94 / 98
【番外編】〜嫌われ者の兄はやり直しの義弟達の愛玩人形になる〜
助けてくれたのは 〜シャルルside〜
しおりを挟む
夕食時になり、従者たちが声をかけてくるが俺は無視をしたままベッドの中でうずくまっていた。
時間が経ち、恐怖に麻痺した頭の中でジェイドの言葉を思い出す。
父とフロルさんを殺す……ジェイドとリエンを捨てる……ウォールマン家を潰す……
あの時のジェイドの表情は嘘を言っているようには見えなかった。
本当にその人生を歩んできたような真実味を感じてしまう。
「そんな訳……ないだろ。もう一度人生をやり直すなんて……」
くるまっていた毛布をぎゅっと握りしめ、また体を小さく丸める。
目を閉じると二人の真っ直ぐな瞳が俺を責め立てる。
『自分たちを不幸にしたのは兄さんのせいだ』
ーー違う……俺は皆を不幸になんかさせない……。絶対にさせない……
暗闇に包まれた部屋の中で何度も何度も自分に言い聞かせ、そのたびに瞳からは涙が溢れてくる。
何をどうすればいいのかわからない、誰か助けてほしい……
そう願っていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
従者かと思い返事をせずに無視していると、違う声が俺の名を呼ぶ。
「シャルル、大丈夫か? 少し話ができないか?」
部屋に訪れてきたのは、父だった。
ベッドから抜け出し、重い足取りでドアの鍵を外すと父が心配そうな顔で俺を見下ろす。
「部屋に入ってもいいか?」
「……はい」
父を部屋へと招き入れる。
父がランプに火を灯し、暗闇の部屋がぼんやりと明るくなった。
二人でソファーに腰掛けると、話しかけられる。
「怖い思いをさせてしまったな。フロルは今のところ落ち着いている」
「……よかった、です」
父に責め立てられるかと思ったけれど、そんなことはなく俺のことを心配してくれる。
膝の上で握りしめていた手を、父の大きな手が包み込んでくへ、父の優しい声に恐怖ばかりだった心に温かさが流れ込む。
このまま、今日のジェイドとリエンとの出来事について父に話を聞いてもらおうか……そう思っていると、父が話しかけてくる。
「主治医に相談をして、一度フロルを専門の医師に見せた方がいいだろうと言われたんだ。フロルとも話をして、できれば早い方が皆に心配をかけないだろうと思っている。今日か明日にでも、王都へ出発しようかと思っているんだが……」
王都……
『医者に見せるために父上と母上は王都に向かい、その道中に二人は野盗に殺されました』
ジェイドの言葉が頭の中で再生され、恐怖で体が震え思わず大声で叫んでしまう。
「父様っ! 王都には行ってはいけません!」
「ど、どうしたんだシャルル? そんな怖い顔をして……」
父が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
咄嗟に父たちが王都に行くことを止めたが、頭の中は激しく混乱していた。
どうしよう、なんて説明すれば……
「えっと……その……学園で噂話を聞いたんです。最近、王都に向かう馬車を野盗が襲う事件が多発している、って……。だから、心配で……」
「そう、なのか……」
父は少し考え、不安でいっぱいの俺の頭を撫でてくれる。
「じゃあ、安全を確認してから行くことにするよ。フロルも今のところ落ち着いているからな。野盗の件は再度確認しておく。シャルル、忠告してくれてありがとう」
父はそう言って感謝の言葉をくれた。
俺は素直に喜べず、不安だけがどんどん大きくなっていく。
俺はどうしたらいい?
何をしても皆を不幸にするのか?
本当に父とフロルさんを死に追いやり、ジェイドたちを捨てて、ウォールマン家を潰してしまうのか?
ジェイドの言った言葉が何度も何度も呪いのように頭の中で繰り返される。
ーーいやだ……いやだ、いやだ。皆を殺したくなんかない。嫌だ……絶対にいやだ……
ジェイドの言葉を否定し続け、眠れない夜が明ける。
冷え切った部屋の中、膝を抱えずっと考え込みながら窓の外を見つめ雪が降らないことを祈る。
窓から見えていた青空が徐々に雨雲へと変わる。
ダメだ、やめてくれと願っても俺の願いは叶わず空一面に広がった雨雲は色を濃くし……夕方から雪がチラつき始めた。
「ハハ……ジェイドの……言った通りだ」
ふり始めた雪を見て、ジェイドとリエンの言葉が本当なのかもしれないという気持ちがどんどん膨らんでいく。
冷えた窓ガラスに触れ、指先の熱が奪われる。
「俺が自分勝手に行動すると、皆を不幸にする、か……」
雪は少しずつ激しくなり、しばらく経つと庭一面をうっすらと雪が包み込んでいた。
呆然と雪を見つめ、小さくため息を吐く。
もう、心も体も疲れてしまった。
自分一人では、ジェイドの言っていた不幸な未来は変えられない。
「…………助けて」
溢れた声が静かな部屋に響く。
何も考えられなくなった俺は、窓に背を向け……部屋の扉の方へと歩き出した。
ジェイドたちに対する恐怖よりも、これから待ち受ける未来の方が怖かった。
すがるようにジェイドの元へと向かい、ジェイドを見た瞬間、不安でいっぱいだった心がはち切れて涙が溢れた。
兄としてのプライドもなく、何度も助けを求めてジェイドの名を呼んだ。
そして、情けなく涙する俺の不安を、ジェイドは受け止めてくれる。
ジェイドは優しく俺の手を握り微笑みをくれる。
「私とリエンのそばにいてくれればいいんですよ」
その言葉に心が救われた。
ジェイドとリエンのそばにいればいい。
二人だけを見つめ、二人だけを信じればいい。
そうすれば、誰も不幸にならない。
そして……二人は俺のそばにいてくれると言ってくれた。
ずっと……永遠に……
時間が経ち、恐怖に麻痺した頭の中でジェイドの言葉を思い出す。
父とフロルさんを殺す……ジェイドとリエンを捨てる……ウォールマン家を潰す……
あの時のジェイドの表情は嘘を言っているようには見えなかった。
本当にその人生を歩んできたような真実味を感じてしまう。
「そんな訳……ないだろ。もう一度人生をやり直すなんて……」
くるまっていた毛布をぎゅっと握りしめ、また体を小さく丸める。
目を閉じると二人の真っ直ぐな瞳が俺を責め立てる。
『自分たちを不幸にしたのは兄さんのせいだ』
ーー違う……俺は皆を不幸になんかさせない……。絶対にさせない……
暗闇に包まれた部屋の中で何度も何度も自分に言い聞かせ、そのたびに瞳からは涙が溢れてくる。
何をどうすればいいのかわからない、誰か助けてほしい……
そう願っていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
従者かと思い返事をせずに無視していると、違う声が俺の名を呼ぶ。
「シャルル、大丈夫か? 少し話ができないか?」
部屋に訪れてきたのは、父だった。
ベッドから抜け出し、重い足取りでドアの鍵を外すと父が心配そうな顔で俺を見下ろす。
「部屋に入ってもいいか?」
「……はい」
父を部屋へと招き入れる。
父がランプに火を灯し、暗闇の部屋がぼんやりと明るくなった。
二人でソファーに腰掛けると、話しかけられる。
「怖い思いをさせてしまったな。フロルは今のところ落ち着いている」
「……よかった、です」
父に責め立てられるかと思ったけれど、そんなことはなく俺のことを心配してくれる。
膝の上で握りしめていた手を、父の大きな手が包み込んでくへ、父の優しい声に恐怖ばかりだった心に温かさが流れ込む。
このまま、今日のジェイドとリエンとの出来事について父に話を聞いてもらおうか……そう思っていると、父が話しかけてくる。
「主治医に相談をして、一度フロルを専門の医師に見せた方がいいだろうと言われたんだ。フロルとも話をして、できれば早い方が皆に心配をかけないだろうと思っている。今日か明日にでも、王都へ出発しようかと思っているんだが……」
王都……
『医者に見せるために父上と母上は王都に向かい、その道中に二人は野盗に殺されました』
ジェイドの言葉が頭の中で再生され、恐怖で体が震え思わず大声で叫んでしまう。
「父様っ! 王都には行ってはいけません!」
「ど、どうしたんだシャルル? そんな怖い顔をして……」
父が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
咄嗟に父たちが王都に行くことを止めたが、頭の中は激しく混乱していた。
どうしよう、なんて説明すれば……
「えっと……その……学園で噂話を聞いたんです。最近、王都に向かう馬車を野盗が襲う事件が多発している、って……。だから、心配で……」
「そう、なのか……」
父は少し考え、不安でいっぱいの俺の頭を撫でてくれる。
「じゃあ、安全を確認してから行くことにするよ。フロルも今のところ落ち着いているからな。野盗の件は再度確認しておく。シャルル、忠告してくれてありがとう」
父はそう言って感謝の言葉をくれた。
俺は素直に喜べず、不安だけがどんどん大きくなっていく。
俺はどうしたらいい?
何をしても皆を不幸にするのか?
本当に父とフロルさんを死に追いやり、ジェイドたちを捨てて、ウォールマン家を潰してしまうのか?
ジェイドの言った言葉が何度も何度も呪いのように頭の中で繰り返される。
ーーいやだ……いやだ、いやだ。皆を殺したくなんかない。嫌だ……絶対にいやだ……
ジェイドの言葉を否定し続け、眠れない夜が明ける。
冷え切った部屋の中、膝を抱えずっと考え込みながら窓の外を見つめ雪が降らないことを祈る。
窓から見えていた青空が徐々に雨雲へと変わる。
ダメだ、やめてくれと願っても俺の願いは叶わず空一面に広がった雨雲は色を濃くし……夕方から雪がチラつき始めた。
「ハハ……ジェイドの……言った通りだ」
ふり始めた雪を見て、ジェイドとリエンの言葉が本当なのかもしれないという気持ちがどんどん膨らんでいく。
冷えた窓ガラスに触れ、指先の熱が奪われる。
「俺が自分勝手に行動すると、皆を不幸にする、か……」
雪は少しずつ激しくなり、しばらく経つと庭一面をうっすらと雪が包み込んでいた。
呆然と雪を見つめ、小さくため息を吐く。
もう、心も体も疲れてしまった。
自分一人では、ジェイドの言っていた不幸な未来は変えられない。
「…………助けて」
溢れた声が静かな部屋に響く。
何も考えられなくなった俺は、窓に背を向け……部屋の扉の方へと歩き出した。
ジェイドたちに対する恐怖よりも、これから待ち受ける未来の方が怖かった。
すがるようにジェイドの元へと向かい、ジェイドを見た瞬間、不安でいっぱいだった心がはち切れて涙が溢れた。
兄としてのプライドもなく、何度も助けを求めてジェイドの名を呼んだ。
そして、情けなく涙する俺の不安を、ジェイドは受け止めてくれる。
ジェイドは優しく俺の手を握り微笑みをくれる。
「私とリエンのそばにいてくれればいいんですよ」
その言葉に心が救われた。
ジェイドとリエンのそばにいればいい。
二人だけを見つめ、二人だけを信じればいい。
そうすれば、誰も不幸にならない。
そして……二人は俺のそばにいてくれると言ってくれた。
ずっと……永遠に……
32
お気に入りに追加
7,540
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。