【完結】大好きな先輩に恋人ができたと知った夜、俺は大嫌いな先輩の親友に何故か抱かれていました。

赤牙

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《番外編》お花見デート

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春風で舞い散る桜の花びら。
一際大きな風が舞うと、人々の感嘆の声とともに空一面が桜の花びらで埋め尽くされる。

「うわぁ……めちゃくちゃ綺麗」

お花見をしたことはあるが、こんな光景を見るのは初めてで思わず口を半開きにしたまま見惚れてしまう。


苳也先輩が、近くに桜の名所で有名な公園があると誘ってくれ二人でお花見デートを計画。
今日の日を楽しみにしていた俺と先輩は、インナーの服の色をお揃いにしてみたりと、いつもより舞い上がっていた。
晴天に恵まれ、公園はお花見客で溢れている。
桜のアーチと言われている公園内の通路も人だらけだ。
桜を見上げながら歩いていると、隣にいた苳也先輩が声をかけてくる。

「千景、よそ見ばっかしてるとはぐれるぞ」
「ハハ、そんな子どもじゃないんですから、大丈夫ですよ」

な~んて偉そうなことを言ったそばから、正面からやってきた大学生の集団にのまれて苳也先輩とはぐれてしまう。
先輩を見失ってしまい、慌ててスマホを取り出して先輩に電話をかける。
呼び出しコールが五回鳴った時、コツンと頭を叩かれて見上げると苳也先輩がいた。

「だからはぐれるって言っただろ」
「……すいません」
「ちっさな千景を探すの大変なんだぞ」
「なっ! 俺は平均身長よりちょっと小さいだけで、そんなにチビじゃないですよ!」

ムイッと口を尖らせ、訳のわからない言い訳をすると苳也先輩は意地悪に笑う。

「分かった分かった。平均身長よりちょっと小さな千景くんと離れないように俺も気をつけるよ」

そう言って、苳也先輩は俺の手を握る。
大胆に人前で手を繋ぐ先輩に、俺は驚きと恥ずかしさで顔を赤くする。

「手、つなぐんですか?」
「繋いでたら離れないし、こっちの方が千景も嬉しいだろ」

ニッと無垢な笑顔を見せる先輩に、思わず胸が高鳴る。
苳也先輩は、たまにこんな大胆なことをしてくるから油断ができない。

「俺はそんなにですけど、先輩が嬉しいって言うなら……まぁ、仕方ないから手を繋いであげます」

顔を赤くしたままツンとした返事を返すと、そんな俺を見て先輩はおかしそうに笑い、ぎゅっと手を握りしめてくれる。

桜満開のアーチを先輩と手を繋ぎ通り抜けると、広い芝生スペースが広がる。
芝生スペースには、折りたたみ式の小型テントやシートを敷いてお弁当を広げる家族連れやカップルなどで賑わう。
芝生スペースを抜けた先には、池を囲んだランニングコースがありランナーが額に汗を煌めかせながら走っている。
その隣には、木々が生い茂る遊歩道があり、桜のアーチは人でごった返していたが、遊歩道は散歩する人がちらほらいる程度でとても静かだった。
俺と先輩は手を繋いだまま、遊歩道をのんびりと散歩していく。
木陰になった遊歩道を歩いているとポツンと一本の桜の木が見える。
そして、桜の木の幹には薄茶色の猫様がぬくぬくと日向ぼっこしていた。

「先輩、先輩! 猫がいますよ!」
「あ、ほんとだな」

先輩の手を引いてまっしぐらに猫様のもとへ駆け寄る。
猫様は人が近づいてもリラックスした様子で目を閉じ体を丸めていた。

「う~めちゃくちゃ可愛いぃ」

猫様をじっと眺めていると、桜の花びらがヒラヒラと舞い降りてきて、猫の鼻先にちょんとのる。
あまりの可愛さに、慌ててスマホを取り出してカメラを向ける。

ーーそのまま、じっとしてて……

ピントを合わせ、シャッターを切ろうとした瞬間、猫様はクシュンとくしゃみをして写真はぶれぶれに。
俺がショックな顔をしていると、猫様は薄らと目を開けてスンとすまし顔であくびをする。

「写真、ぶれちゃいました」
「ハハ、残念だったな」

苳也先輩は俺のスマホを覗き込み、くしゃみをする瞬間のちょっぴり不細工な猫様を見てケラケラと笑う。
猫様の可愛い写真が撮れないかシャッターチャンスを狙っていると、猫様はんーと背伸びをして苳也先輩の足元に擦り寄ってくる。

「けっこう人慣れしてんな~」

苳也先輩はしゃがみ込み猫様を優しく撫でる。
猫様は、ゴロゴロと喉を鳴らして気持ちよさそう。
そして、苳也先輩も嬉しそうに目を細め微笑む。

ーー二度目のシャッターチャンス!

先輩と猫様をフレームに収めシャッターを切れば、苳也先輩と猫様という俺得の一枚が撮影できた。
優しく猫様に微笑みかける先輩の写真を見て嬉しくてニコニコしていると、先輩が俺に声をかけてくる。

「今度はうまく撮れたか?」
「はい、いい写真がバッチリ撮れました」

そう言って写真を見せると、嬉しそうに苳也先輩が笑う。

「俺じゃなくて猫にピントあてろよ」
「え? ……あ、ほんとだ猫さんピンボケしてる」
「食い入るように見てたから猫が可愛く撮れたのかと思ったけど、素敵な俺が撮れて嬉しかったんだな~千景くん」

苳也先輩はそう言うと意地悪く微笑み、俺の頭をポンと撫でてくる。
俺は顔を真っ赤にしてゴニョゴニョと言い訳をしながら恥ずかしさを紛らわすように猫様を撫でまくる。
猫様は「ドンマイ」と、俺を慰めるように目を細めてニャ~ンと鳴いた。


お花見を終え、家に帰りつくとソファーでコーヒーを飲みながら二人で今日撮った写真を見返していく。
思い出をこうやって振り返るのはすっごく楽しくて、ニコニコしてると苳也先輩の視線が俺の頭に向き手が伸びる。
何かあったのか首を傾げると、先輩の指先には一枚の桜の花びらが。

「ずっと花びらくっつけてたんだな」
「えぇ!? うわ、恥ずかしい……」
「千景は癖っ毛だからなんでも引っかかるよな」
「う~、癖っ毛なの悩んでるんすよ。よく、ホコリとかもついちゃうし……」

そう言うと、苳也先輩はクスッと笑う。

「でも、それも含めてちぃは可愛いけどな」

不意に可愛いと言われポンッと頬を赤くすると、先輩の手が顎下に触れる。

「ハハ、可愛いぞ、ちぃ~」

顎下をくすぐられ、猫のように撫でられるのでムゥと膨れっ面をしてみせると、先輩はおかしそうに笑い「ごめん、ごめん」と軽く謝ってくる。
先輩とじゃれるように話をしていると、つけていたテレビから明日の天気予報が聞こえてくる。

「明日から雨だってさ」
「じゃあ、桜も散っちゃうんですね。また、お花見したかったのになぁ」
「残念だな。でも、また来年も一緒に見ればいいだろ?」
「来年も……」

苳也先輩と来年も一緒にお花見をしている姿を想像しているとクスリと笑われる。

「嬉しいのか千景? 顔がにやけてるぞ」
「まぁ、ほんのちょっぴり嬉しいですかね」
「えぇ~ちょっとだけ、なのか?」

わざとらしくしょげた顔をして見せる先輩。
俺がその顔に弱いってことを分かっててやる辺りが小憎い。

「うぅ……とっても嬉しいです」
「へへ、俺も」

今度は、ニパッと無邪気な笑顔を見せる先輩に胸を鷲掴みにされる。

ーーこの人は絶対に小悪魔だ。

でも、そんなところも含めて可愛いと思ってしまうあたり、俺は苳也先輩のことが本当に大好きなんだと自覚させられた。




ーーーーーーーーーー
いただいた苳也先輩と千景くんのイラストから書かせていただいた番外編でした~!
お花見と猫様のお話を楽しく書かせていただきありがとうございました☆
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感想 13

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みんなの感想(13件)

まりも
2021.12.26 まりも

更新ずっと待っていました😭
やっと2人の関係性が動きだすのかな
と思うと…💕甘々な2人が見れる事を
楽しみにしています!

赤牙
2021.12.27 赤牙

まりもさん感想ありがとうございます☆

更新遅くなり申し訳ありません(ノД`)
そして読んでいただきありがとうございます☆
酔っ払い千景くんは果たして目を覚ました時に、本当の自分の気持ちを覚えているのか……?
更新頑張ります〜!

解除
雪見だいふく

続編スタート嬉しいです!ゲロ甘初夜まで、2人を見守ります(^-^)

赤牙
2021.10.08 赤牙

雪見だいふくさん感想ありがとうございます!

二人のゲロ甘初夜まで更新頑張っていきたいと思います〜!!

解除
rinchan
2021.09.28 rinchan

ここからが、新たなストーリーのスタートなんですね。
2人が幸せな姿が読めるの楽しみにしてます。
更新されるのをワクワクしながら待ってますね。

赤牙
2021.09.28 赤牙

rinchanさん感想ありがとうございます!

二人の新たなストーリーがスタートしました(^^)
ちょっぴりもじもじしながら二人の恋物語を書いていきたいと思います☆
楽しんでもらえるように更新頑張ります(*^ω^*)

解除

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