可能性が非常に高いと思われます。シュミット侯爵、この花は一体どこで手に入れたのですか? なぜ、ここに?」
興奮したウーヴェがルイスに詰め寄る。
「この花は、そこにいるフェリスが育てていた花なのです」
名前を呼ばれたフェリスに皆の視線が集まる。ただごとではない皆の様子にピンと耳と尻尾を立てフェリスは緊張した表情を見せる。
「フェリスくんと言ったかな。この花の種をどこで手に入れたのかね?」
ウーヴェのすごみのある声に、フェリスの不安は大きくなり恐る恐る答える。
「この花の種は露店で買ったものです。店主さんは、海辺で見つけた漂流物の中にあった物だと言っていました。あの……その花は、育ててはいけない花でしたか?」
不安気に耳をぺたりと倒すフェリス。
それを見て、ウーヴェは表情を一変させ柔らかな笑顔を向ける。
「その逆だよ。この花は侯爵のご弟様を救えるかもしれない花なのだよ」
「……へ?」
ウーヴェの言葉の意味がわからず、間の抜けた返事をしてしまう。
フェリスが首を傾げて立ち尽くしていると、ルイスが近寄り力強く抱きしめる。
息が詰まるほどの熱い抱擁にフェリスは目を白黒させた。
「フェリス、あの花はオスカーの病を治すことができるかもしれない救いの花なんだ」
「救い、の花? あの花が病を治すんですか?」
腕の隙間から顔を出してルイスを見上げると、瞳には涙がうっすらと浮かんでいた。
「そうなんだ。手に入れることがとても難しい花だと聞かされたばかりだったんだが……まさか、こんな奇跡が起こるなんて思いもしなかった。フェリス、お願いだ。あの花を私に譲ってくれないか?」
「もちろんです! オスカー様の病気が治るのなら使って下さい!」
「ありがとう」と言って、ルイスはさらに強く抱きしめる。ルイスの喜びがフェリスにも伝わってきて、胸が熱くなる。
あの花がオスカーの病気を治してくれるかもしれないと思うと、目頭も熱くなり嬉し涙が溢れてきた。
喜びあっているとベルンの冷静な声が部屋に響く。
「まだオスカー様の病が治った訳ではありません。バウマン様、この花をどのように煎じればいいのですか?」
ウーヴェは資料に目を落とし、花の煎じ方について話しだす。
「えー……花びら一枚を細かくすりつぶし、水精霊から祝福の雫を分けてもらう。風精霊の祝福の風で混ぜ、最後に治癒精霊の祝福を加える」
読み上げたウーヴェは困ったと苦笑いを浮かべる。
「これは、作るのに時間が必要そうで……」
「「すぐにできます!」」
ルイスとフェリスが同時に声を上げると、すぐに精霊たちを呼ぶ。
「ハイル、キミの力を貸してほしいんだ。頼む」
「お願い、みんなの力を貸して」
ハイルやピーアたちは二人の呼びかけにもちろんだと返事をする。
精霊が見えないウーヴェたちは、誰もいない空間に話しかける二人に戸惑い不安を感じていた。
気まぐれな精霊たちがすんなり自分たちの願いを聞いてくれるのだろうかと。
ベルンがすり鉢を準備するとウーヴェが丁寧に救いの花の花弁をすりつぶしていく。
花をすりつぶしていくと黄金色の光がさらに強くなった。そこに、水精霊ピーアが祈りを込めて祝福の雫を与え、風精霊クラウスが祝福の風で混ぜていく。
最後に、ハイルが祝福を与えると黄金色に輝く薬が完成した。
目の前で起こる不思議な光景を呆然と見つめるウーヴェが出来上がった薬を匙ですくう。
まるでハチミツのようにトロリとした液体からは花の甘い香りがした。
「完成……したのでしょうか?」
フェリスが問いかけるとウーヴェは匙で薬を少量すくい口にすると、しばらく考え込みニコリと微笑む。
「口にいれた時にしびれは感じませんでした。これから丸一日様子を見て私の体に異変がなければ薬を投与してみましょう。そして、効果の方も」
「効果ということは、ウーヴェ殿は何か病に罹っていらっしゃるのですか?」
「私の病は心臓が不規則に動く病です。今は症状もなく落ち着いております」
心配しないでくれとウーヴェが笑いかける。
ウーヴェの言葉にルイスとフェリスは大きく頷き、オスカーの方に向きなおる。
「オスカー、明日になればお前の病気が治るかもしれない。だから頑張るんだぞ」
「オスカー様、絶対に元気になれますからね」
二人は眠るオスカーの手を握りしめ、薬が無事に投薬できることを祈った。
驚きのあまり目を何度も瞬かせる。欲するがあまり救いの花の幻想を見ているのか、それとも似た花が月明かりに照らされてそう見えるのか。
ルイスは訳がわからぬまま窓辺へと近寄り、花を手に取る。
月の光が消えた後も、花は黄金色の輝きをまとったままルイスの顔を明るく照らした。
花を持ったまま呆然と立ち尽くすルイス。
ベルンがウーヴェたちを連れて部屋に入ると驚きの声があがる。
「———っ!? ル、ルイス様、その花は……」
ベルンが言葉を詰まらせる。ウーヴェも驚きのあまり言葉を失っていた。
ルイスたちが困惑していると、物音に反応してフェリスの耳がピクリと動く。
人の気配がして目を擦り開くと、目の前に花を手にしたルイスが見え、慌てて体を起こす。
「お帰りなさいませルイス様」
「ただ、いま。フェリス、この花は誰が……?」
ルイスの驚いた顔を見て、フェリスは嬉しそうに微笑む。
「花壇に植えていた花がやっと咲いたんです。とても綺麗だったので、オスカー様にも見て欲しくて持ってきました」
ルイスは視線を花へ向ける。確かに、特徴的な葉の形は花壇で世話をしていたあの花だった。
驚きのあまり固まったままのルイスをフェリスが心配そうに見つめていると、ドアの近くからしゃがれた声が聞こえてくる。
「シュミット侯爵、その花を見せてはいただけませんか? エルマー、資料を開いてくれ」
エルマーと呼ばれた付き添いの若い医師は慌てて救いの花について書かれたページを開く。
ウーヴェは興奮した様子でルイスのもとへと駆け救いの花を手に取り絵と目の前で咲いている花を見比べる。
特徴を一つ一つ確認していくウーヴェの瞳は輝きを増していく。
「これは……なんと、なんということだ。花弁の数や花の特徴が全て一致しております。この花は救いの花の可能性が非常に高いと思われます。シュミット侯爵、この花は一体どこで手に入れたのですか? なぜ、ここに?」
興奮したウーヴェがルイスに詰め寄る。
「この花は、そこにいるフェリスが育てていた花なのです」
名前を呼ばれたフェリスに皆の視線が集まる。ただごとではない皆の様子にピンと耳と尻尾を立てフェリスは緊張した表情を見せる。
「フェリスくんと言ったかな。この花の種をどこで手に入れたのかね?」
ウーヴェのすごみのある声に、フェリスの不安は大きくなり恐る恐る答える。
「この花の種は露店で買ったものです。店主さんは、海辺で見つけた漂流物の中にあった物だと言っていました。あの……その花は、育ててはいけない花でしたか?」
不安気に耳をぺたりと倒すフェリス。
それを見て、ウーヴェは表情を一変させ柔らかな笑顔を向ける。
「その逆だよ。この花は侯爵のご弟様を救えるかもしれない花なのだよ」
「……へ?」
ウーヴェの言葉の意味がわからず、間の抜けた返事をしてしまう。
フェリスが首を傾げて立ち尽くしていると、ルイスが近寄り力強く抱きしめる。
息が詰まるほどの熱い抱擁にフェリスは目を白黒させた。
「フェリス、あの花はオスカーの病を治すことができるかもしれない救いの花なんだ」
「救い、の花? あの花が病を治すんですか?」
腕の隙間から顔を出してルイスを見上げると、瞳には涙がうっすらと浮かんでいた。
「そうなんだ。手に入れることがとても難しい花だと聞かされたばかりだったんだが……まさか、こんな奇跡が起こるなんて思いもしなかった。フェリス、お願いだ。あの花を私に譲ってくれないか?」
「もちろんです! オスカー様の病気が治るのなら使って下さい!」
「ありがとう」と言って、ルイスはさらに強く抱きしめる。ルイスの喜びがフェリスにも伝わってきて、胸が熱くなる。
あの花がオスカーの病気を治してくれるかもしれないと思うと、目頭も熱くなり嬉し涙が溢れてきた。
喜びあっているとベルンの冷静な声が部屋に響く。
「まだオスカー様の病が治った訳ではありません。バウマン様、この花をどのように煎じればいいのですか?」
ウーヴェは資料に目を落とし、花の煎じ方について話しだす。
「えー……花びら一枚を細かくすりつぶし、水精霊から祝福の雫を分けてもらう。風精霊の祝福の風で混ぜ、最後に治癒精霊の祝福を加える」
読み上げたウーヴェは困ったと苦笑いを浮かべる。
「これは、作るのに時間が必要そうで……」
「「すぐにできます!」」
ルイスとフェリスが同時に声を上げると、すぐに精霊たちを呼ぶ。
「ハイル、キミの力を貸してほしいんだ。頼む」
「お願い、みんなの力を貸して」
ハイルやピーアたちは二人の呼びかけにもちろんだと返事をする。
精霊が見えないウーヴェたちは、誰もいない空間に話しかける二人に戸惑い不安を感じていた。
気まぐれな精霊たちがすんなり自分たちの願いを聞いてくれるのだろうかと。
ベルンがすり鉢を準備するとウーヴェが丁寧に救いの花の花弁をすりつぶしていく。
花をすりつぶしていくと黄金色の光がさらに強くなった。そこに、水精霊ピーアが祈りを込めて祝福の雫を与え、風精霊クラウスが祝福の風で混ぜていく。
最後に、ハイルが祝福を与えると黄金色に輝く薬が完成した。
目の前で起こる不思議な光景を呆然と見つめるウーヴェが出来上がった薬を匙ですくう。
まるでハチミツのようにトロリとした液体からは花の甘い香りがした。
「完成……したのでしょうか?」
フェリスが問いかけるとウーヴェは匙で薬を少量すくい口にすると、しばらく考え込みニコリと微笑む。
「口にいれた時にしびれは感じませんでした。これから丸一日様子を見て私の体に異変がなければ薬を投与してみましょう。そして、効果の方も」
「効果ということは、ウーヴェ殿は何か病に罹っていらっしゃるのですか?」
「私の病は心臓が不規則に動く病です。今は症状もなく落ち着いております」
心配しないでくれとウーヴェが笑いかける。
ウーヴェの言葉にルイスとフェリスは大きく頷き、オスカーの方に向きなおる。
「オスカー、明日になればお前の病気が治るかもしれない。だから頑張るんだぞ」
「オスカー様、絶対に元気になれますからね」
二人は眠るオスカーの手を握りしめ、薬が無事に投薬できることを祈った。
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