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【番外編】ジェイドとリエンのやり直し
シャルルの悩み ③
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ここ最近、エレンの表情が暗い。
いつもならイザークに揶揄われても笑って受け流していたのに、最近は黙り込みなんだか泣きそうな顔をしている。エレンに声をかけようと思うが、なんと声をかければいいのか言葉が見つからなかった。
そして、エレンの事を考えるとジェイドの顔も一緒に浮かび上がる。エレンと同じように爵位の事で辛い思いをしていないか……。
そう思い、登校前にジェイドに話しかければ「大丈夫だ」と答えてくれる。
そうだよな……。
ジェイドは頭だって良くて俺なんかよりもしっかりしている。
それに、俺がどれだけ酷い言葉をぶつけても受け止める強い心も持っている……。
「そうか……。ジェイドは強いな……」
ポロリと漏れた言葉に、ジェイドは俺の手を握り真剣な顔をして『俺』がいるから頑張れるんだと言ってくれる。握られた手とジェイドの言葉に不安が少し薄らぐ。
ジェイドもリエンも俺が不安な時は、俺が欲している言葉をくれる。そして、二人は俺の味方なんだって思わせてくれる。
俺も……二人のようになれるだろうか……。
小さな義弟達は、いつしか俺の目標になりつつある。本当は二人の兄としてしっかりしなければいけないのに……。
それからジェイドと別れ、少し早めに教室に着くと俺よりも早く登校していたエレンの姿が見える。俺と目が合えばエレンは小さく体を揺らし、視線を逸らす。
「おはよう、エレン」
「……おはよう」
ボソボソと呟くような返事……。
いつもならもっと明るく挨拶してくれるのに……。
「なぁ、エレン……。少し話せないか?」
「えっ……?」
俺の言葉にエレンは目を瞬かせ驚いた表情を見せる。
「ダメ……かな……?」
「ううん……。いいよ……」
エレンはそう言うとまた俯く。
「最近、元気がないけど何か悩みがあるのか?」
「そんな事ないよ……。大丈夫だよ」
エレンは無理に笑顔を作るが、その笑顔を見て大丈夫だなんて思えない……。
「俺にはエレンが大丈夫そうには見えないよ……」
「だから……大丈夫だって!」
エレンはダンッと机を叩き、今にも泣き出しそうな顔で俺を睨みつけてくる。
エレンが初めて見せる怒りに、どうしたらいいのか分からずに固まっていると背後から不機嫌なイザークの声が聞こえ、俺達の間に入ってくる。
「おい、エレン! シャルルに何か文句でもあるのか!」
「イザーク。違うんだ。これは俺が……」
「こんな奴、庇わなくていいんだぞシャルル。こいつ最近になって生意気な態度を取り始めたから分からせてやらなきゃいけないと思ってたとこなんだ。子爵風情が調子にのって……そんなんだからお前の母さんも夜会で馬鹿にされんだ」
「——ッ!!」
イザークの言葉にエレンは拳をぎゅっと握りしめ下唇を噛み締める。その様子を見てイザークは笑みを深くする。
「夜会のことを兄さんが面白おかしく話してくれたんだ。俺だったら自分に釣り合わない奴を隣に置いておくのだって嫌だな~。その夜会がショックで、お前の母さん寝込んでんだろ? 自業自得だよ」
イザークが最後の言葉を投げ捨てた瞬間、エレンは飛びかかるようにイザークの胸ぐらを掴む。掴んだ腕は怒りに震え、今にも殴りかかりそうだった。
ここでイザークに手を上げれば確実にエレンが悪者になってしまう。
「エレン! 落ち着いて……」
イザークの胸ぐらを掴む手に触れ、落ち着くように声をかける。エレンは目いっぱい涙を溜め小さく震え……そっとイザークから手を離す。
そして、逃げ出すように教室から走り去ってしまう。
「な、なんだよアイツ! 俺に向かって……」
「イザーク。今のはイザークが悪い」
「でも……エレンが調子に乗って……」
イザークは自分のとった行動や放った言葉がどれだけ人を傷つけているのか分かっていない様子だった。
まるで……少し前の自分を見ているようだった。
「イザークは……俺が子爵だったら、エレンと同じような言葉をかけるのか?」
「え? 何を言ってるんだよシャルル……」
「俺がイザークよりも爵位が低ければ友達にもなってくれないのか?」
「それは……」
「なんだよ……。イザークは俺が侯爵家の人間だから友達でいてくれるのか……?」
言葉を詰まらせるイザークに、俺自身も胸が痛む。
俺はイザークにとってそんな存在だったのかよ……。
イザークをじっ……と見つめれば、罰が悪そうに俯く。
「俺は……シャルルの事は大切な友達だと思ってる。例え爵位が違ってもそれは変わりない……」
「じゃあ、エレンも同じだろ? 爵位だけで人を見るなんておかしいじゃないか。俺達は、たまたま侯爵家に産まれただけだろ。それ以外は俺達もエレンと何も変わらないんだから……」
イザークは俺の言葉を静かに聞いてくれる。
「……そうだな」
「今からでも遅くないからさ……エレンと仲直りしよう」
そう声をかけるとイザークは小さく顔を横に振る。
「エレンは……謝ったって俺を許してなんてくれないよ」
「そんなのやってみなきゃ分からないじゃないか。俺も一緒に謝りに行くからさ……。エレンを探しに行こう」
イザークに手を差し伸べると、不安そうな顔をして俺の手をとってくれる。
そして、俺達はエレンを探しに向かった。
いつもならイザークに揶揄われても笑って受け流していたのに、最近は黙り込みなんだか泣きそうな顔をしている。エレンに声をかけようと思うが、なんと声をかければいいのか言葉が見つからなかった。
そして、エレンの事を考えるとジェイドの顔も一緒に浮かび上がる。エレンと同じように爵位の事で辛い思いをしていないか……。
そう思い、登校前にジェイドに話しかければ「大丈夫だ」と答えてくれる。
そうだよな……。
ジェイドは頭だって良くて俺なんかよりもしっかりしている。
それに、俺がどれだけ酷い言葉をぶつけても受け止める強い心も持っている……。
「そうか……。ジェイドは強いな……」
ポロリと漏れた言葉に、ジェイドは俺の手を握り真剣な顔をして『俺』がいるから頑張れるんだと言ってくれる。握られた手とジェイドの言葉に不安が少し薄らぐ。
ジェイドもリエンも俺が不安な時は、俺が欲している言葉をくれる。そして、二人は俺の味方なんだって思わせてくれる。
俺も……二人のようになれるだろうか……。
小さな義弟達は、いつしか俺の目標になりつつある。本当は二人の兄としてしっかりしなければいけないのに……。
それからジェイドと別れ、少し早めに教室に着くと俺よりも早く登校していたエレンの姿が見える。俺と目が合えばエレンは小さく体を揺らし、視線を逸らす。
「おはよう、エレン」
「……おはよう」
ボソボソと呟くような返事……。
いつもならもっと明るく挨拶してくれるのに……。
「なぁ、エレン……。少し話せないか?」
「えっ……?」
俺の言葉にエレンは目を瞬かせ驚いた表情を見せる。
「ダメ……かな……?」
「ううん……。いいよ……」
エレンはそう言うとまた俯く。
「最近、元気がないけど何か悩みがあるのか?」
「そんな事ないよ……。大丈夫だよ」
エレンは無理に笑顔を作るが、その笑顔を見て大丈夫だなんて思えない……。
「俺にはエレンが大丈夫そうには見えないよ……」
「だから……大丈夫だって!」
エレンはダンッと机を叩き、今にも泣き出しそうな顔で俺を睨みつけてくる。
エレンが初めて見せる怒りに、どうしたらいいのか分からずに固まっていると背後から不機嫌なイザークの声が聞こえ、俺達の間に入ってくる。
「おい、エレン! シャルルに何か文句でもあるのか!」
「イザーク。違うんだ。これは俺が……」
「こんな奴、庇わなくていいんだぞシャルル。こいつ最近になって生意気な態度を取り始めたから分からせてやらなきゃいけないと思ってたとこなんだ。子爵風情が調子にのって……そんなんだからお前の母さんも夜会で馬鹿にされんだ」
「——ッ!!」
イザークの言葉にエレンは拳をぎゅっと握りしめ下唇を噛み締める。その様子を見てイザークは笑みを深くする。
「夜会のことを兄さんが面白おかしく話してくれたんだ。俺だったら自分に釣り合わない奴を隣に置いておくのだって嫌だな~。その夜会がショックで、お前の母さん寝込んでんだろ? 自業自得だよ」
イザークが最後の言葉を投げ捨てた瞬間、エレンは飛びかかるようにイザークの胸ぐらを掴む。掴んだ腕は怒りに震え、今にも殴りかかりそうだった。
ここでイザークに手を上げれば確実にエレンが悪者になってしまう。
「エレン! 落ち着いて……」
イザークの胸ぐらを掴む手に触れ、落ち着くように声をかける。エレンは目いっぱい涙を溜め小さく震え……そっとイザークから手を離す。
そして、逃げ出すように教室から走り去ってしまう。
「な、なんだよアイツ! 俺に向かって……」
「イザーク。今のはイザークが悪い」
「でも……エレンが調子に乗って……」
イザークは自分のとった行動や放った言葉がどれだけ人を傷つけているのか分かっていない様子だった。
まるで……少し前の自分を見ているようだった。
「イザークは……俺が子爵だったら、エレンと同じような言葉をかけるのか?」
「え? 何を言ってるんだよシャルル……」
「俺がイザークよりも爵位が低ければ友達にもなってくれないのか?」
「それは……」
「なんだよ……。イザークは俺が侯爵家の人間だから友達でいてくれるのか……?」
言葉を詰まらせるイザークに、俺自身も胸が痛む。
俺はイザークにとってそんな存在だったのかよ……。
イザークをじっ……と見つめれば、罰が悪そうに俯く。
「俺は……シャルルの事は大切な友達だと思ってる。例え爵位が違ってもそれは変わりない……」
「じゃあ、エレンも同じだろ? 爵位だけで人を見るなんておかしいじゃないか。俺達は、たまたま侯爵家に産まれただけだろ。それ以外は俺達もエレンと何も変わらないんだから……」
イザークは俺の言葉を静かに聞いてくれる。
「……そうだな」
「今からでも遅くないからさ……エレンと仲直りしよう」
そう声をかけるとイザークは小さく顔を横に振る。
「エレンは……謝ったって俺を許してなんてくれないよ」
「そんなのやってみなきゃ分からないじゃないか。俺も一緒に謝りに行くからさ……。エレンを探しに行こう」
イザークに手を差し伸べると、不安そうな顔をして俺の手をとってくれる。
そして、俺達はエレンを探しに向かった。
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