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何かが始まるクリスマスの夜 ①

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憂鬱なクリスマスの朝……。
今日もバイトを入れた事を後悔しながら、休もうかなんて思ったりもしたけれど今日はバイトの人数ギリだから休む勇気もなくバイトの時間が少しずつ迫ってくる。

バイトに行きたくない原因は昨日、苳也先輩をオカズに抜いてしまった事……。
なんであの時、苳也先輩の事なんて考えてしまったのか……俺のバカバカバカ!

そんな事を考えていたらバイトに行く時間になり、俺はドボドボと重い足取りでバイト先へと向かう。
今日は苳也先輩は俺よりも一時間遅く入るが……お互いにラストまでなので帰りはきっと同じだ。

苳也先輩の顔見て俺いつも通りにできるかな……。

ハァァァァ……と、激重なため息を吐きながら着替えをすませると店長が俺を見つけて手招きしてくる。

「お、千景~。すまんが頼みたい事が……」
「なんですか?」
「今日、厨房の子が来れなくなってさぁ~厨房のヘルプ入ってくんない?」
「はい! ヘルプ行きます! 行かせて下さい!」

店長の言葉に俺は食い気味に返事をする。
厨房にいれば苳也先輩と顔を合わせる回数も減る。
とりあえず今日を乗り切ればバイトは三日休みだから俺の心の整理も着くはず……。
そうしたら、またいつもと変わらない日常が始まるんだ。

店長に言われた通り厨房へと向えば、直史先輩もいて俺の沈んでいたテンションも少し上がる。

「直史先輩。今日は厨房のヘルプなのでよろしくお願いします」
「チカ~いつもありがとうな。じゃあ、準備始めようか」
「はい!」

それから苳也先輩の事を忘れるようにバカみたいに仕事して……時折、苳也先輩がオーダーを通しに来るけど俺は避けるように厨房の奥の方へ引っ込んでいた。
そして、無事に今日のバイトも終了する……。
後片付けしながら着替えをしにロッカーへ向かうと苳也先輩もいたので「お疲れ様です~」と、普段と変わりない素振りで挨拶をして帰ろうとした時……苳也先輩に腕を掴まれる。

「なぁ千景……。この後、時間あるか? お前に話したい事があるんだ」
「へっ……? あ、あの……」

苳也先輩のなんだか切羽詰まった表情に断ることなんてできなくて……コクコクと頷く。
腕を掴まれたまま俺は連れ去られるように苳也先輩のマンションへと向かう。

苳也先輩の話したい事ってなんだ……?
怒られるような事はしていないし……。
もしかして……この前の事でまた何か言われるのかな?

色々と想像しながら苳也先輩が住む部屋へと到着すると、ようやく腕が解かれる。

「中……入って」
「はい……」

苳也先輩の1Rの部屋は、直史先輩と違い物が少なくて生活感が少ない。あるのはベッドと二人掛けの小さなソファーとテーブルだけだ。

「ジャケット……かけるか?」
「えっと……はい……」

苳也先輩にジャケットを渡し、促されソファーへと座る。なんだかただならぬ雰囲気に、俺の心臓の鼓動は早くなるばかりだ……。

「千景、なんか飲むか」
「大丈夫です……」
「そっか……」

うぅぅ……空気が重い……。重すぎる……。

なんだか居心地が悪くてソファーの端にちょこんと座っていると、俺の隣に苳也先輩が座る。
小さなソファーは俺と苳也先輩が座ればいっぱいいっぱいで……普段なら肘と肘が触れ合っても気にはならないのに、今日は苳也先輩の体が触れると心臓が煩くなる……。

「なぁ、千景」
「ひゃい……」
「………おい。こっち向けよ千景」

返事だけして俯く俺に流石にイラッとしたのか、いつもの感じの苳也先輩の声色に代わりにおずおずと顔をそちらに向ける。

先輩はやっぱり真剣な顔をしていて……目を合わせた事を後悔するくらいにイケメン面をしていた。

「な、なんですか苳也先輩、話したい事って……。俺何かやらかしちゃいました? 怒ってんなら謝ります……ごめんなさい」

ドキドキした気持ちを誤魔化すように早口で謝り頭を下げればクスッと笑われる。

「怒ってなんかねーよ。今日は伝えたい事があってさ……」
「伝えたい事……ですか?」

苳也先輩の柔らかい声に下げていた頭を上げると、軽く微笑まれ苳也先輩が口を開く。

「俺……千景の事が好きなんだ」
「へ……?」


聖なるクリスマスの夜。
俺は大嫌いな先輩から告白された……。




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