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2話:病の魔の手
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貧しい生活の中、老人は小さな少年を自分の孫のように可愛がった。
少年は、とても珍しい三毛猫のオス。
オレンジと黒の混じった髪と毛色、一番特徴的なのは瞳の色だった。
くるりとした大きな黒色の瞳の中に白と赤と金が入り混じる特殊な瞳。
その特殊さに周りのものからは「気味が悪い瞳だ」と言われることも多かった。
だが、老人だけは「お前の瞳は特別綺麗だ」と褒めてくれた。
老人の優しさに包まれ、少年はとても優しく真っ直ぐな子に育った。
人を思いやる心をもち、人の悲しみに寄り添い、人を笑顔にした。
その全てを老人が教えてくれた。
「人は皆、誰かに支えられて生きている。不幸を呪うのではなく、幸せになって欲しいと願いなさい。そうすれば、その幸せはきっと自分にもめぐってくるのだから。私もそうやって、お前に出会うことができたんだ。お前は私の『幸せ』そのものだ」
老人の言葉は少年の心を豊かにし、貧しくも二人は幸せに暮らしていた。
しかし、老人と少年の生活は長くは続かず、少年が八歳を迎えた冬。
老人は流行病にかかってしまう。
少年は必死になって老人を看病した。
だが、老人は日に日に弱っていき、獣化を保つことができなくなり猫の体に戻る。
腕の中におさまる小さな体を抱きしめ、少年は老人のぬくもりが消えぬよう何度も何度も願い続けた。
初雪が降った朝。
老人は最後に少年の胸に額を擦り付け真っ白な吐息を一つ吐き、幸せそうに目を細め永遠の眠りについたのだった。
少年はまた一人になってしまった。
悲しみと寂しさに耐え、一人うずくまっていると青と緑の光が少年に寄りそう。
そして、赤に黄と様々な光が少年を取り囲み、悲しみに寄り添った。
少年が伏せていた顔を上げる。目に飛び込んできた色鮮やかな光に思わず目を丸くする、
「うわっ、みんなどうしたの?」
少年の言葉に反応した光— —精霊たちは、大丈夫かと少年を心配していた。
少年には小さな小さな友がいた。
物心ついた時からそばに寄り添ってくれている、小さな光たち。
幼い頃、チラチラと自分の周りを飛び回る光について老人に尋ねた時「お前を守ってくれる守護精霊様かな」と教えてくれた。
精霊たちは、少年が大きくなるにつれてどんどん数が増えていき、賑やかに少年の周りを飛び回っていた。
精霊たちの中でも常に一緒にいてくれたのは、生まれた時からそばにいた青と緑の精霊だった。
小さな光は老人を失った少年の悲しい心を照らしあたためてくれる。
どんな時もいつも一緒だと。
そんな精霊たちの気持ちが伝わったのか、涙に濡れた顔に笑みが浮かぶ。
「みんな、いつもそばにいてくれてありがとう。大好きだよ」
そう呟くと、精霊たちは嬉しそうに飛び回り、自分たちも少年のことが大好きだと鼻先にキスをした。
悲しみにくれる暇もなく少年は自分が生きるために働きにでる。
体が小さく力も弱い少年は荷物持ちなどの力仕事にはつけず、できることはボロ布や使えそうな物を拾い集めお金に交換すること。
たまに、小さな体を生かして細い煙突の掃除を任されることもあった。
少年に渡される賃金はわずかで、なんとか食べていける程度だった。
貧しい生活が続くなか少年はふと考える。
ーーこの国がもっと豊かなら、僕はお腹を空かせることがなかったのかな?
精霊の祝福を失った大地は相変わらず痩せたままだ。
作物が育たないと嘆く町の人々の会話を少年は今まで何度も耳にしていた。
戦争が始まる前は、銅貨一枚でパンが三つも買え、今では高級品と呼ばれるリンゴも銅貨二枚で買えた時代があったという。
そして少年は願いごとを一つ口にした。
「どうか国が豊かになりますように。お腹いっぱいご飯が食べれますように」
ぽつりと呟いた小さな願い。
その願い事を小さな友が聞いていた。
精霊たちにとって、少年はとても愛おしい存在。
大好きな少年が望む願いを叶えてあげたい。
精霊たちは国中の仲間たちに声をかけて少年の願いを叶えた。
精霊たちがもたらす祝福は国を豊かにし、戦争で傷ついた国はみるみる豊かになっていった。
だが、国が豊かになっても最下層にいる少年が受け取れる恩恵は僅かなものだった。
ほんの少し仕事の依頼が多くなり、ほんの少し手間賃が増え、ほんの少しご飯の量が増えたこと。
少年は、そのほんの少しの幸せに大きな大きな笑みをこぼしたのだった。
それから三年が経ち、少年のいる国は周囲の国に比べとても豊かな国となった。
なぜこの国だけが精霊の祝福を受け豊かになったのか分かるものは誰もいなかった。
『精霊たちの気まぐれだ』
『実は、この国の王が精霊と秘密の契約を交わした』
様々な噂が流れては消えていく。
この国を豊かにし、皆を幸せにした少年は変わらずスラムの街で一生懸命に生きていた。
しかし、その年の冬。
国中に熱病が流行った。
かかった者は数日間高熱で寝込んでしまう病だったが、しっかりと休息をとり栄養のあるものを食べれば命に関わる病ではなかった。
だが、それは普通の暮らしができる者にとっての話だ。
少年の暮らすスラム街では病というものはとても恐ろしいものだ。
元々、十分な食事もとれず生きていくだけで精一杯の生活をしている者に熱病が容赦なく襲いかかり、一人また一人と病に倒れていく。
そしてついに、病の魔の手が少年にも襲いかかったのだった。
少年は、とても珍しい三毛猫のオス。
オレンジと黒の混じった髪と毛色、一番特徴的なのは瞳の色だった。
くるりとした大きな黒色の瞳の中に白と赤と金が入り混じる特殊な瞳。
その特殊さに周りのものからは「気味が悪い瞳だ」と言われることも多かった。
だが、老人だけは「お前の瞳は特別綺麗だ」と褒めてくれた。
老人の優しさに包まれ、少年はとても優しく真っ直ぐな子に育った。
人を思いやる心をもち、人の悲しみに寄り添い、人を笑顔にした。
その全てを老人が教えてくれた。
「人は皆、誰かに支えられて生きている。不幸を呪うのではなく、幸せになって欲しいと願いなさい。そうすれば、その幸せはきっと自分にもめぐってくるのだから。私もそうやって、お前に出会うことができたんだ。お前は私の『幸せ』そのものだ」
老人の言葉は少年の心を豊かにし、貧しくも二人は幸せに暮らしていた。
しかし、老人と少年の生活は長くは続かず、少年が八歳を迎えた冬。
老人は流行病にかかってしまう。
少年は必死になって老人を看病した。
だが、老人は日に日に弱っていき、獣化を保つことができなくなり猫の体に戻る。
腕の中におさまる小さな体を抱きしめ、少年は老人のぬくもりが消えぬよう何度も何度も願い続けた。
初雪が降った朝。
老人は最後に少年の胸に額を擦り付け真っ白な吐息を一つ吐き、幸せそうに目を細め永遠の眠りについたのだった。
少年はまた一人になってしまった。
悲しみと寂しさに耐え、一人うずくまっていると青と緑の光が少年に寄りそう。
そして、赤に黄と様々な光が少年を取り囲み、悲しみに寄り添った。
少年が伏せていた顔を上げる。目に飛び込んできた色鮮やかな光に思わず目を丸くする、
「うわっ、みんなどうしたの?」
少年の言葉に反応した光— —精霊たちは、大丈夫かと少年を心配していた。
少年には小さな小さな友がいた。
物心ついた時からそばに寄り添ってくれている、小さな光たち。
幼い頃、チラチラと自分の周りを飛び回る光について老人に尋ねた時「お前を守ってくれる守護精霊様かな」と教えてくれた。
精霊たちは、少年が大きくなるにつれてどんどん数が増えていき、賑やかに少年の周りを飛び回っていた。
精霊たちの中でも常に一緒にいてくれたのは、生まれた時からそばにいた青と緑の精霊だった。
小さな光は老人を失った少年の悲しい心を照らしあたためてくれる。
どんな時もいつも一緒だと。
そんな精霊たちの気持ちが伝わったのか、涙に濡れた顔に笑みが浮かぶ。
「みんな、いつもそばにいてくれてありがとう。大好きだよ」
そう呟くと、精霊たちは嬉しそうに飛び回り、自分たちも少年のことが大好きだと鼻先にキスをした。
悲しみにくれる暇もなく少年は自分が生きるために働きにでる。
体が小さく力も弱い少年は荷物持ちなどの力仕事にはつけず、できることはボロ布や使えそうな物を拾い集めお金に交換すること。
たまに、小さな体を生かして細い煙突の掃除を任されることもあった。
少年に渡される賃金はわずかで、なんとか食べていける程度だった。
貧しい生活が続くなか少年はふと考える。
ーーこの国がもっと豊かなら、僕はお腹を空かせることがなかったのかな?
精霊の祝福を失った大地は相変わらず痩せたままだ。
作物が育たないと嘆く町の人々の会話を少年は今まで何度も耳にしていた。
戦争が始まる前は、銅貨一枚でパンが三つも買え、今では高級品と呼ばれるリンゴも銅貨二枚で買えた時代があったという。
そして少年は願いごとを一つ口にした。
「どうか国が豊かになりますように。お腹いっぱいご飯が食べれますように」
ぽつりと呟いた小さな願い。
その願い事を小さな友が聞いていた。
精霊たちにとって、少年はとても愛おしい存在。
大好きな少年が望む願いを叶えてあげたい。
精霊たちは国中の仲間たちに声をかけて少年の願いを叶えた。
精霊たちがもたらす祝福は国を豊かにし、戦争で傷ついた国はみるみる豊かになっていった。
だが、国が豊かになっても最下層にいる少年が受け取れる恩恵は僅かなものだった。
ほんの少し仕事の依頼が多くなり、ほんの少し手間賃が増え、ほんの少しご飯の量が増えたこと。
少年は、そのほんの少しの幸せに大きな大きな笑みをこぼしたのだった。
それから三年が経ち、少年のいる国は周囲の国に比べとても豊かな国となった。
なぜこの国だけが精霊の祝福を受け豊かになったのか分かるものは誰もいなかった。
『精霊たちの気まぐれだ』
『実は、この国の王が精霊と秘密の契約を交わした』
様々な噂が流れては消えていく。
この国を豊かにし、皆を幸せにした少年は変わらずスラムの街で一生懸命に生きていた。
しかし、その年の冬。
国中に熱病が流行った。
かかった者は数日間高熱で寝込んでしまう病だったが、しっかりと休息をとり栄養のあるものを食べれば命に関わる病ではなかった。
だが、それは普通の暮らしができる者にとっての話だ。
少年の暮らすスラム街では病というものはとても恐ろしいものだ。
元々、十分な食事もとれず生きていくだけで精一杯の生活をしている者に熱病が容赦なく襲いかかり、一人また一人と病に倒れていく。
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