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ゆく年くる年……。 ②

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小さなTVと小さなソファー。
足元は冷えるからと二人で半分こにしている膝掛け。

俺は相変わらず少し緊張しながら苳也先輩の隣に座っている。少し眠そうに欠伸をしながら、年末の特番を見ている苳也先輩はトン……と俺の肩に先輩が頭を置く。いつものことなのに……苳也先輩のシャンプーの匂いとか体温とか意識しだすと心臓がバクバクと脈打つ。

でも……ドキドキするのに居心地のいい先輩の隣……。
包み込まれるような雰囲気に瞼が重くなる。うとうとしていると、自然と苳也先輩の頭に擦り寄せるような形になる。

「あ……千景~年が明けるぞ~」

時計の秒針は12の文字を過ぎていき、TVでは新年を祝う言葉が飛び交い騒々しくなる。

「千景、あけましておめでとう」
「おめでとうございます……」

苳也先輩は体を起こすと微笑みながら俺に新年の挨拶をしてくれる。気恥ずかしい気持ちを隠しながら先輩に挨拶すれば、ニカッと笑顔を向けてくれる。

「よし! 初詣行くか?」
「えっ……?」
「ん? そんな気分じゃなかったか?」
「いや……その……外は寒いじゃないですが。それに、今日は朝にかけて天気も崩れるって天気予報で言ってたから……」
「あ~確かになぁ~。初詣の途中で雨降ってきたら新年早々最悪だな」

苳也先輩は窓を開けると外の様子を伺う。
外から入ってくる風が俺の火照った頬を冷やす。

苳也先輩から初詣に行こうと誘われた時、初詣なんかよりもこのまま一緒に過ごしたいなんて一瞬でも考えが過ったなんて口が裂けても言えない……。

その後もソファーに座り、二人でダラダラとTVを見ていると苳也先輩の手が俺の手に重なる。

「なぁ……千景。手……握ってもいいか?」
「はへっ? 手……ですか?」
「うん」

突然そんな事を言うもんだから思わず上擦った声がでてしまう。苳也先輩の方を見れば、少し恥ずかしそうな顔をしていた。

「……いいですよ」
「へへ。ありがと」

俺の返事に先輩は顔を綻ばせ、指を絡ませ恋人繋ぎをしてくる。嬉しそうに笑う先輩につられて俺も口元が緩む。

「本当はさ~初詣の人混みを口実に千景と手を繋ぎたいな~って思ってたんだ」
「そ、そんな理由で初詣なんかに行ったら神様に怒られますよ……」
「そうか? 新年のお願い事が『千景と手を繋げますように~』なんて願い事だったら、神様も楽じゃね?」
「貴重な新年の願い事がそんなのでいいんですか?」
「え? また願い事すればいいじゃん」
「基本は一つなんですよ」
「マジかよ。今まで一度に何十個も願い事してたからな……。だから願い事が叶わなかったのか……」

真面目な顔して納得している苳也先輩がおかしくて笑うと、先輩はムッとした表情を見せる。

「千景~俺にとっては大問題なんだぞ」
「ハハ。すみません。先輩が真面目な顔して悩んでるのがおかしくて。何をそんなにお願いする事があんのかな~って」
「ふ~ん。俺のお願い事……知りたいか?」

苳也先輩はニヤッと意地悪な表情を見せる。
なんだか嫌な予感がするので「言わなくていいです」と、言う前に熱を帯びた視線で見つめられ苳也先輩は口を開く。

「去年の願い事はな、千景と友達以上に仲良くなれますように……。千景と楽しい思い出が作れますように……。千景と二人きりでクリスマスが過ごせますように……。そして……千景とキスできますように……」

囁くように色っぽい低い声でそんな事を言われれば俺はどうしたらいいのか分からず顔を赤くしたままフリーズしてしまう。
そんな俺を見て苳也先輩はイタズラが成功したようにニヒッと笑う。

「今思えば結構叶ってるな俺の願い事。まぁ、千景が俺の傍にいてくれるおかげで叶ってるんだけどな……」

次から次へと吐き出される甘いセリフに対応出来ず、真っ赤な顔をしたまま口をパクパクしていると苳也先輩が優しく俺の頬を撫でる。

「千景……今年もよろしくな……」

こうして俺の一年は苳也先輩の甘っったるい言葉達に包まれて幕をあけた。

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