嫌われ者の俺はやり直しの世界で義弟達にごまをする

赤牙

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【番外編】〜嫌われ者の兄はやり直しの義弟達の愛玩人形になる〜

雪と悪夢と…… 

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「ありがとう、ジェイド。冬の空気は澄んでていいものね」
「ずっと閉め切ったままでは空気が淀んで肺に良くありませんからね」

冬の冷えた空気が、母のベッドサイドの花瓶に飾られた小さな花を揺らす。
花壇に咲いていた花を侍女が摘んできたようで、部屋の中に季節を感じられる。
澄んだ空気が部屋の中の澱んだ空気を一掃するのを感じながらしばらくして窓を閉めると、ベッドに横たわっていた母が笑顔を見せる。

「母様、昨日は眠れた?」
「えぇ、昨日はいつもよりは眠れたわ」

ベッドサイドで心配そうにリエンが母の顔を覗き込むと、母は目を細めてリエンの頭を撫でる。
母はそう言うが、顔色はあまりすぐれないようにも見えた。
リエンもそう思ったのか、母が不安にならないように無邪気なフリをして笑う。

ーーまた、繰り返すのか……。いや、そんなことは絶対にさせない。

私の不安を表すように、空は灰色の雲で覆われている。
思い出したくもない一度目と同じ寒い冬がやってきた。



†††

「ジェイド兄様、母様大丈夫かな……」

母の様子を見にいったあと、リエンはいつも不安そうに俯く。
その姿は、十歳の時のリエンと同じだった。

「大丈夫だ。あの時一度目よりも顔色はいい。それにかかりつけの主治医も、この冬を乗り切るだけの体力はあるから心配するなと言ってくれてただろう」

不安がる弟の頭を母のように撫でると、リエンも少し落ち着いた顔をして見せる。

一度目の時の母は、心労と持病の悪化で体調を崩した。
そして、治療のためにと王都に父と向かい……帰らぬ人なる。
心労の原因となる義理の息子シャルル兄さんと母の関係は、軽く挨拶を交わす程度だ。
シャルル兄さんにとって、母親というものは産みの母以外には受け入れられないようで五年経っても二人の仲は出会った頃と変わりがないように見えた。
それでも、一度目のように母を傷つける言葉を吐くこともないためか、母が精神的に追い詰められている様子はなかった。

「ねぇ、兄様。もし、このままを過ぎたら……僕たちはどうなるのかな?」
「さぁな……。幸せになるのか……もっと、地獄を見せられるのか……」
「えー。一度目より凄い地獄って……お腹刺されるよりも痛いのは嫌だな~」

リエンはふざけて一度目に刺された脇腹をさする。

「まぁ、あの時よりは幸せになることを願おうじゃないか。じゃないと、神を呪ってしまいそうだ」
「だよね~。憎んでたシャルル兄様とも仲良くなったし、僕たちすっごくいい子だもんね!」
「ハハ、確かにな」
「一度目とは違う人生を歩んでるんだから、父様も母様も……死なないよね……」

リエンは私の隣に座ると、ぎゅっと手を握りしめてくる。
その手を握り返し、二人で肩を寄せ合い部屋の窓の外を見る。

母と父の命日まで、あと二日。
あの時の絶望を繰り返してたまるものかと出来うる限りのことはしてきた。
母は今のところ大きな発作もなく過ごせている。
あとは、静かに時が過ぎるのを待つだけだった。

だが、父と母の命日の日に、父と話をしている時に、侍女が慌ただしく部屋の中へと入ってくる。

「旦那様! 奥様が酷い発作を起こされました」
「そうか、すぐに向かう」

侍女の言葉に鼓動が早くなる。
昨日も私たちに笑いかけていたのに……

焦る気持ちのまま、父と共に母のいる寝室に早足で向かうと、侍女たちがベッドの周りで慌ただしく対応している。
母は胸を押さえてうずくまり必死に息を吸っている。
ヒュウヒュウと笛の鳴るような呼吸の音と、父の緊張した声が部屋の中に響く。

そして、少し離れて顔を青くして立ち尽くすシャルル兄さんの顔が見えた……
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