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【番外編】〜嫌われ者の兄はやり直しの義弟達の愛玩人形になる〜
シャルルとフロル 〜シャルルSide 〜
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「だいぶん花の種類が減ってきたな……」
冬の寒さを知らせるように北風が体に吹きつけるのを感じて、俺は一番綺麗に咲いていた花を手にとる。
いつもよりも小さな花束を手にして、南側の奥の部屋のドアをノックすると返事が返ってくる。
部屋のドアを開き顔を覗かせるとフロルさんが ベッドから身を起こし笑顔で出迎えてくれた。
「シャルルさん。今日もお花を持ってきて下さったんですね」
「はい、体調はどうですか?」
「おかげさまで少しずつ良くなってきていますよ」
ベッドの横に用意されていた花瓶に水を張り、摘んできたばかりの紫色の花をさす。
フロルさんは花を見つめると嬉しそうに眉を下げる。
「可愛らしい花ですね。ふふ、なんだかシャルルさんとジェイドたちのようなお花ですね。皆がそばにいてくれる感じがして、凄く元気がもらえます」
今日摘んできた花は、薄い紫色の花と水色の花だった。
俺たちの瞳の色と同じだと、フロルさんはとても喜んでくれた。
季節が変わり始めた一ヶ月前からフロルさんは体調を崩していた。
フロルさんがこの屋敷に来てから五年が経ち、少しずつだがフロルさんと話すようになった矢先のことだった。
父から持病のことは聞いていたし、寒さは呼吸器系の病に影響を及ぼすとも聞いた。
だから、少しでもフロルさんに元気になってほしいと思い、俺は度々見舞いに訪れている。
父やジェイドたちには、なんだか気恥ずかしくてお見舞いに行っていることは伝えられずにいた。
花が好きだと聞いて、庭園に咲いている花を少し摘んでいくとフロルさんはとても喜んでくれた。
それから何度か花を摘んで持っていっているのだが、毎回同じものというのもなんだか味気ない気がする。
「フロルさんは花以外に好きなものはありますか?」
たずねると、フロルさんは少し考えて微笑みながら答えてくれる。
「そうですねぇ、甘いものでしょうか」
「甘いものかぁ……。クッキーとかも食べれますか?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
フロルさんの言葉を聞き、次のお見舞いに備えて俺はさっそくクッキーを準備することにする。
美味しいお菓子屋で買ってもいいのだが、できれば手作りの方が喜ぶかもしれないと思い、お菓子作りの本を侍女から借りてクッキーを作ることにした。
お菓子作りは分量が細かく決まっていて、試行錯誤しながら作っていく。
粉まみれになりながらもなんとかクッキーが焼けて、オーブンからはいい香りがしていた。
見た目は少しばかり歪だけれど、初めてにしては上出来だ。
出来立てのクッキーを味見すると、結構美味しくできていた。
プレーンのクッキーと香ばしさがアクセントになるナッツ入りのクッキーをラッピングして、明日のお見舞いに備える。
ーーフロルさんは、美味しいといってくれるだろうか……
少し不安になるが、きっと喜んでくれるはずだとフロルさんの笑顔を思い浮かべながら、青色の袋にラッピングしたクッキーを見つめた。
次の日。
いつものようにフロルさんの部屋を訪ね、クッキーを手渡せばフロルさんはとても喜んでくれた。
食べてほしいとお願いをして、クッキーを一つ手にしフロルさんが口にする。
「すごく美味しいですよ」と、笑顔を見せてくれたが、すぐにフロルさんの様子が変わった。
急に真顔になり口元に手を当てる。
「フロルさん? どうかしました? クッキー美味しくなかったですか?」
「いえ、違うのシャルルさん。少し……呼吸が、苦し、くて……」
フロルさんは胸元を押さえて必死に呼吸をする。
徐々に呼吸は荒くなり、喉からはヒュウヒュウと笛のような音が鳴っていた。
医学の知識が少ない俺でも何か大変なことが起こっていると思い、隣の部屋にいる侍女を急いで呼んだ。
フロルさんを見るなり侍女の緊張した声が響き、次々に人が部屋の中に入りフロルさんを取り囲む。
フロルさんの青ざめた顔、侍女たちの慌てた表情……そして、父とジェイドたちもやってきた。
どうすることもできず、俺はただただ怖くて部屋の隅に逃げてしまう。
なんで? どうして? 何が起こったんだ?
訳がわからずにいると、ジェイドが怒りを露わにした表情で俺に詰め寄ってくる。
なぜここにいるのかと問われ、会いに来たと言えば、ジェイドは俺がフロルさんに酷い言葉をぶつけたのではないかと言ってくる。
そんなことはしていないと否定し、クッキーを持ってきたことを伝え、中身を見たジェイドの瞳は怒りに満ちていた。
「母上はナッツアレルギーなんです」
「……え?」
その言葉に持っていた袋を思わず落としそうになる。
ジェイドがフロルさんの状態を悪化させて原因を父に伝えると、応急処置を施し、なんとか持ちこたえた。
ジェイドとリエンは、祈るようにフロルさんの手を握りそばで見守っていた。
父は駆けつけた主治医に状況を説明し、診察が始まった。
主治医がきた安心と共に罪悪感がどっと押し寄せてくる。
フロルさんの状態を悪化させ、もし対応が遅ければあのまま呼吸が止まっていたかもしれないと思うと怖くて恐ろしくて……俺はフロルさんのそばに行くことは到底できなかった。
冬の寒さを知らせるように北風が体に吹きつけるのを感じて、俺は一番綺麗に咲いていた花を手にとる。
いつもよりも小さな花束を手にして、南側の奥の部屋のドアをノックすると返事が返ってくる。
部屋のドアを開き顔を覗かせるとフロルさんが ベッドから身を起こし笑顔で出迎えてくれた。
「シャルルさん。今日もお花を持ってきて下さったんですね」
「はい、体調はどうですか?」
「おかげさまで少しずつ良くなってきていますよ」
ベッドの横に用意されていた花瓶に水を張り、摘んできたばかりの紫色の花をさす。
フロルさんは花を見つめると嬉しそうに眉を下げる。
「可愛らしい花ですね。ふふ、なんだかシャルルさんとジェイドたちのようなお花ですね。皆がそばにいてくれる感じがして、凄く元気がもらえます」
今日摘んできた花は、薄い紫色の花と水色の花だった。
俺たちの瞳の色と同じだと、フロルさんはとても喜んでくれた。
季節が変わり始めた一ヶ月前からフロルさんは体調を崩していた。
フロルさんがこの屋敷に来てから五年が経ち、少しずつだがフロルさんと話すようになった矢先のことだった。
父から持病のことは聞いていたし、寒さは呼吸器系の病に影響を及ぼすとも聞いた。
だから、少しでもフロルさんに元気になってほしいと思い、俺は度々見舞いに訪れている。
父やジェイドたちには、なんだか気恥ずかしくてお見舞いに行っていることは伝えられずにいた。
花が好きだと聞いて、庭園に咲いている花を少し摘んでいくとフロルさんはとても喜んでくれた。
それから何度か花を摘んで持っていっているのだが、毎回同じものというのもなんだか味気ない気がする。
「フロルさんは花以外に好きなものはありますか?」
たずねると、フロルさんは少し考えて微笑みながら答えてくれる。
「そうですねぇ、甘いものでしょうか」
「甘いものかぁ……。クッキーとかも食べれますか?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
フロルさんの言葉を聞き、次のお見舞いに備えて俺はさっそくクッキーを準備することにする。
美味しいお菓子屋で買ってもいいのだが、できれば手作りの方が喜ぶかもしれないと思い、お菓子作りの本を侍女から借りてクッキーを作ることにした。
お菓子作りは分量が細かく決まっていて、試行錯誤しながら作っていく。
粉まみれになりながらもなんとかクッキーが焼けて、オーブンからはいい香りがしていた。
見た目は少しばかり歪だけれど、初めてにしては上出来だ。
出来立てのクッキーを味見すると、結構美味しくできていた。
プレーンのクッキーと香ばしさがアクセントになるナッツ入りのクッキーをラッピングして、明日のお見舞いに備える。
ーーフロルさんは、美味しいといってくれるだろうか……
少し不安になるが、きっと喜んでくれるはずだとフロルさんの笑顔を思い浮かべながら、青色の袋にラッピングしたクッキーを見つめた。
次の日。
いつものようにフロルさんの部屋を訪ね、クッキーを手渡せばフロルさんはとても喜んでくれた。
食べてほしいとお願いをして、クッキーを一つ手にしフロルさんが口にする。
「すごく美味しいですよ」と、笑顔を見せてくれたが、すぐにフロルさんの様子が変わった。
急に真顔になり口元に手を当てる。
「フロルさん? どうかしました? クッキー美味しくなかったですか?」
「いえ、違うのシャルルさん。少し……呼吸が、苦し、くて……」
フロルさんは胸元を押さえて必死に呼吸をする。
徐々に呼吸は荒くなり、喉からはヒュウヒュウと笛のような音が鳴っていた。
医学の知識が少ない俺でも何か大変なことが起こっていると思い、隣の部屋にいる侍女を急いで呼んだ。
フロルさんを見るなり侍女の緊張した声が響き、次々に人が部屋の中に入りフロルさんを取り囲む。
フロルさんの青ざめた顔、侍女たちの慌てた表情……そして、父とジェイドたちもやってきた。
どうすることもできず、俺はただただ怖くて部屋の隅に逃げてしまう。
なんで? どうして? 何が起こったんだ?
訳がわからずにいると、ジェイドが怒りを露わにした表情で俺に詰め寄ってくる。
なぜここにいるのかと問われ、会いに来たと言えば、ジェイドは俺がフロルさんに酷い言葉をぶつけたのではないかと言ってくる。
そんなことはしていないと否定し、クッキーを持ってきたことを伝え、中身を見たジェイドの瞳は怒りに満ちていた。
「母上はナッツアレルギーなんです」
「……え?」
その言葉に持っていた袋を思わず落としそうになる。
ジェイドがフロルさんの状態を悪化させて原因を父に伝えると、応急処置を施し、なんとか持ちこたえた。
ジェイドとリエンは、祈るようにフロルさんの手を握りそばで見守っていた。
父は駆けつけた主治医に状況を説明し、診察が始まった。
主治医がきた安心と共に罪悪感がどっと押し寄せてくる。
フロルさんの状態を悪化させ、もし対応が遅ければあのまま呼吸が止まっていたかもしれないと思うと怖くて恐ろしくて……俺はフロルさんのそばに行くことは到底できなかった。
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