嫌われ者の俺はやり直しの世界で義弟達にごまをする

赤牙

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【番外編】二度目の人生番外編

隣国、ミャーム国編 10

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三人で過ごす長いようで短い一日が終わりを告げるように、陽は傾き空は少しずつ茜色に染まる。
馬車が王宮に辿り着くと、ノア王子に手を引かれる。

「シャルル様、最後に一緒に過ごしたい場所に連れて行ってもいいですか?」
「えぇ、いいですよ」

ノア王子は微笑み、広い王宮を一緒に歩いていく。しばらく歩き続けると、ガラス張りの建物に到着する。
入口の階段は花々で囲われ、花の道を通り抜け中に入ると広い温室に到着する。見たことのない大きな花など珍しい草花がカラフルに温室を彩る。
花の香りで満たされた空間に、口元を綻ばせるとノア王子が「シャルル様、こちらです」と手を引く。
急ぎ足のノア王子に引っ張られ少しバランスを崩すと、俺の腕をマエル国王が支えてくれる。

「ノア、慌てずとも間に合うのだから、もう少しゆっくり歩きなさい」
「すみません……」
「私は大丈夫ですから、お二人ともお気になさらないで下さい」

大丈夫だと伝えると、ノア王子は歩くペースを落とす。そして、何故かマエル国王は俺の腕を支えたまま隣を歩く。

「マエル国王、もう支えがなくても……」
「ハハ、そうだろうな」

そう言ってマエル国王は微笑むが、掴んだ腕は離されなかった。
そして、ノア王子とマエル国王に連れられ、温室にある階段を上がっていくと、大きなガラス張りの窓から燃えるような夕焼けが目に入る。
赤々と燃える夕焼けが窓一面に広がり、温室を包み込むように照らす。

「よかった、一番綺麗な瞬間に間に合いました」
「綺麗な夕焼けですね……」
「はい。シャルル様……今日は本当にありがとうございました。シャルル様がいてくれたので、母様との約束も果たせた気がします」

潤んだ瞳を隠すように微笑むノア王子に、胸がぎゅっとなる。繋いでいた手を少し強く握ると、ノア王子は俺に抱きつく。

「……シャルル様。このまま……僕のそばにいてくれませんか?」
「え……?」
「ダメ……ですか?」

俺を見上げるノア王子の水色の瞳はうるうると潤み、眉を下げ服をぎゅっと掴む。
一緒にはいれないと伝えなくてはいけないのだが、そんな悲しそうな顔をされるとなかなか言い出せずマエル国王に助けを求め視線を送る。
すると、国王はぐっと俺の腰を抱き寄せる。

「シャルル殿、ノアの願いとは別に私もお願いしたい。このまま、ミャーム国で一緒に過ごさないか?」
「え!? あ、いや……そ、それは……」
「シャルル様……」
「シャルル殿……」

ノア王子とマエル国王に挟まれ、二人の熱い視線に思わずたじろぎ、下を向くと夕焼けに照らされ輝く指輪が目に入る。
三つの石が光輝き、ジェイドとリエンの顔が思い浮かぶ。

———俺、何やってるんだろう。愛する二人がいるんだから、答えは決まってるのに……。

「すみません、マエル国王、ノア王子。お気持ちは嬉しいのですが、お二人の願いを私が叶えてあげることはできません……」

二人に向けてしっかりと言葉で伝える。
ノア王子はくっと唇を噛み締める。

「どうしても……ダメですか?」
「すみません。私には永遠を誓い合った大切な人がいるんです。だから、離れるわけにはいきません」
「……いやです。僕……シャルル様と一緒にいたい……」
「ノア王子……」

抱きつき顔をうずめる王子にかける言葉が見つからない。すると、マエル国王が口を開く。

「ノア、辛いだろうがシャルル殿がそう言うのなら仕方ないことだ。もし、私たちが我儘を突き通せば、シャルル殿の大切な人が同じように悲しむのだぞ」
「……分かっています」

ぎゅうっと俺を抱きしめ、ノア王子は顔を上げる。その目には涙が溢れ、声を震わせる。

「ずっとがダメなら……また、会いにきてくれますか? 一緒にお散歩して美味しいお菓子を食べて、僕にいっぱい笑顔をくれますか?」
「はい。また、ノア王子に会いに来ます。そして、一緒に楽しい時間を過ごしましょう」
「約束……ですよ?」
「はい。約束です」

約束を交わすと、涙で頬を濡らしながらノア王子は柔らかに微笑む。
そして、マエル国王も別れを惜しむように俺を抱き寄せる。

「せっかくシャルル殿と仲良くなれたと思ったのだが……残念だ。だが、次に会えるのを楽しみにしておくよ」
「はい。私もまたミャーム国に訪れるのを楽しみにしております」

微笑みを向けると、マエル国王も目を細める。
こうして、ノア王子とマエル国王と過ごす一日が終わった。



ジェイドとリエンのもとに戻ったのは、王子達と夕食を済ませた後だった。
部屋に帰りつくなり、二人が俺を取り囲む。

「シャルル兄様! 大丈夫だった? 何もされてない?」
「ハハ、大丈夫だって。王子達と一緒にミャーム国の素敵な場所を巡っただけだよ」
「……本当ですか? マエル国王に言い寄られなかったですか?」
「いや、そんな事はなかったよ」

マエル国王は少し距離は近かったが、ノア王子のお願いを叶えるために、俺に沢山優しくしてくれた。
きっと、本当にノア王子のことが大切なんだと国王を見ているとわかる。

「少し、心配ですがとりあえず兄さんが無事に帰ってきてくれたので安心しましたよ」
「ジェイド、大袈裟だって」

俺を強く抱きしめるジェイドの背中を撫でてやる。
すると、リエンも俺のそばにやってきて二人に抱きしめられる。
ジェイドとリエンは時折、凄く心配性な一面を見せる。そんな二人が可愛らしくて愛おしいと思ったが……そんなことを言えば、二人から怒られそうだなんて思いながら、俺も二人を抱き寄せた。
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