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【番外編】〜嫌われ者の兄はやり直しの義弟達の愛玩人形になる〜
家族ごっこ ①
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私たち兄弟の人生はお世辞にもいい人生だったとは言えない。
父が死んでから三年後に母は侯爵家の男性に見初められる。私の義父となる男性も一年前に妻を亡くし、一人息子と二人で暮らしていると言っていた。
寂しくないように仲良くして欲しいと言われ、義兄となるシャルル兄さんを初めて見た時はとても綺麗な人だと思った。
だが、シャルル兄さんはその見た目にそぐわない言葉を私達にぶつけてくる。
「侯爵家の地位目当ての子爵家出身の奴らと家族になんて……俺は嫌です」
憎しみの籠った瞳で私たち家族を捉えると、そう言ってシャルル兄さんは私たちを拒絶する。
そして私たち家族はシャルル兄さんによりどん底まで突き落とされていく。
シャルル兄さんの機嫌を伺いながら過ごし、罵倒される毎日に母の精神は不安定になり持病が悪化していく。
弟のリエンも物置小屋に閉じ込められ、大切にしていた父の写真の入ったペンダントを捨てられ、兄さんが近くにいるだけで怯えてしまう。
なんとかシャルル兄さんとの仲を修復しようと話しかけてみるが常に無視される。しかし、きっといつかはシャルル兄さんも私たちに心を開いてくれる。
そう思っていたのだが……兄さんは私たちとの関係を拒否するように、私の服を切り刻み「子爵出身のお前にはその方が似合っているよ」と笑みを深める。
そんな兄さんの姿を見て、関係を修復するなど無理なんだと感じた。
それからはシャルル兄さんを避けるように、リエンと私は互いの部屋で隠れるように過ごす。
寂しさや辛さもあったが、リエンがそばにいてくれるだけでそれに耐える事ができた。
リエンも私と同じ気持ちで日々を過ごして行った。
そうして、この屋敷に来てから五年が経ち私たち家族にとって運命の日が訪れる。
母の持病が悪化し、これ以上の治療は王都に行かなければできないと主治医から説明される。
父はすぐに馬車で王都へ向かう事を決断し、母は父に支えられながら馬車へと乗り込んで行く。
私達を見て「大丈夫よ」と精一杯の笑顔で手を振ってくれる。
——それが、母の最後の姿だった。
知らせを受けたのは雪が舞い散る寒い夜だった。
両親が野党に襲われ殺されたと聞き、事実を受け入れられず目の前が真っ暗になった。
隣で泣きじゃくるリエンを慰め、訳がわからぬまま時だけが過ぎて行く。
すると、一緒に話を聞いていたシャルル兄さんは私たち親子が来たせいで父が殺されたんだと激昂し、私とリエンを雪が降り積もる寒空の下放り出した。
どれだけ助けてほしいと懇願しても兄さんは聞き入れず、屋敷の門は閉ざされる。
それからの生活は、言うまでもなく地獄だった。
リエンと共に苦しみながら生き抜き、シャルル兄さんを憎む気持ちのまま突き進み……私達はシャルル兄さんを奴隷にまで突き落としようやく幸せを掴む。
けれど、幸せを感じたのは一瞬だった。シャルル兄さんを憎む気持ちで過ごした十五年間は長く、私の心は満たされずにいた。
仕事や恋愛などでは埋まることのない、大きな大きな隙間。
その隙間を埋めてくれるのは……シャルル兄さんしかいなかった。
だが、それに気付いた時は遅く、兄さんは呆気なく奴隷のまま死んでしまう。
死ぬ時でさえ、私を苦しめる兄さんの存在が憎くて憎くて仕方がなかった。
どうして私を自由にしてくれないんだ。
どうしていつまでも私の中にいるんだ。
どうしてこんなにも……兄さんのことばかり考えてしまうんだ。
そして、私は兄さんに囚われたまま、最後は一人孤独に死を迎えた。
………だが、それで終わりでは無かった。
そう。
今の私はもう一度同じ人生を辿っている。
意識がハッキリしたのは母の再婚二週間前だった。
懐かしの本当の我が家。
そして、もう二度と会うことができないと思っていた母の温もりに触れ心がじわりと満たされた。
驚くべきことに弟のリエンも同じように一度目の記憶を持っており、私と同じ状況だった。
互いの最後について語れば、なんとも悲惨な死に方をしていてなんだか笑えてしまった。
「死ぬ前は寒いし痛いし、いい事なんてなかったけど、こうやって元気なジェイド兄様にもう一度会えたなら死ぬのも悪く無かったかなぁ~」
「まったく……。何を呑気な事を言ってるんだリエン」
ヘラっと笑うリエンにつられて私も口角を上げてしまう。
「ねぇ、ジェイド兄様。また、僕たちはシャルル兄様と家族になるんだね」
「そうだな」
「ふふ。楽しみだなぁ~。シャルル兄様と二度目の家族ごっこかぁ……昔のことを思い出しただけでも笑いがでちゃうよ」
「あぁ、シャルル兄さんと再会できることがこんなにも楽しみだとは思わなかったな」
クスクスと笑うリエン。何がおかしいのか分からないが、確かにシャルル兄さんと再会することを考えると、自然と笑みが溢れる。
ようやく私の心を満たしてくれる大切な大切なシャルル兄さんとの再会を胸に、私とリエンの最悪で最高の二度目の人生が始まりを迎えた。
父が死んでから三年後に母は侯爵家の男性に見初められる。私の義父となる男性も一年前に妻を亡くし、一人息子と二人で暮らしていると言っていた。
寂しくないように仲良くして欲しいと言われ、義兄となるシャルル兄さんを初めて見た時はとても綺麗な人だと思った。
だが、シャルル兄さんはその見た目にそぐわない言葉を私達にぶつけてくる。
「侯爵家の地位目当ての子爵家出身の奴らと家族になんて……俺は嫌です」
憎しみの籠った瞳で私たち家族を捉えると、そう言ってシャルル兄さんは私たちを拒絶する。
そして私たち家族はシャルル兄さんによりどん底まで突き落とされていく。
シャルル兄さんの機嫌を伺いながら過ごし、罵倒される毎日に母の精神は不安定になり持病が悪化していく。
弟のリエンも物置小屋に閉じ込められ、大切にしていた父の写真の入ったペンダントを捨てられ、兄さんが近くにいるだけで怯えてしまう。
なんとかシャルル兄さんとの仲を修復しようと話しかけてみるが常に無視される。しかし、きっといつかはシャルル兄さんも私たちに心を開いてくれる。
そう思っていたのだが……兄さんは私たちとの関係を拒否するように、私の服を切り刻み「子爵出身のお前にはその方が似合っているよ」と笑みを深める。
そんな兄さんの姿を見て、関係を修復するなど無理なんだと感じた。
それからはシャルル兄さんを避けるように、リエンと私は互いの部屋で隠れるように過ごす。
寂しさや辛さもあったが、リエンがそばにいてくれるだけでそれに耐える事ができた。
リエンも私と同じ気持ちで日々を過ごして行った。
そうして、この屋敷に来てから五年が経ち私たち家族にとって運命の日が訪れる。
母の持病が悪化し、これ以上の治療は王都に行かなければできないと主治医から説明される。
父はすぐに馬車で王都へ向かう事を決断し、母は父に支えられながら馬車へと乗り込んで行く。
私達を見て「大丈夫よ」と精一杯の笑顔で手を振ってくれる。
——それが、母の最後の姿だった。
知らせを受けたのは雪が舞い散る寒い夜だった。
両親が野党に襲われ殺されたと聞き、事実を受け入れられず目の前が真っ暗になった。
隣で泣きじゃくるリエンを慰め、訳がわからぬまま時だけが過ぎて行く。
すると、一緒に話を聞いていたシャルル兄さんは私たち親子が来たせいで父が殺されたんだと激昂し、私とリエンを雪が降り積もる寒空の下放り出した。
どれだけ助けてほしいと懇願しても兄さんは聞き入れず、屋敷の門は閉ざされる。
それからの生活は、言うまでもなく地獄だった。
リエンと共に苦しみながら生き抜き、シャルル兄さんを憎む気持ちのまま突き進み……私達はシャルル兄さんを奴隷にまで突き落としようやく幸せを掴む。
けれど、幸せを感じたのは一瞬だった。シャルル兄さんを憎む気持ちで過ごした十五年間は長く、私の心は満たされずにいた。
仕事や恋愛などでは埋まることのない、大きな大きな隙間。
その隙間を埋めてくれるのは……シャルル兄さんしかいなかった。
だが、それに気付いた時は遅く、兄さんは呆気なく奴隷のまま死んでしまう。
死ぬ時でさえ、私を苦しめる兄さんの存在が憎くて憎くて仕方がなかった。
どうして私を自由にしてくれないんだ。
どうしていつまでも私の中にいるんだ。
どうしてこんなにも……兄さんのことばかり考えてしまうんだ。
そして、私は兄さんに囚われたまま、最後は一人孤独に死を迎えた。
………だが、それで終わりでは無かった。
そう。
今の私はもう一度同じ人生を辿っている。
意識がハッキリしたのは母の再婚二週間前だった。
懐かしの本当の我が家。
そして、もう二度と会うことができないと思っていた母の温もりに触れ心がじわりと満たされた。
驚くべきことに弟のリエンも同じように一度目の記憶を持っており、私と同じ状況だった。
互いの最後について語れば、なんとも悲惨な死に方をしていてなんだか笑えてしまった。
「死ぬ前は寒いし痛いし、いい事なんてなかったけど、こうやって元気なジェイド兄様にもう一度会えたなら死ぬのも悪く無かったかなぁ~」
「まったく……。何を呑気な事を言ってるんだリエン」
ヘラっと笑うリエンにつられて私も口角を上げてしまう。
「ねぇ、ジェイド兄様。また、僕たちはシャルル兄様と家族になるんだね」
「そうだな」
「ふふ。楽しみだなぁ~。シャルル兄様と二度目の家族ごっこかぁ……昔のことを思い出しただけでも笑いがでちゃうよ」
「あぁ、シャルル兄さんと再会できることがこんなにも楽しみだとは思わなかったな」
クスクスと笑うリエン。何がおかしいのか分からないが、確かにシャルル兄さんと再会することを考えると、自然と笑みが溢れる。
ようやく私の心を満たしてくれる大切な大切なシャルル兄さんとの再会を胸に、私とリエンの最悪で最高の二度目の人生が始まりを迎えた。
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