嫌われ者の俺はやり直しの世界で義弟達にごまをする

赤牙

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【番外編】〜嫌われ者の兄はやり直しの義弟達の愛玩人形になる〜

一度目の真実

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兄さんに近づき、怯えを見せる瞳を真っ直ぐに見つめる。
そして、シャルル兄さんに全てを語るべく口を開く。

「兄さん。もしも今日、父上と母上が王都に迎えば二人は野盗に出くわし死んでしまいます」
「……え? な、何を言ってるんだジェイド? そんな不吉な冗談を言うのはよせ」
「冗談ではありません。私がそんな馬鹿げた冗談を言うと思いますか?」

何が起きているのかわからない兄さんに一歩ずつ近づいていく。
兄さんは近づく私と距離を取りたいのか、顔を固くしたまま後ずさる。

「兄さんには、全てを知ってもらいたいのです。私とリエンは一度この人生を歩みました。そして、神により再び同じ人生を歩まされているのです」
「…………」

兄さんは目を見開きリエンにも視線を移す。
隣にいたリエンには、私の意思が伝わったのかシャルル兄さんを見据え頷いた。
シャルル兄さんの瞳はまん丸と見開かれ、時間が経つにつれ困惑の色を強くする。

「一度めの人生で父と母が死んだ原因を作ったのは、シャルル兄さん……あなたです。母のことが気に入らないと罵声を浴びせ、精神的に苦しめ、持病が悪化した母を心配し王都の医者に見せると父上と共に王都へと向かったのです。その道中、野盗に襲われ二人は殺されました」
「う、嘘だ! 何をおかしなことを言っているんだジェイド。そんな話……信じられるわけないだろ……」

シャルル兄さんは首を大きく横に振り、私たちから視線を逸らす。
信じられず困惑した気持ちを表すように、持っていたクッキーの包み紙は今ではぐしゃぐしゃ握りしめられていた。

「信じられませんか……。兄さんは、私たちがこの屋敷にきた時、不思議に思いませんでしたか?」
「え?」

兄さんは意味がわからないと目を瞬かせる。

「かくれんぼをした時、どうして屋敷にきたばかりの私たちがあの場所を知っていたのか不思議に思いませんでしたか? あんな奥まった部屋の、隠し扉を普通見つけられるわけないでしょう? あそこは……一度目の兄さんが、泣きじゃくるリエンを無理やり閉じ込めた思い出の場所なんですよ」

私の話に兄さんの顔は青ざめる。
三人でしたかくれんぼのことを思い出したのか、少し間をあけて小さく首を振る。

「あれは……ただの偶然だろ? もう、この話は終わりにしよう、な?」
「偶然などではありませんよ。なあ、リエン?」

リエンは私の言葉に小さく頷く。

「シャルル兄様。僕もジェイド兄様も嘘なんてついていないよ。僕たちは一度人生を終わらせられたんだ。シャルル兄様によって……。兄様が僕たちを拒絶して、僕たちを見捨てた。そして、僕たちはお粗末な死で一度目の人生の幕を閉じたんだよ。死ぬ間際まで、何度も何度もシャルル兄様を恨んだせいか……再び神様に同じ道を歩かされているんだよ。シャルル兄様と出会うために」

リエンはシャルル兄さんを見上げ深い笑みを浮かべる。
その言葉にシャルル兄さんの顔は得体の知れぬ恐怖に引き攣る。

「兄さん、あなたが自分勝手に行動すれば、周りが傷つくのです。それは一度目で証明されているんですよ。そして、今日もまたあなたのせいで母は命を落としかけた……。あなたはまた、父と母を殺し、私たちを捨て、ウォールマン家を潰すのですか?」

兄さんは水色の瞳いっぱいに涙を浮かべ、何度も何度も首を横に振る。
じりじりと後退し、ドアの方へと逃げて行く。

「まぁ、すぐに信じろとは言いません。ですが、私たちの忠告を忘れないで下さい」

兄さんはドアノブを探り当てると、私たちに背を向ける。

「明日の夕方から、雪が降ります。今日の夜から寒くなるので暖かくして眠ってくださいね、兄さん」

逃げ去っていくシャルル兄さんの背中そう告げると、バタンとドアの閉まる音が静かな部屋に響いた。

「ジェイド兄様、一度目のことをシャルル兄様に教えてよかったのかな?」

リエンが少し不安そうな顔をして声をかけてくる。

「……あぁ。これが最善の選択なんだ」


†††

父と母は屋敷を出ることなく、無事に次の日を迎えた。
母はまだベッドに横たわったままだが、少しずつ回復しているようだった。

そして、シャルル兄さんは翌日になっても部屋から出てくることはなかった。
窓から見えていた太陽が陰り、雨雲が空一面を覆うと、雪がチラチラと降り始める。
一度目のこの時間は、父と母の死を伝えられ絶望に打ちひしがれていた。
そして、追い討ちをかけるように、シャルル兄さんに捨てられた……

二度目の今、神は一体なんのために私たちをやり直しさせたのだろうか。
そんなことを考えていると、コンコンとドアを叩く音が聞こえ、ドアを開くと意外な訪問者がドアの前で佇んでいた。

「シャルル兄さん……」

兄さんは暗い顔をして俯いていた。
部屋の中へと招き入れると、シャルル兄さんが恐る恐る口を開く。

「ジェイド……」
「どうしましたか? シャルル兄さん」

いつもと変わらぬ態度で兄さんに話しかけると、兄さんはグッと唇を噛み締め、絞り出したような声で話しかけてくる。

「俺は…………一体、どうしたらいいんだ? どうすれば……皆を傷つけないですむ? どうしたら父様とフロルさんを死なせないんだ……? どんなに考えても……わからないんだ。ジェイド……助けてくれ……俺はどうしたらいい?」

目にいっぱいの涙を溜めて兄さんは不安に押しつぶされそうな表情で助けを乞う。

一度目のあの時、助けを乞う兄さんの手を私は払いのけた。
そのせいで満たされない日々に悩まされ、心はずっと兄さんに囚われたままだった。
そして、目覚めることのない闇へと落ちていった。

ーー神はこの時のために私にもう一度同じ人生を歩ませたのか?二度もシャルル兄さんの手を離すなと……

兄さんの頬にはハラハラと涙が流れ落ち、小さな唇を必死に動かし私の名を呼び助けを求める。
その姿に私の鼓動は歓喜で高鳴った。
シャルル兄さんが私を求めている。

ーーあぁ……分かっていますよ、兄さん。もう、二度とこの手を離すことなどありません。

泣きじゃくる兄さんの震える手をそっととり、優しく笑顔を向ける。
兄さんはハッと顔を上げ、私の笑みを見るとくしゃりと顔を歪め、さらに涙をこぼした。
安心したのか、恐怖が増したのかは分からないが、兄さんは私の手を握り返し離すことはなかった。

「シャルル兄さん、あなたは何もしなくてもいい。ただ、私とリエンのそばにいてくれればいいんです。私たちの言葉だけを聞き、私たちだけを見て、私たちだけを信じて。そうすれば、父も母も死ぬことはない。誰も不幸になどならない。約束……できますか? シャルル兄さん?」

兄さんは水色の瞳から美しい涙をこぼし小さく頷く。

「うん……分かった。ジェイドとリエンのそばにいる……」
「本当に約束できますか? この約束は……永遠ですよ?」
「うん……うん、約束……できる……。俺は、ジェイドとリエンを信じる……ずっと、ずっと信じ続ける。だから……俺を一人にしないでくれ……」
「ふふ、そうですか。兄さんが素直で私はとても嬉しいです。シャルル兄さんを一人になんてするはずがないじゃないですか、やり直しのこの人生で神はきっと私たちを仲直りさせたかったんでしょうね」

頬の涙を拭い、優しく抱き寄せると、兄さんは安心したように私の胸の中で泣きじゃくる。
そんな兄さんの姿に、心の中がじわりと温かく満たされ、あやすように背中を撫でた。

ーーシャルル兄さんが永遠に私のものになる、か……

そう考えると、自然と口角が上がった。


こうして、私たちの二度目の人生は大きく変わっていくことになった。
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