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【番外編】ジェイドとリエンのやり直し
ジェイドとリエンのやり直しの人生 学園編 ⑤
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「兄さん……遅いな……」
帰りの馬車で兄さんの帰りを待つが、なかなかシャルル兄さんがやってこない。
兄さんの学年は皆とっくに帰ってしまっているのに……。
まさか……シャルル兄さんに何かあったんじゃ……。
そう思い、私は一度目で教えてもらったシャルル兄さんの『お気に入りの場所』へと向かう。
校舎の裏側にある手入れの行き届いた広い園庭の右奥には木が生い茂る場所があり小さな林になっている。
遠目では分かりづらいそこには小道があり進んでいけばポッカリと開けた野原のような場所に辿り着く。
その場所はシャルル兄さんが父さんから教えてもらった特別な場所で、悩み事がある時や一人になりたい時によく行っていたと兄さんは言っていた。
鬱蒼としげる林を進み開けた場所へとでると、そこには二人がけの小さなベンチが置いてあり……ベンチに小さく蹲るシャルル兄さんの姿が見えた。
ゆっくりとシャルル兄さんに近づくと、私の足音に気づいたのか兄さんが顔を上げる。
その瞳は潤み目元は少し赤くなっていた……。
「ジェイド……何でここに……」
「シャルル兄さんが帰ってこないので、探しに来たんですよ。兄さんこそどうしたんですか? 少し目が赤いようですが……」
シャルル兄さんの隣に座ると、兄さんは袖口で涙を拭き笑顔を向けてくる。
「なんでもないよ。大丈夫だから帰ろう」
……まったくもって大丈夫ではない顔をしている兄さんをこのまま放っておけるはずもない。
私はそっとシャルル兄さんの手を握る。
「シャルル兄さん、何か辛いことがあったんですか? 私でよければ話を聞きますよ」
「そんな大事じゃないから……大丈夫だよ……」
「ダメです。私にはシャルル兄さんの心が傷ついているのが分かります。私は兄さんに誓ったじゃないですか、辛く悲しい時には必ず私が支えると……」
握った手をさらに握りしめると、シャルル兄さんは眉をハの字に下げ瞳を潤ませる。
そして、今日起こったエレンさんとイザークの件を話してくれた。
「二人はどうにか仲良くなったけど……本当にこれでよかったのか分からないんだ……。もしかしたら……エレンは仲直りなんてしたくなかったかもしれないし、俺とも本当は関わりたくないんじゃないかって……」
シャルル兄さんは自分の言葉を発するたびに酷く傷ついた表情を浮かべ、不安そうに私の手を握り返してくる。
安心するように兄さんの手に私の手を重ね包み込みながら、兄さんの気持ちを聞いていく。
シャルル兄さんは自分の思いを吐き出し終わると、こちらを見つめてくるので優しく微笑みかける。
「シャルル兄さんは凄く頑張ったんですね」
「俺は何も……」
「そんなことありません。エレンさんとイザークさんの考えがすれ違わないように間に入り頑張ったじゃないですか。シャルル兄さんがいなければ、二人の関係はもっと悪くなっていたかもしれませんよ」
「そうかな……。これでよかったのかな……」
兄さんはまだ気持ちの整理がついていないのか、不安そうに二人の名前を呟く。
何百回、何千回と口付けを重ねた唇から溢れる他の男の名とそいつらの事を考え涙を流すシャルル兄さんを見ていると仕方ない事だと分かっていても嫉妬心が入り混じる。
その涙や怒り悲しみは全て私に対して抱いて欲しい……。もっと私だけに目を向け、私以外の事は考えないで下さいシャルル兄さん……。
私は歪んだ感情のまま涙で濡れるシャルル兄さんの頬を撫で両手で包み込む。ゆらゆらと揺れるブルーダイヤの瞳は永遠の愛を誓った時と同じ煌めきを放ち、その光に吸い込まれるように私はシャルル兄さんに唇を重ねた。
柔らかく甘く小さな唇……。全てを味わいたいところだが今はその時期ではないので、名残惜しいがゆっくりと唇を離すと兄さんは目を見開き固まっていた。その姿はリエンが初めて兄さんに口付けしていた時と同じだ。
瞳は戸惑いながら不安定に揺れ、小さな指が確認するように唇に触れる。
「な、なんで……キスを……」
「シャルル兄さんが辛そうだったので、元気になってほしくて……。キスをすると嫌な事を忘れられると聞いた事があったので」
ニコリと無邪気な笑顔で答えれば兄さんの顔はみるみる赤くなっていく。
「キ、キスは好きな人とするものなんだぞ!」
「そうなんですか? でも、それなら問題はないと思います。私はシャルル兄さんが大好きですから……」
そう言って、また顔を近づけると兄さんはギュッと目を瞑る。まだキスに慣れていない懐かしい兄さんの素振りにクスリと笑みが溢れ、私は頬に軽くキスをする。
「シャルル兄さんは私の事が嫌いですか?」
「嫌いじゃないよ……。ただ……」
「ただ?」
「兄弟でキスなんて……」
キスした場面を思い出しているのか、シャルル兄さんは頬を赤く染めた後、私から顔を背ける。
「キスは私なりの兄さんへの愛情表現なんです。だから深く考えずに受け取ってもらえると嬉しいんですが……それではダメでしょうか?」
「ダ、ダメって訳じゃ……」
「では、いいんですね。嬉しいです、シャルル兄さん!」
兄さんが否定できないようリエンのように無邪気に抱きつけば兄さんはそれ以上何も言わず私の頭を撫でてくれる。
「シャルル兄さん。もうそろそろ帰らないと皆が心配します。一緒に帰りましょう」
「うん……」
兄さんに手を差し伸べると、少し恥ずかしそうに私の手を取る。兄さんの小さくて柔らかな手を握りしめ、私達は家路に向かった。
帰りの馬車で兄さんの帰りを待つが、なかなかシャルル兄さんがやってこない。
兄さんの学年は皆とっくに帰ってしまっているのに……。
まさか……シャルル兄さんに何かあったんじゃ……。
そう思い、私は一度目で教えてもらったシャルル兄さんの『お気に入りの場所』へと向かう。
校舎の裏側にある手入れの行き届いた広い園庭の右奥には木が生い茂る場所があり小さな林になっている。
遠目では分かりづらいそこには小道があり進んでいけばポッカリと開けた野原のような場所に辿り着く。
その場所はシャルル兄さんが父さんから教えてもらった特別な場所で、悩み事がある時や一人になりたい時によく行っていたと兄さんは言っていた。
鬱蒼としげる林を進み開けた場所へとでると、そこには二人がけの小さなベンチが置いてあり……ベンチに小さく蹲るシャルル兄さんの姿が見えた。
ゆっくりとシャルル兄さんに近づくと、私の足音に気づいたのか兄さんが顔を上げる。
その瞳は潤み目元は少し赤くなっていた……。
「ジェイド……何でここに……」
「シャルル兄さんが帰ってこないので、探しに来たんですよ。兄さんこそどうしたんですか? 少し目が赤いようですが……」
シャルル兄さんの隣に座ると、兄さんは袖口で涙を拭き笑顔を向けてくる。
「なんでもないよ。大丈夫だから帰ろう」
……まったくもって大丈夫ではない顔をしている兄さんをこのまま放っておけるはずもない。
私はそっとシャルル兄さんの手を握る。
「シャルル兄さん、何か辛いことがあったんですか? 私でよければ話を聞きますよ」
「そんな大事じゃないから……大丈夫だよ……」
「ダメです。私にはシャルル兄さんの心が傷ついているのが分かります。私は兄さんに誓ったじゃないですか、辛く悲しい時には必ず私が支えると……」
握った手をさらに握りしめると、シャルル兄さんは眉をハの字に下げ瞳を潤ませる。
そして、今日起こったエレンさんとイザークの件を話してくれた。
「二人はどうにか仲良くなったけど……本当にこれでよかったのか分からないんだ……。もしかしたら……エレンは仲直りなんてしたくなかったかもしれないし、俺とも本当は関わりたくないんじゃないかって……」
シャルル兄さんは自分の言葉を発するたびに酷く傷ついた表情を浮かべ、不安そうに私の手を握り返してくる。
安心するように兄さんの手に私の手を重ね包み込みながら、兄さんの気持ちを聞いていく。
シャルル兄さんは自分の思いを吐き出し終わると、こちらを見つめてくるので優しく微笑みかける。
「シャルル兄さんは凄く頑張ったんですね」
「俺は何も……」
「そんなことありません。エレンさんとイザークさんの考えがすれ違わないように間に入り頑張ったじゃないですか。シャルル兄さんがいなければ、二人の関係はもっと悪くなっていたかもしれませんよ」
「そうかな……。これでよかったのかな……」
兄さんはまだ気持ちの整理がついていないのか、不安そうに二人の名前を呟く。
何百回、何千回と口付けを重ねた唇から溢れる他の男の名とそいつらの事を考え涙を流すシャルル兄さんを見ていると仕方ない事だと分かっていても嫉妬心が入り混じる。
その涙や怒り悲しみは全て私に対して抱いて欲しい……。もっと私だけに目を向け、私以外の事は考えないで下さいシャルル兄さん……。
私は歪んだ感情のまま涙で濡れるシャルル兄さんの頬を撫で両手で包み込む。ゆらゆらと揺れるブルーダイヤの瞳は永遠の愛を誓った時と同じ煌めきを放ち、その光に吸い込まれるように私はシャルル兄さんに唇を重ねた。
柔らかく甘く小さな唇……。全てを味わいたいところだが今はその時期ではないので、名残惜しいがゆっくりと唇を離すと兄さんは目を見開き固まっていた。その姿はリエンが初めて兄さんに口付けしていた時と同じだ。
瞳は戸惑いながら不安定に揺れ、小さな指が確認するように唇に触れる。
「な、なんで……キスを……」
「シャルル兄さんが辛そうだったので、元気になってほしくて……。キスをすると嫌な事を忘れられると聞いた事があったので」
ニコリと無邪気な笑顔で答えれば兄さんの顔はみるみる赤くなっていく。
「キ、キスは好きな人とするものなんだぞ!」
「そうなんですか? でも、それなら問題はないと思います。私はシャルル兄さんが大好きですから……」
そう言って、また顔を近づけると兄さんはギュッと目を瞑る。まだキスに慣れていない懐かしい兄さんの素振りにクスリと笑みが溢れ、私は頬に軽くキスをする。
「シャルル兄さんは私の事が嫌いですか?」
「嫌いじゃないよ……。ただ……」
「ただ?」
「兄弟でキスなんて……」
キスした場面を思い出しているのか、シャルル兄さんは頬を赤く染めた後、私から顔を背ける。
「キスは私なりの兄さんへの愛情表現なんです。だから深く考えずに受け取ってもらえると嬉しいんですが……それではダメでしょうか?」
「ダ、ダメって訳じゃ……」
「では、いいんですね。嬉しいです、シャルル兄さん!」
兄さんが否定できないようリエンのように無邪気に抱きつけば兄さんはそれ以上何も言わず私の頭を撫でてくれる。
「シャルル兄さん。もうそろそろ帰らないと皆が心配します。一緒に帰りましょう」
「うん……」
兄さんに手を差し伸べると、少し恥ずかしそうに私の手を取る。兄さんの小さくて柔らかな手を握りしめ、私達は家路に向かった。
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