嫌われ者の俺はやり直しの世界で義弟達にごまをする

赤牙

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【番外編】ジェイドとリエンのやり直し

シャルルの悩み ④

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エレンを探しにと言って学園の中を探して回るが、俺はエレンがどこにいるのか検討もつかなかった。
そうこうしていると、始業の鐘が鳴り響き最初の授業が始まってしまう。

どうしよう……。
そう思っていると、イザークの足が止まる。

「やっぱり……俺は戻るよ。今更エレンと仲直りなんて出来ないよ……」
「どうしてそう思うんだ……?」
「だって……俺は今までエレンを子爵の子だからってバカにしてたんだぞ。酷い言葉だってぶつけて……そんな俺を許してくれるはずない……」

イザークの言葉と表情は、少し前の俺を見ているようだった。
ジェイドとリエンに酷い言葉をぶつけ服を切り刻み、引き返せないところまで落ちてしまった俺は悪い事をしてしまったと分かっていても謝ることはできなかった。

謝るなんてプライドが許さず、もし謝って拒絶されたら憎しみでさらに醜く怒りをぶつける自分が怖かった……。

イザークは俺よりも『侯爵家』という肩書きに縛られている。確かに爵位は貴族にとって大切なものだ……。
けれど……そんなもの爵位よりも大切なものがあるって事を俺はジェイドとリエンから教えてもらった。

「なぁ、イザーク。俺は少し前までイザークと同じような気持ちだったんだ……」
「えっ……?」
「新しく弟達がきて、父さんを取られた気がして……。イザークがエレンに言った言葉を同じようにぶつけて……嫌がらせをしたんだ……」
「そうなんだ……」

イザークは俺の話を聞き、バツが悪そうに俯く。

「けど、弟達は俺のことを嫌いになんかならなかった。どんなに酷いことを言っても俺の事が『大好きだ』って言ってくれるんだ。どんな時だって、こんな俺を支えてくれるって……。爵位が低いからって弟達のことをずっとバカにしてきたけど、本当に愚かなのは俺だったんだ……。なぁ、イザークは本当にエレンの事が嫌いなのか?」

俺の言葉にイザークは少し考えて首を横に振る。

「エレンのことは……嫌いじゃない……」

その言葉に繋いでいた手をぎゅっと握りしめる。イザークは顔を上げると不安げに瞳を揺らしていた。

「一緒に変わっていこう、イザーク」
「シャルル……。でも……」
「大丈夫だって。俺も変われたからイザークだって変われる。俺、弟達に『いつだって兄さんの味方でいる』って言われたんだ。その時、俺は一人じゃないんだって思えた……。イザークが不安になったら俺はいつでも話を聞くからさ……エレンに一緒に謝りに行こう。な?」

イザークは俺の手を握り返し小さく頷く。そしてポツリと言葉を漏らす。

「多分……エレンはあそこにいる……」
「イザーク……。エレンの居場所に心当たりがあるのか?」

イザークは頷くと、「こっち」と言って俺の手を引く。
イザークが向かった先は、旧校舎の美術室だった。
建物が古くなった旧校舎は今は物置場となっていてあまり人が寄り付かない。
ギシギシと軋む床を歩きながら美術室の扉を開くと、隅で小さく蹲るエレンの姿が見える。

「エレンッ!」

声を上げて駆け寄ると、エレンは目一杯に涙を浮かべる。そして、イザークの姿をとらえると険しい顔に変わった。
その表情にイザークは一瞬たじろぐが、グッと拳を握りしめ口を開く。

「エレン……。その……あの………酷いこと言ってごめん……」
「え……?」

エレンはイザークの言葉に目を瞬かせる。
まさか謝ってくるなど思ってもいなかったようだ。
エレンの反応にイザークはどうしていいのか分からず、そのまま俯いてしまう。
するとエレンが重い口を開く。

「僕のことを……バカにするのは我慢できるけど……母さんをバカにするのは……許せないんだ……。母さんは、ただ好きになった相手が侯爵家の人だっただけで爵位なんて求めてなかったのに……。君達は……僕や母さんの内面なんて何も見ないで勝手に見下して、傷つけて、嘲笑って……僕達は何も悪いことなんてしていないのに……」

エレンは顔をくしゃくしゃに歪め、ずっと心の中に溜め込んでいた言葉の全てを俺達にぶつけてくる。
エレンの本音にイザークは目を丸くし、自分の言動を思い返しながら下唇を噛む。

そして、エレンの言葉はイザークに向けられたものだけじゃなくて、きっと俺にもむけられている。
イザークが揶揄っている時だって、俺はイザークを止めることなどしなかった。俺もエレンを傷つけていたんだ……。

「エレン……ごめんな……」
「ごめん……」

俺とイザークが二人して頭を下げると、しばらくして蹲っていたエレンは立ち上がる。

「僕の方こそ……ごめんなさい。酷い言葉をかけちゃって……。でも、これが僕の本心なんだ」

エレンは涙を拭い俺達に話しかけてくる。俺とイザークは反省した面持ちで小さく頷く。
今日のエレンはいつもの弱気なエレンではない。今のエレンは、俺達が目を向けようとしなかったエレンの姿なんだ……。

俺とイザークが黙り込むと、エレンはゆっくりと俺達に近寄り少し緊張した表情を見せる。

「あんな事言ったけど僕、本当は……シャルルくんとイザークくんとずっと仲良くなりたいって思っていたんだ……。二人が仲良く話している輪に入りたくて……。でも、僕なんかが二人と仲良くなれるのか不安で……」

俺とイザークはエレンの言葉に顔を見合わせると、コクコクと首を縦に振る。

「俺もエレンと仲良くなりたい」
「うん……。俺も……もっとエレンのこと知りたい」

俺とイザークがそう返事すると、エレンは安心したように眉を下げた。


それから俺達は授業をサボったまま、旧校舎の美術室で互いの話をした。

エレンは自分の母親と新しい父親との新しい生活の話。
俺もエレンと同じように弟達や継母との新しい生活の話。
イザークは兄と両親が侯爵家としての誇りをいかに大切にしているか……そして、時折その重圧に耐えきれなくなってしまうという話をしてくれた。
イザークが初めて見せる弱音を俺とエレンは静かに聞いた。
三人で話に夢中になっていると、休み時間の鐘が鳴る。

「授業……無断欠席しちゃったね。先生怒ってるかな?」
「まぁ、適当な理由を言っておけばきっと大丈夫だよ」
「例えばなんて言い訳するだ、イザーク?」
「ん~……三人で食べたサンドイッチが腐ってて腹壊したとか?」
「なんだよその理由……」
「僕は腐ったサンドイッチは食べないかな……」
「なっっ! 俺も普段はそんなマヌケなことしねーよ!」

三人で笑い合いながら授業をサボった理由を考えるが結局答えは見つからず、次の授業が始まる前に先生に謝りに行くと少し怒られ沢山の課題が出された。
職員室を出て渡された課題の多さに三人で大きなため息を吐き、この量をどう片付けるか話し合いながら教室へと戻っていく。
俺の前を歩くイザークとエレンは仲良さそうに会話をしていて……俺はその姿を見てホッと胸を撫で下ろした。
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