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【番外編】〜嫌われ者の兄はやり直しの義弟達の愛玩人形になる〜
助けてくれたのは 〜シャルルside〜
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夕食時になり、従者たちが声をかけてくるが俺は無視をしたままベッドの中でうずくまっていた。
時間が経ち、恐怖に麻痺した頭の中でジェイドの言葉を思い出す。
父とフロルさんを殺す……ジェイドとリエンを捨てる……ウォールマン家を潰す……
あの時のジェイドの表情は嘘を言っているようには見えなかった。
本当にその人生を歩んできたような真実味を感じてしまう。
「そんな訳……ないだろ。もう一度人生をやり直すなんて……」
くるまっていた毛布をぎゅっと握りしめ、また体を小さく丸める。
目を閉じると二人の真っ直ぐな瞳が俺を責め立てる。
『自分たちを不幸にしたのは兄さんのせいだ』
ーー違う……俺は皆を不幸になんかさせない……。絶対にさせない……
暗闇に包まれた部屋の中で何度も何度も自分に言い聞かせ、そのたびに瞳からは涙が溢れてくる。
何をどうすればいいのかわからない、誰か助けてほしい……
そう願っていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
従者かと思い返事をせずに無視していると、違う声が俺の名を呼ぶ。
「シャルル、大丈夫か? 少し話ができないか?」
部屋に訪れてきたのは、父だった。
ベッドから抜け出し、重い足取りでドアの鍵を外すと父が心配そうな顔で俺を見下ろす。
「部屋に入ってもいいか?」
「……はい」
父を部屋へと招き入れる。
父がランプに火を灯し、暗闇の部屋がぼんやりと明るくなった。
二人でソファーに腰掛けると、話しかけられる。
「怖い思いをさせてしまったな。フロルは今のところ落ち着いている」
「……よかった、です」
父に責め立てられるかと思ったけれど、そんなことはなく俺のことを心配してくれる。
膝の上で握りしめていた手を、父の大きな手が包み込んでくへ、父の優しい声に恐怖ばかりだった心に温かさが流れ込む。
このまま、今日のジェイドとリエンとの出来事について父に話を聞いてもらおうか……そう思っていると、父が話しかけてくる。
「主治医に相談をして、一度フロルを専門の医師に見せた方がいいだろうと言われたんだ。フロルとも話をして、できれば早い方が皆に心配をかけないだろうと思っている。今日か明日にでも、王都へ出発しようかと思っているんだが……」
王都……
『医者に見せるために父上と母上は王都に向かい、その道中に二人は野盗に殺されました』
ジェイドの言葉が頭の中で再生され、恐怖で体が震え思わず大声で叫んでしまう。
「父様っ! 王都には行ってはいけません!」
「ど、どうしたんだシャルル? そんな怖い顔をして……」
父が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
咄嗟に父たちが王都に行くことを止めたが、頭の中は激しく混乱していた。
どうしよう、なんて説明すれば……
「えっと……その……学園で噂話を聞いたんです。最近、王都に向かう馬車を野盗が襲う事件が多発している、って……。だから、心配で……」
「そう、なのか……」
父は少し考え、不安でいっぱいの俺の頭を撫でてくれる。
「じゃあ、安全を確認してから行くことにするよ。フロルも今のところ落ち着いているからな。野盗の件は再度確認しておく。シャルル、忠告してくれてありがとう」
父はそう言って感謝の言葉をくれた。
俺は素直に喜べず、不安だけがどんどん大きくなっていく。
俺はどうしたらいい?
何をしても皆を不幸にするのか?
本当に父とフロルさんを死に追いやり、ジェイドたちを捨てて、ウォールマン家を潰してしまうのか?
ジェイドの言った言葉が何度も何度も呪いのように頭の中で繰り返される。
ーーいやだ……いやだ、いやだ。皆を殺したくなんかない。嫌だ……絶対にいやだ……
ジェイドの言葉を否定し続け、眠れない夜が明ける。
冷え切った部屋の中、膝を抱えずっと考え込みながら窓の外を見つめ雪が降らないことを祈る。
窓から見えていた青空が徐々に雨雲へと変わる。
ダメだ、やめてくれと願っても俺の願いは叶わず空一面に広がった雨雲は色を濃くし……夕方から雪がチラつき始めた。
「ハハ……ジェイドの……言った通りだ」
ふり始めた雪を見て、ジェイドとリエンの言葉が本当なのかもしれないという気持ちがどんどん膨らんでいく。
冷えた窓ガラスに触れ、指先の熱が奪われる。
「俺が自分勝手に行動すると、皆を不幸にする、か……」
雪は少しずつ激しくなり、しばらく経つと庭一面をうっすらと雪が包み込んでいた。
呆然と雪を見つめ、小さくため息を吐く。
もう、心も体も疲れてしまった。
自分一人では、ジェイドの言っていた不幸な未来は変えられない。
「…………助けて」
溢れた声が静かな部屋に響く。
何も考えられなくなった俺は、窓に背を向け……部屋の扉の方へと歩き出した。
ジェイドたちに対する恐怖よりも、これから待ち受ける未来の方が怖かった。
すがるようにジェイドの元へと向かい、ジェイドを見た瞬間、不安でいっぱいだった心がはち切れて涙が溢れた。
兄としてのプライドもなく、何度も助けを求めてジェイドの名を呼んだ。
そして、情けなく涙する俺の不安を、ジェイドは受け止めてくれる。
ジェイドは優しく俺の手を握り微笑みをくれる。
「私とリエンのそばにいてくれればいいんですよ」
その言葉に心が救われた。
ジェイドとリエンのそばにいればいい。
二人だけを見つめ、二人だけを信じればいい。
そうすれば、誰も不幸にならない。
そして……二人は俺のそばにいてくれると言ってくれた。
ずっと……永遠に……
時間が経ち、恐怖に麻痺した頭の中でジェイドの言葉を思い出す。
父とフロルさんを殺す……ジェイドとリエンを捨てる……ウォールマン家を潰す……
あの時のジェイドの表情は嘘を言っているようには見えなかった。
本当にその人生を歩んできたような真実味を感じてしまう。
「そんな訳……ないだろ。もう一度人生をやり直すなんて……」
くるまっていた毛布をぎゅっと握りしめ、また体を小さく丸める。
目を閉じると二人の真っ直ぐな瞳が俺を責め立てる。
『自分たちを不幸にしたのは兄さんのせいだ』
ーー違う……俺は皆を不幸になんかさせない……。絶対にさせない……
暗闇に包まれた部屋の中で何度も何度も自分に言い聞かせ、そのたびに瞳からは涙が溢れてくる。
何をどうすればいいのかわからない、誰か助けてほしい……
そう願っていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
従者かと思い返事をせずに無視していると、違う声が俺の名を呼ぶ。
「シャルル、大丈夫か? 少し話ができないか?」
部屋に訪れてきたのは、父だった。
ベッドから抜け出し、重い足取りでドアの鍵を外すと父が心配そうな顔で俺を見下ろす。
「部屋に入ってもいいか?」
「……はい」
父を部屋へと招き入れる。
父がランプに火を灯し、暗闇の部屋がぼんやりと明るくなった。
二人でソファーに腰掛けると、話しかけられる。
「怖い思いをさせてしまったな。フロルは今のところ落ち着いている」
「……よかった、です」
父に責め立てられるかと思ったけれど、そんなことはなく俺のことを心配してくれる。
膝の上で握りしめていた手を、父の大きな手が包み込んでくへ、父の優しい声に恐怖ばかりだった心に温かさが流れ込む。
このまま、今日のジェイドとリエンとの出来事について父に話を聞いてもらおうか……そう思っていると、父が話しかけてくる。
「主治医に相談をして、一度フロルを専門の医師に見せた方がいいだろうと言われたんだ。フロルとも話をして、できれば早い方が皆に心配をかけないだろうと思っている。今日か明日にでも、王都へ出発しようかと思っているんだが……」
王都……
『医者に見せるために父上と母上は王都に向かい、その道中に二人は野盗に殺されました』
ジェイドの言葉が頭の中で再生され、恐怖で体が震え思わず大声で叫んでしまう。
「父様っ! 王都には行ってはいけません!」
「ど、どうしたんだシャルル? そんな怖い顔をして……」
父が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
咄嗟に父たちが王都に行くことを止めたが、頭の中は激しく混乱していた。
どうしよう、なんて説明すれば……
「えっと……その……学園で噂話を聞いたんです。最近、王都に向かう馬車を野盗が襲う事件が多発している、って……。だから、心配で……」
「そう、なのか……」
父は少し考え、不安でいっぱいの俺の頭を撫でてくれる。
「じゃあ、安全を確認してから行くことにするよ。フロルも今のところ落ち着いているからな。野盗の件は再度確認しておく。シャルル、忠告してくれてありがとう」
父はそう言って感謝の言葉をくれた。
俺は素直に喜べず、不安だけがどんどん大きくなっていく。
俺はどうしたらいい?
何をしても皆を不幸にするのか?
本当に父とフロルさんを死に追いやり、ジェイドたちを捨てて、ウォールマン家を潰してしまうのか?
ジェイドの言った言葉が何度も何度も呪いのように頭の中で繰り返される。
ーーいやだ……いやだ、いやだ。皆を殺したくなんかない。嫌だ……絶対にいやだ……
ジェイドの言葉を否定し続け、眠れない夜が明ける。
冷え切った部屋の中、膝を抱えずっと考え込みながら窓の外を見つめ雪が降らないことを祈る。
窓から見えていた青空が徐々に雨雲へと変わる。
ダメだ、やめてくれと願っても俺の願いは叶わず空一面に広がった雨雲は色を濃くし……夕方から雪がチラつき始めた。
「ハハ……ジェイドの……言った通りだ」
ふり始めた雪を見て、ジェイドとリエンの言葉が本当なのかもしれないという気持ちがどんどん膨らんでいく。
冷えた窓ガラスに触れ、指先の熱が奪われる。
「俺が自分勝手に行動すると、皆を不幸にする、か……」
雪は少しずつ激しくなり、しばらく経つと庭一面をうっすらと雪が包み込んでいた。
呆然と雪を見つめ、小さくため息を吐く。
もう、心も体も疲れてしまった。
自分一人では、ジェイドの言っていた不幸な未来は変えられない。
「…………助けて」
溢れた声が静かな部屋に響く。
何も考えられなくなった俺は、窓に背を向け……部屋の扉の方へと歩き出した。
ジェイドたちに対する恐怖よりも、これから待ち受ける未来の方が怖かった。
すがるようにジェイドの元へと向かい、ジェイドを見た瞬間、不安でいっぱいだった心がはち切れて涙が溢れた。
兄としてのプライドもなく、何度も助けを求めてジェイドの名を呼んだ。
そして、情けなく涙する俺の不安を、ジェイドは受け止めてくれる。
ジェイドは優しく俺の手を握り微笑みをくれる。
「私とリエンのそばにいてくれればいいんですよ」
その言葉に心が救われた。
ジェイドとリエンのそばにいればいい。
二人だけを見つめ、二人だけを信じればいい。
そうすれば、誰も不幸にならない。
そして……二人は俺のそばにいてくれると言ってくれた。
ずっと……永遠に……
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